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血戦・下

「流石です。瞬間的な状況判断も魔法の選択も素晴らしい。

我々3人相手に戦える練成術師はそうはいないでしょう」


 ローランが感心したって感じで手を叩いた。


「しかし、さっきの雷撃がおそらく最後の大技だ。違いますか?」


 確信に満ちた口調でローランが言う。なにか探知センス系の魔法を使ったのかもしれない。

 実際の所、確かにもう殆ど魔法は打ち止めだ。


「冷静に考えなさい、賢明にね。もう打つ手はない。分かるでしょう?」


 剣を握りしめた。実は最後の切り札はある。あるんだが。


 だが。テレーザとローラン、ウォーハンマーの戦士と俺の位置を見た。

 二人を同時に捉える広さの雷撃を撃てば無防備なテレーザを巻き込んでしまう。


 そもそも風を飛ばすためにも雷撃を撃つためにも詠唱の間が必要だ。

 そして、それがローランに効果があるのかは分からない。

 

 自分の中の冷静な部分が言う……詰み手(チェックメイト)だ。

 どうやっても間に合わない。


 ローランが満足げな顔で俺を見て、懐から袋を取り出した。 


「拾いなさい」


 袋が砂浜に投げられた。硬いものがぶつかる音がする……多分金か


「証言者は多い方がいいですからね。それにあなたは殺すには惜しい。跪いて拾いなさい。

恥じることは無い。あなたは良く戦いました。心を改め、正しさに従う時です」


 ローランが言う。


「そもそも、テレーザがどうなろうと貴方には関係ないでしょう。こんな女より大事な姪のことを考えなさい」


 そう言ってローランが腰の剣を抜いた。


「ですが、これが最後の警告です。拾わないなら、貴方にも死んでもらうことになる」


 ……二呼吸分。

 二呼吸の間が欲しい。詠唱の間。それさえあれば。


「さあ、答えを……」

「ローラン様!」


 突然戦士が警告を発した。ローランがテレーザの方を向く。

 何が起きたのか分からなかったが、ローランがテレーザの方に駆け寄ってそのまま蹴りつけた。



 小さな悲鳴が上がって華奢な体が砂の上に転がる。

 一瞬遅れて白い針のようなものが無数に空中に浮かんだ。


 二人が飛びずさる。

 白く光る針が次々とローランと剣士に雨のように降りそそいだ。戦士が光の針に刺し貫かれて倒れる。

 ローランの防具の結界と針がぶつかり合って光を放った。


「やってくれるな!主席殿!」

 

 結界は破れていない。

 ぐったりと動かなくなったテレーザの前にローランが立った。


 ローランが剣を振り上げる。完全に意識を失っているのか、テレーザは動かない

 勝ち誇ったような不快気な笑みが良く見えた。


「守れはしない!愚か者め!次はお前だ」

「風司の5番【天空を征く戦船。左舷に備えし砲を放て】」


 高々と振り上げられた剣が一瞬きらめいた。だが。

 10万クラウンを支払っても欲しかった二呼吸の間。無駄にはしない。

 

 俺の詠唱が聞こえたのか、ローランがぎょっとした顔をする。だがもう遅い。

 鋭い切っ先がおろされるのがやけにゆっくり見えた。


「【轟雷が砕くは竜骨と帆柱、地に横たわるは其の骸】」


 剣を突き出した。

 全身から力が抜けて熱いものが喉からこみあげてくる。血だということが何となくわかった。

 目の前が真っ赤に染まって何かが割れるような音がする。


 同時に剣の先に白い雷球が膨れ上がった。

 雷球がローランに向かって飛ぶ。剣が振り下ろされるより速く白い雷球がローランに着弾した。

 





 

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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
― 新着の感想 ―
[一言] 投稿がはやーい!!こういう数で負けてるバトル、いいですね。
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