彼女の友達
どうやらテレーザの友達らしい。貴族風だし雰囲気も魔法使いっぽいからアレクトール魔法学園の同期とかそんなところだろうか。
そういえば、オードリーと話していたときに一緒に歩む友達を見つけろ、と言ってたな。
この子がそうらしい。
「君、テレーザの友達か?」
「友達じゃないわ。私はあの子の……そう、姉よ」
姉貴分、ということなんだろう。血筋的な意味ではなく。
「姉として、頼りない男に護衛を任せることなど出来ないわ」
「錬成術師は時代遅れで気に入らないかい?」
「練成術師が時代遅れとかそんなことはね、どうでもいいのよ。あんたが彼女を守るにふさわしい男か、大事なのはそれよ。それを証明して見せなさい」
そう言って彼女が俺を指さす。
まあなんというか……心配するのは分かる気がするな。練成術師はそういう評価になってることは事実だ。
「ところで、証明して見せなさいって、きみと戦えばいいのか?」
「あなたの相手をするのはこいつよ。アステル。ボケっとしてないの」
そう言うと男の方が短い髪を一掻きして俺の方を見た
「アステル・ステラメアリ。どうやら俺が相手するらしいですよ。よろしく」
彼がそう言って頭を下げてくる。
何やら随分強引な話だが……あいつの友達だっていうなら無碍にはできないな。
カップのお茶を飲んで壁に立てかけた刀を取る。
「で、どこでやるんだ?」
冒険者の間で練習のための試合自体をすることは珍しくない。
ギルドにも大抵はそのためのスペースが併設されているが。
「アレクト―ル魔法学園よ。訓練施設があるわ。あそこが一番いい。行くわよ」
そう言ってカタリーナがさっさと店を出て行った。
◆
辻馬車を拾ってアレクト―ル魔法学園に向かった。
馬車がしばらく走って街を出ていく。草原の向こうに城のような建物が見えてきた。
茶色の石造りの長い壁の向こうには尖塔がいくつも見える。
「あれが?アレクト―ル魔法学園か?」
「そうよ」
「城じゃないのか、王様の別荘とか」
「違うわ」
馬車が近づくと、想像した以上にバカでかい建物がそびえたっていた。
これは何というか凄いな。アルフェリズの領主が住んでいる城よりデカいぞ。
正門前に辻馬車がついて馬車を降りた。
カタリーナがさっさと建物の中に入って行って、それの後ろにアステルが付き従っていく。
ついて来いってことだろうな。
今は休暇中なのか、人の姿はまばらで立派な石造りの建物の中には静けさが漂っていた。
生徒らしき子供や恐らく講師とか師範のような俺より年上のやつが怪訝そうに俺を見ていくが、カタリーナが言葉を交わすとすぐに引き下がった。
地位の高い貴族なのか、余程優秀なのか。どっちかまでは分からない。
「ここよ」
連れていかれたのはドーム状の闘技場だった。足元には薄く白い砂が敷き詰められていて周囲は淡く光る白い石でできている。
窓は無いがその光のおかげで早朝位の明るさはあった。視界には不自由しないな。
「ここは魔法闘技場よ。特殊な魔法陣が貼られていてダメージを軽減してくれるの」
「まあ当たると痛いがね」
カタリーナが言った後にアステルが軽い口調で補足してくれた。
なるほど。
「つまり、全力で戦っても問題は無い。死にはしないわ。あなたの力、見せて見なさい」
「でも、痛いもんは痛いぜ」
また軽口を叩いてカタリーナがアステルをじろりとにらんだ。
「さあ、ライエル。貴方はテレーザが選んだ護衛だから……あの子の気持ちは尊重はしてあげたいけどね、あの子はまだ見る目が子供だから。
姉として私がしっかり支えてあげないとダメなのよ。分かったわね」
そう言ってカタリーナが試合場の隅に下がっていった。
なんというか強引というかおせっかい焼きな感じだな。ただ、本当にテレーザのことを心配してる感じはするから、嫌な感じはないが。
「色々大変だよな、ライエルさんよ」
アステルが体をひねったりして準備体操をしながら声をかけて来た。
「なにが?」
「お互いなんていうか気が強い相方でさ……テレーザもなかなかだろ」
やれやれって顔でアステルが言う。
「どうかな」
あいつの本質的な部分はまだ見えないが。
ただ、あの突っ張った態度は多分虚勢もあるんだろうと思う。でも気が強いのはあってるな。
「まあ、こんな形だが俺はアンタとやれてうれしいよ。中位魔族であるヴェパルと渡り合った風使い……それによ、ローランを倒したのもアンタだろ?」
なんとなくだが。
ローランと俺やテレーザが戦ったことは緘口令が敷かれているんだろうな。と言う気がする。
偉い貴族らしいし、主席と次席が戦ったなんて不祥事もいい所だからな
「さあね」
とぼけるなよ、と言う顔でアステルが俺を見た
「改めて。アステル・ステラメアリ。テレーザと同じ実戦魔術学部で、冒険者志望だ。
あんたのランクはいくつだい?」
「今はA1だ」
トロール、バフォメット、ヴェパルとの三連戦でA3から一気にA1に昇格した。
フリーの冒険者ならパーティ加入の時に箔が付いて有利になるかもしれないが、テレーザの護衛をやるんならあまり意味は無いな。
「現役冒険者のA帯上位相手にどこまで俺が戦えるのか試せるなんて有難いね。まあよろしく頼むぜ」
そう言って手を差し出してくる。軽く握手をした。鍛えた硬い掌だ。
気さくな感じで、エリート校の魔法使いというより、訓練施設を出たての自信満々の若手の戦士って感じだ。
アレクト―ルの生徒なら魔法使いだと思うんだが、魔法使いっぽくないな。
「俺は序列八席だが……一応言っておくと、単純な戦闘実技なら俺が一番だ。甘く見ないでくれよ」
「ああ、もちろんだ」
相手がだれであろうが油断はしない。過度に恐れもしない。
油断は隙を生む。恐れは判断を鈍らせる。
平常心は大事だ。
◆
アレクト―ルの学生はこれで会うのは四人目、戦うのは二人目だ。
一般的には駆け出しを相手取るのは難しくないんだが……ローランを見る限り、学生で実戦経験が無いからと油断できる相手じゃない
「一応聞くが、本当に全力でやって大丈夫なんだろうな」
勢い余って致命傷なんてことになるのは絶対にお断りだ。
食らうのも食らわせるのも。
「安心しろって、大丈夫だ。テレーザの魔法の直撃を食らったことあるけど、俺は死んでねぇよ」
「なるほど」
「まあ医務室送りになったがね」
死なないなら良しとすべきなのかどうなのか。
まあ効果のほどは分からんが、死にはしないんだろう。刀を抜いて深呼吸する。
十歩ほど下がった。足元は砂地だがその下は硬い石畳。
脚を取られるほどじゃないな。周囲はかなり広くて天井も高い。
「距離を開けていいのか?」
「詠唱の時間がいるだろ、魔法使い」
アステルがにやりと笑った。
「ほーう。余裕だな」
「先輩からのプレゼントだ」
武器を持っていない以上、こいつは何らかの魔法を使ってくることは間違いない。
魔法使い相手なら詠唱をさせないように近い距離で刀で切りつける方が簡単ではあるが。それではあのカタリーナは納得するまい。
「ありがたく受け取っておくよ、先輩。
【太陽と月、昼と夜、生と死。すべてを司るは円環。其は森羅の理なり】」
そう言うとブロードソードほど大きさの白く輝く円状のものが周りに浮かび上がった。6本。
「行くぜ!風使い!」
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