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俺について

 後日正式に討伐評価と報酬が支給された。

 バフォメットの討伐評価と報酬は予想より大きく、テレーザは満足げだった。

 俺としても収入が増えるのはありがたい。


 今回の臨時収入の一部を送金して風の行方亭に戻る

 ドアが開いていて、中から話し声が聞こえた。一つはテレーザ、もう一つはマスターだ

 特に気にする必要のある組み合わせでも無いかとおもって入ろうかと思ったが。


「ライエルについて一つ聞きたい」


 その言葉を聞いてなんとなく足が止まってしまった


「なんだい、お嬢さん」

「お嬢さんは止めろ。魔術導師ウォーロックとよべ」


 あいつは、このやり取りをマスターともしているのか。


「はいはい、それで、なんだ?」

「ライエルは名匠マエストロだと聞いた」


 久しぶりに聞いた二つ名が耳の飛び込んできた



「よく知っているな」


 マスターが答えた。

 たしかに、俺のこの二つ名を知っている奴もずいぶん少なくなったと思う。


「私の知る限り、名匠マエストロは攻防兼務の冒険者に与えられた二つ名だ。だがライエルの防御は実に素晴らしいが攻撃系の術は殆ど使っていない」

「それで?」


「だが先日、ライエルが雷撃の魔法を操るのを見た。あの威力なら名匠マエストロと呼ばれるのも分かる」


 そう言ってテレーザが言葉を切った。


「だが、なぜああなっているかがわからない。攻撃もできる方が良い条件でパーティに加入できるだろう」

「まあそうだろうな」

 

「まさか、手を抜いているのか?」

「そんな奴に見えるか?」


「いや、そうは思わない。だから聞いている」

「なぜそんな事を聞く?」


「冒険者は仲間の能力を正確に把握すべきだ、そうではないのか?」


 マスターがしばらく沈黙した。


「……まあいいだろ、教えよう」



「あいつはかつてパーティを組んでいた。姉と姉の旦那」

「身内のパーティか?」


「知らないか?だが珍しくはない。身内ってのは一番信用できるからな」


 彼女が静かに間を置いた

 店の前を通る奴が俺を怪訝そうに見ていく。

 

 この間、トラムの中で聞こうとしていたことは多分これだな。

 聞かれて気軽に答えることじゃないが、絶対に隠さないといけないってものでもない。

 触れてほしくない話というほど深刻じゃないが、積極的に話すものでもない。

 まあ、微妙な話題ではある。


「あいつは確かに攻防兼備の錬成術師さ。本来はな。20歳にして名匠マエストロだ。知らないかもしれないが、剣の腕もかなりのものなんだぜ」


 マスターが少し間を置いた。

 グラスを拭いているんだろうな、というのがなんとなく見なくても分かる。


「ある時、とある魔獣討伐の時の話だ。あいつらのパーティは順調に戦っていた……らしい。

帰り道だ。別の魔獣に襲われた。まあよくある話だ」

「それで?」


「あいつに魔力が残っていればなんとかなったかもしれないがね、あいつは魔力を使い切っていた」

「なぜだ?」


「攻撃系の魔法は魔力を消耗する度合いが激しい……んだそうだよ」


 これはその通りで、つい最近も久しぶりに使ったが、やはり消耗はかなり激しい。

 単発の威力なら一流の前衛にもそれなりの魔法使いにも劣っていないと思うが……数発撃って力尽きるのでは話にならない。


「祝い酒を楽しみたければ帰り道を憂えよ。骸は酒場に入れないがゆえに……だが、賢者は昼に戦い、愚か者は夕闇の帰り路のことを憂える」

「どういう意味だ?」


「帰り道のことを考えずにペース配分を考えないやつは長生きできない。だが、帰った後のことを考えてその場で全力を出さない奴はその場で死ぬ」


 マスターが答える。どっちも冒険者の格言だ。


「矛盾している」


 テレーザがいつもの口調で一刀両断にした。

 まあ確かに矛盾しているんだよな、これは。


「そうだな、どっちも正しいんだよ」


 マスターが感情を交えない口調で言い返す。

 

「ともあれ、あいつはそれ以降、帰り道のことを考えて戦うようになったってことだ。火力を抑えてでも余力を残し魔力を温存する」

「………そうか」


 テレーザが答える。

 少し待ったが、もう会話は続かなかった。



 話も終わっただろう。

 ドアを軽くノックして中に入った。

 マスターとテレーザが驚いたような顔をする。

 

 マスターが目を逸らした。

 テレーザはともかく、マスターは聞かれていたことくらいは察しただろう。 

 目線で気にするなとアピールしておく。マスターがスマンと唇だけを動かして伝えてきた。


 テレーザが気まずそうに俺を見る。

 だが、こっちも勝手にあいつのことを調べているんだから、俺のことをマスターに聞いても文句を言うのはお門違いだ。


「さあ、ギルドに行こうぜ。次の依頼を確認するんだろ」


 引け目を感じさせてもしょうがない。


「……ああ、そうだな。すぐに行こう」


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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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