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その本当の恐ろしさ

「信じられん……無傷だと?」


 さすがにテレーザが動揺を隠しきれないって感じで言う。


「私の火属性魔法の最上位だぞ」

「驚いてる場合じゃない!次の切り札は無いのか?」


 人間相手ならともかく、倒せないから降参します、はこいつに通じるはずもない。

 戦って倒すか、イチかバチかで逃げるか。倒せなければ待つのは死だ。

 火力では俺よりテレーザの方が上だ。こいつの魔法で倒せなければお手上げだぞ。


「ある……が」


 そう言ってテレーザが口ごもった。


「なんだ?」

「私の最大の魔法をぶつける。詠唱が長い。なんとか持たせてくれ」


 普段でさえ長いのに本人がそう言うんだから相当だろう。だが選択の余地はない。


「任せろ」

「頼むぞ。【書架は北・想像の一列。十頁九節。私は口述する】」


 テレーザが詠唱に入った。

 

 改めてその魔族を観察する。

 相変わらず杖を持ったまま動かない。

 さっきの魔法の効果は全くなかったらしい。

 黒く波打つようなローブもねじくれた杖も、薄く光るカンテラとローブの下の顔らしきものも、最初に見た時と全く姿が変わらない。


 同じ魔族でも大柄でデカい剣を持っていたバフォメットと違って物理攻撃を仕掛けてくるって感じではない。

 ただ、さっきのを見る限りこの霧自体がこいつの防具であり武器みたいなものなんだろう。


 姿は小柄だがバフォメットをはるかに超える底知れなさがある。

 まるで夜の真っ暗な海や森の奥を覗いているようだ。底知れない深淵を見ているかのような感覚。


 だが、相手が何であれやることは変わらない。テレーザの詠唱の時間を稼ぐ。

 どのくらいの時間を稼げばいいのか。

 とりあえず風でなにかしても大して効果はなさそうだが、黙ってみていても仕方ない。

 

「これでも食らえ!」


 剣を振って風の塊を作る。風の塊が次々とそいつにぶつかった。続いて風の斬撃。

 水の塊のような体が風の塊で歪み風の刃で両断されたが、さっきとおなじように何事もなかったかのように元に戻った。


 何度か戦ったスライムを思い出す感じだ。 

 ただ、スライムは厄介な相手ではあるが、核があってそれを切れば俺でも倒せる。火属性や氷属性の魔法にも弱い。


 が、こいつはそんな弱点があるんだろうか。

 一応さっきも顔のような場所や杖のそれっぽい場所を狙ってはみたが、何の効果も無かった。

 ローブの奥の光が俺をもう一度見た。ねじくれた杖を打ち付ける


「თევზის ნაკბენი」


 聞きなれない言葉が響いて杖の先のカンテラがにじむような光を放った。

 靄がうごめいて意思があるかのように向かってくる。

 

「風司の71番【数多の侵略を退けた十層の城壁のごとく、風よ立て】」


 強い風の壁が立ち上がる。

 靄が風に飛ばされて押し返されるが、風の壁から滲む出すように薄い靄がこっちに迫ってきた。


 バフォメットの炎と同じだ。単なる自然現象じゃない。

 うすい靄が染み込むように触れて、鎧と布の下の肌に痛みが走った。顔や剥き出しになった手の肌に血がにじむ。

 何か小さな刃物か爪に引っかかれているようだ。


「……この程度か?」


 靄が薄いせいなのかもしれないが、これくらいなら大したダメージじゃない。


 魔族にはいろんな種類がいて、必ずしも攻撃力が高い奴ばかりではない、ということくらいは知っている。

 人の欲望を叶えて大切なものを奪い去ったりするようなものもいるらしい。


 勿論油断はできないにしても……スケルトンを生み出す力はともかくとして、そこまで直接的な攻撃力は無いのかもしれない。


「ზღვის გაფუჭება」


 靄がまたまとわりついてくる。

 不意に傷口から激痛が走った。

 掌や布越しに血煙が吹き上がる。靄に触れた手のひらからにじむ血が赤から黒に変わって針で刺されたかのような小さな傷口が腐ったように崩れていく


「なんだ……これは?」


 全身を焼くようなすさまじい痛みが突然やってきて、一瞬で意識が飛んだ。


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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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