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祝宴の夜に

 月がすっかりと天頂に上がった。

 海から流れてくる夜風が涼しくて気持ちがいい。ほんのりと海の匂いがする。


 普通ならもう皆が寝ていて町はひっそり静まり返っている時間だと思うが。 

 誰一人帰ろうとしない、というか、むしろ人が増えているな。 

 

 料理を作ってくれていた人や給仕をしてくれていた女の子も交じって、皆が酒を飲み料理を食べて楽しく歌っている。

 歌声と楽器の音、賑わいと笑い声が波のように聞こえた。


 しかし、魔獣と戦い続けてはいたが、ここまで派手なのは初めてだ。 

 テレーザに先輩ぶっていったが、こんなににぎやかになるとは思わなかった。


 テーブルの上の料理はだいぶ減っていた。大きく切った肉を一口頬張る。

 テレーザはさっきから静かだ。普段ならもう寝ていてもおかしくない時間ではあるが。


「大丈夫か」


 声を掛けたらテレーザが俺を見た。

 片眼鏡の向こうの青い瞳が俺をまっすぐ見つめている。


「……お前には感謝している……ライエル」


 不意にテレーザが言った。


「魔獣と正面から対峙するお前に敬意を払う……お前がいなければここまで来れなかった」


 グラスに入った何かに口をつけながらテレーザが言うが……


「飲みすぎか?大丈夫か?」


 あまりにも普段と違いすぎる言動だ。

 正直言って酒でも飲みすぎたかって感じだが。


「少し飲んだが、素面だ。この私が酒に飲まれるなんてことはない」


 心外だって感じの返事が返ってきた。

 珍しいくらいストレートな礼だな、と思ったが……でもこいつはいつもそうかもしれない。

 普段からこいつはこんな言い方だ。ストレートで素直。

 言葉通りの意味なんだろう。


「そうか……そう言ってもらえると嬉しいね」


 もう一口飲んだ酒はさっきより美味い気がした。


「俺も感謝しているよ」

「なぜだ?」


路面汽車トラムの車掌になって余生を送るかとか思っていたからな」


 こいつが声を掛けてこなければ。その可能性は十分にあり得たと思う。

 テレーザが露骨に顔をしかめた。

 

「馬鹿なことを言うな。お前のような錬成術師が……重大な損失だ。

そんな決断をしようとしていたのなら愚かとしか言いようがないぞ」

 

 テレーザが真顔で言ってワインを一口飲む。

 街灯の赤みがかった光のせいで分かりにくいが、顔が赤い。酔ってるな、多分。

 

「まあ……俺達はいいパーティだ。そうだろ」

「その通りだ」


 テレーザがグラスを掲げる。軽くこっちのグラスも触れ合わせた。

 

 それからしばらくしてテレーザは魔力が突然尽きたかのように寝てしまった。

 いい機会だから俺も宿まで引き上げた。テレーザは意外に軽かったので助かったな。

 


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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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