顔合わせの場の乱入者・上
叙勲式から1週間。
今日はテレーザと一緒にアグアリオ団長の私邸に呼ばれてきた。
貴族の家としては小さめの屋敷の、大きめのテーブルとイスだけが置かれた簡素な広間には他にも何人か見たことが無い男女の姿がある。
おそらく彼らも対魔族の宮廷魔導士団のメンバーなんだろう。割と若くて身なりもいい。
若手の貴族で編成されているんだろうか。
冒険者上りは俺だけかもしれない。
暫くの間があって、ドアが開いてアグアリオ団長と、もう一人が入ってきた。
「よく来た、諸君」
アグアリオ団長が短く言う。
僅か一言だが、全員が姿勢を正した。やはり何とも言えない威圧感があるな。
アグアリオ団長が俺達を眺めた。
「私からお前たちに求めるのは一つ、その能力を発揮し魔族と戦う事、以上だ」
アグアリオ団長が言って後ろの男に目をやった。
「細かいことはこの男が仕切る。副団長のルーヴェンだ。あとは任せる」
「はい、団長殿」
生真面目な顔で頷いて進み出てきたのは俺と同じくらいの年のルーヴェン副団長。
短く切った濃い茶色の髪と整えた口ひげがなんとなく上品な印象だ。
目元も優し気で温和な学者風だが、前衛の恩恵を持っているらしい。
事前に軽く紹介されたが、ジョシュア宰相の旗下の騎士なんだそうだ。
戦闘以外やる気がない団長の補佐の役回りだと聞いたが。団長の態度を見る限り、確かにそんな感じだな。
「諸君らはそれぞれ高い恩恵を有するものだ。その能力を認められたからこそここにいるのだ。家名に恥じぬ働きを期待する」
ルーヴェン副団長が言う。
テレーザが誇らしげに頷くが、周りは嬉しそうな顔、不安げな顔、それぞれ表情は違うな。
「魔法使いの護衛役の前衛は今選抜中だが、何人かは決まっている。そこの練成術師、ライエルもそうだ」
そう言ってルーヴェン副団長が俺を見た。
「……と言いたいところだが、ライエル。お前はテレーザの護衛ということになっている。だが、まだ確定はしていない」
そういうとテレーザの顔がこわばった。
「どういうことでしょうか?」
「こういうことだ」
不意にドアが開いて何人かの男が入ってきた
◆
入ってきたのは、前と同じような青の豪華な服に身を包んだフェルナンだった。
相変わらず生っ白い顔には、今日は見下した笑みじゃなくて敵意が張り付いている。
その後ろにはマヌエルと前に見た二人の男。
ただ違うのは、三人とも武装していることだ。それぞれ剣と盾を持ち鎧に身を包んでいる。
「この者たちが王への忠誠と身内たるテレーザをまもるという貴族の義務感のため我が師団に志願した。テレーザの護衛役は自分たちがふさわしいとのことだ」
「で、諸君らの希望はなんだ?」
アグアリオ団長が感情を交えない感じで聞く。
「模擬試合による腕試しを希望します……我が実力をご覧いただきたい」
マヌエルが言ってこっちを向いた。
「前に言っただろう、僕の実力を見せるとね」
「確かにA帯は実力者だが、長くやってなんとなく上がったような奴もいる。
冒険者は己の目で見たものを信じる。我が師団に役立たずは要らん。より強いものを残す」
アグアリオ団長が言う。
「実に賢明ですな、さすがはアグアリオ卿。得体のしれん冒険者より我が息子たちの方がお力になれますぞ」
フェルナンが芝居がかった口調で言った。
「彼は1人で護衛を務めると言っていますが、我々は3人で彼女を守ります。ならば3人で戦うのが公平というものでしょう」
「まさにその通りですな。アグアリオ卿、如何ですか?」
マヌエルが言う。アグアリオ団長が少し考え込んだ。
「そうだな。尤もだ」
「それは!あまりにも!」
テレーザが声をあげるが、アグアリオ団長はそれに冷たく一瞥をくれただけだった。





