表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/145

オードリーとメイ

 翌日朝。

 少し早めに起きて宿を出た。いい天気だ。朝日が眩しい。

 目抜き通りを抜けて丘の方を目指す。


 目抜き通りは昨日の騒ぎがウソのようにきれいに片付けられていた。

 俺達が宿に戻ってからも騒ぎ声は聞こえていたが。そのあとに片付けまでやったのか。


「どこへ行く?」


 のんびり歩いていたら、後ろから突然声を掛けられた。

 テレーザだ。会わないようにこっそり出てきたつもりだったが。もう起きていたとは。


「ちょっとな」

「こんな朝早くになんなのだ」


 テレーザはもう普段通りに服を着ていて出発準備万端って感じだ。 

 そんなにさっさとアルフェリズに戻りたいのか。


「一応言っておくが、まだ路面汽車トラムは動いてないぞ」

「それは分かっている。それで?」


 テレーザが答えを促してきた。

 別に隠すようなことじゃないからいいか。


「一緒に来るか?」

「どこへだ?」


「くればわかるさ」


● 


 この町も坂が多いが路面汽車は走っていないから上るのは少し体力を使う。

 ちょっと街外れなこともあって、アルフェリズの整えられた石畳に比べると凸凹も多い。


 狭めの道路を長い塀が挟んでいて、溝か谷の中を歩いている感じになる

 時折伸びる木が適度に日陰を作っていて暑さを和らげてくれていた。


「ところで一つ聞くが」

「なんだ?」


 後ろから声が聞こえた。


「昨日は私は眠ってしまったと思うが……宿の者が運んでくれたのだろう?

だとしたら宿の者に迷惑をかけてしまったな。

いや、私としてはそんなに飲んだわけではないが。やはり野営が続いたからな。

正直言ってあれはまだ慣れない。疲れが出ていたのだろうと思う。すまないことをしてしまったな。

後で詫びねばならないと思っているよ」


 普段と違って妙に饒舌だ。


「いや、俺が運んだ。案外軽かったから大したことは無かったぞ。安心しろ」


 そういうと後ろの声がぴたりと止んだ。


「一応言っておくが、着替えさせたのは俺じゃないぞ、宿の……」


 言い終わるより前にドンと後ろから押された。とっさに石畳の手を突く。


「お前な……」

「どうした、くぼみにでも引っかかったのか?」


 その横を顔をそむけたテレーザがすたすたと歩いていった。

 押された、と言うか今のは蹴られたな

 礼を言えとは言わんが……蹴ることはいだろうに。


 というか、ただ運んだだけだというのに、なぜそんなに怒るのだ。

 理解できん。



 しばらく階段を歩くと塀を切り取る様につけられた見慣れた門が見えて来た。

 パルカレル王国の国教であるイヴェリースの紋章が彫刻されている。ただし門は結構くたびれた感じになっているが。


「ここは?」

「孤児院だ」


 門に付いたノッカーを叩くとすぐに門が開けられた。

 門の間から初老の女の人が顔をのぞかせて、すぐ親し気な笑顔を浮かべる。


「ああ、ライエルさん」

「お久しぶりです。シスター」


 何度か来ているから馴染みになっている。この孤児院のシスターだ。


「いつも篤志をありがとうございます。ライエルさん。助かっております。ご活躍のようですね」

「ええ、おかげさまで」


「しかしなぜここに?」

「ここしばらくこの町で討伐任務をしてましてね」


 そういうと、シスターがなるほどって顔で手を打った。


「ああ、町で噂になっていた二人組の冒険者が魔獣討伐の依頼をすべて終わらせた、というのはあなただったのですか?」

「ええ。昨日のパーティは来られましたか?」


「いえ、でも料理は分けていただきました。皆喜んでいましたよ」

「それはよかった」


 どうやらおすそ分けがこっちにも届いていたらしい。


「ああ、立ち話は失礼でしたね。お入りください

メイフェア、オードリー、ライエルさんがお越しですよ」


 シスターが呼ぶと、建物の中からバタバタと走る音がしてドアが開いた。

 二人の女の子が走り出てくる。俺の顔を見てぱっと表情が明るくなった。


 確か11歳と9歳だっただろうか。

 二人とも姉譲りのつやのある茶色の髪だが、姉のオードリーは長く伸ばして三つ編みにしていて、妹のメイフェアは短くしてる。


 優し気な雰囲気を漂わせるオードリーと、背が小さめで活発なメイ。

 俺の目から見ても可愛いと思う。オードリーは姉さん、メイには義兄さんの面影があるな。


「おじさん!」

「久しぶり!」


 二人が駆け寄ってきて抱き着いてきた。

 前に会ったのはいつだったか。半年ぶりくらいだろうか。前より少し背が伸びたな。


「前に会いに来てくれてからもう半年だよ」

「遅いよ」


「ああ、すまないな。色々あってね」


 特にこの1か月ほどは本当に色々あったな。


「いつもありがとう、おじさん」

「ねえ、この人は?」


 抱き着いたまま、二人がテレーザを見上げる。


「今の俺の相棒だ。魔法使いのテレーザだ。こいつらは俺の姪だ」


「よろしくお願いします。オードリーです」

「初めまして、メイフェアです。メイってよんでください」


 二人がパッと俺から離れて、元気よく挨拶する。

 テレーザがようやく合点がいったという顔で周りを見回した。



 面白いと思っていただけましたら、ブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】からポイント評価をしてくださると励みになります。

 感想とか頂けるととても喜びます。


 応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お楽しみいただけたでしょうか。此方も良かったらご覧ください。 講談社レジェンドノベルスより2巻まで発売中。 5oqs3qozxile2g75rz843gq5sgq_zyw_go_oh_2u
普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ