結団式での出会い・上
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「よく来た、諸君」
正式な編成として対魔族宮廷魔導士団の結団式の日が来た。
前回と同じアグアリオ団長の屋敷だが、人数が前回より少し増えている。
20人ほどで、男女混ざっているのは前と変わらない。
今日はジョシュア宰相もいる。
事前に隊服まで支給された。
耐魔銀の糸を織り込んだ水色の長衣と、紋章を刺繍した揃いの黒い皮鎧。
以前アルフェリズで見た騎士団もこんな風に揃いの衣装を着ていた。
こういうのを着ると師団の一員って感じになるな。
テレーザも同じ衣装だ。ちょっと誇らしげな顔で俺を見上げた。
魔法使いも前衛組も同じ衣装なのは珍しい気もするが。
部屋の正面に立っているアグアリオ団長とルーヴェン副団長だけが、羽織っている長衣のデザインが違うな。
ルーヴェン副団長が手をあげると全員が団長たちに注目した。
「いいか、今ここに居るものは様々だ。冒険者、騎士……貴族も序列は様々だ。
だが、言っておく。この師団において身分の差も序列の差もない」
静かにアグアリオ団長が話し始めた。
隊服が全員同じなのはそれを示す意図があるのかもしれないな。
「そこのライエルとテレーザは中位魔族の討伐経験があるが……おそらくこの中で魔族との交戦経験がある者はほとんどいないはずだ。
まずは知っておいてもらうが……」
そう言って、アグアリオ団長が俺とテレーザの方に視線を向けた
「魔族は物理攻撃に高い耐性を持っている。よって、この師団は前衛が魔法使いを守り、魔法使いが魔族を討つ。
しかし勘違いするな。もう一度言う。どちらが上でも下でもない」
小さくあちこちから囁き声が上がった。
不満なのか何なのか。それぞれ色々と思うところがあるんだろうな。
「ただ敵を倒すために戦え。勝利のために仲間を守れ。仲間はお前を守る。
功を焦り隊列を乱すものは私が許さん。分かったか」
団長が言葉を切って全員を見回した。
「そして、金も栄誉も平等に与えられる。金を望むなら金を、家名の栄誉を求めるなら栄誉を。すべてを宰相殿が保証してくださる」
そう言って、念を押すような感じでアグアリオ団長がジョシュア宰相を見る。
表情を変えないままに、ジョシュア宰相が代わりに話し始めた。
「非公式であるが……各地の冒険者ギルドから魔族との交戦報告が寄せられている。まだ不確実な話ではあるが、私がこの師団の編成を進言した。
諸君らの戦いには私が必ず報いる。約束しよう。我が国と王と民のために諸君らの健闘を期待する」
ジョシュア宰相が話を終えて今度はルーヴェン副団長が前に出てきた。
「東部のサファル・アナからオーグルの大量発生の報告が寄せられている。
トロールも複数混ざっているとのことだ。まずは我々はそこへ討伐に向かう。
出発は2日後だ。皆、戦いに備えよ」
◆
訓示が終わってホールに食事が運び込まれて、立食のような感じの軽食パーティのようになった。
英気を養うのと顔合わせってことらしい。
メイドさんがてきぱきと料理を皿に取り分けてくれたり、グラスを運んでくれる。
自分で何もしなくていいのは楽だが、なんとなく落ち着かないな。
テレーザは当たり前って顔をしているから、貴族はそういうものなのかもしれない。
胡椒を散らした塩漬け鱈をフォークで取って一口食べる。
柔らかく戻した塩漬け鱈のほんのりした塩味とオリーブオイルの風味が何とも言えずにいい。
いかにも上品というか手の込んだ味だ。
周りはそれぞれ談笑しているが、こっちをちらちらと見てはいるものの俺達には誰も近寄ってこようとしない。
遠巻きにされている感じだが……まあ悪気はなさそうでもある。
何人かと話したが何やら緊張していた。近寄りがたいってところだろうか。
この間のマヌエルとの戦いがどういう風に伝わっているのか知らんがなにやら恐れられている感じもあるな。
比較的年齢が若い上に、貴族とか騎士出身者が多そうだからそれもあるんだろうが。
「楽しんでいるかな?」
声を掛けてきたのはルーヴェン副団長だった。
「はい」
「ええ、美味しいです。ありがとうございます」
「それは良かった。我が団長殿はこの辺りは無頓着なのでね、私が仕切らせてもらったのだが」
ルーヴェン副団長が言う……ジョシュア宰相の直属の騎士で、この師団の副団長だ。
貴族のはずなんだが、なにやら気配りの人だな。
短く整えた茶色の髪と口ひげので、優し気な紳士って感じの整った細面だが、近くで見ると細身に体にしっかり筋肉が付いているのがわかる。
歩き方一つとっても姿勢の揺れが無く隙が無い。お飾りのお目付け役じゃないな。
「テレーザの火力は言うまでもないが、君の経験と防御能力には期待しているよ、ライエル」
「そういえばずいぶん小所帯なんですね」
魔族と戦う師団というからもっと人数が多いのかと思っていたが。
「そうだね」
ルーヴェン副団長が頷いた。
「この師団は宰相殿の強い提言で編成されたが、王陛下はあまりいい顔をされておられない」
「そうなんですか?」
「この師団の編成のためにあちこちの騎士団や魔導士団から有望株を引き抜いたし、君のような冒険者上りもいる。魔族が現れていると言ってもその脅威はまだ漠然としたものだ。
王陛下がこんなものが必要かと思われるのもやむを得ない所だな」
叙勲式の後の王の態度がとげとげしかったのもそれが関係しているのか、どうなのか。
「まあその状況を踏まえると、手柄を立てるのが我々にとって最も大事なことだ。君には期待しているよ、ライエル、テレーザ」
「はい、副団長殿」
テレーザが生真面目な口調で答える。
ルーヴェン副団長が頷いて、他のグループの方に歩み去っていった。





