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そうする理由

 村に戻ってたった一人の治癒術師に治癒をかけてもらって、エレミアとイブリースはどうにか命を取り留めた。

 二人を治癒術師に任せて酒場に戻って椅子に座ったところでようや緊張感が消えて体から力が抜けた


「しゃれにならない相手だったな」

「そうだな。だが私としては満足しているぞ」


 テレーザが背負い袋からライフコアを取り出して満足げに眺める。

 ライフコアは魔獣の生命力の塊で魔力の結晶みたいなもんだ。倒した敵に応じて強力な魔力を秘める。

 バフォメットが残したライフコアは今まで見たのとは格が違う。少し離れたところでも波のようにそれが発する魔力が感じられた


「これなら討伐評価も期待できるな」

「そうだろうな」

 

 あんな魔族とは戦ったことは無いが、相当の強敵だった。トロールより評価が低いってことは無いだろう。

 個人的には報酬が上乗せされることを期待したい。


 そんな話をしていたら、ドアが開いてロイドとヴァレンが入ってきた。



 気まずそうにロイドが俺を顔を見て目を逸らした。


「イブリースとエレミアは大丈夫か?」

「ああ……大丈夫だ。多分一日は休まないといけないが」


 ヴァレンが答えてくれる。


「一応確認しておくが、これは俺たちの取り分でいいよな」

「ああ、勿論だ」


 ヴァレンが頷く。

 暫くの沈黙の後にヴァレンが口を開いた。


「すまない……なんといえばいいのかわからなないが、すまない」

「なぜ助けた……くれたんですか?」


 ロイドが神妙な感じで聞いてくる。

 

「正直言って、腹が立ってないってわけじゃないぞ。恨み言の一つでも言いたいところではあるんだがな」


 そういうと、ロイドが気まずそうに目を逸らした。


「だが、俺の周りでもう死人は出てほしくない……それだけだ」


 ロイドが何かに気づいたような顔をして項垂れた。

 当世の流行に反するのは分かっているが、それでも防御中心で戦うのも一応理由がある。


 冒険者は死と隣り合わせの仕事だ。死ぬときは死ぬ。

 だが、あれは体験してみると分かるがこの上なく後味が悪い

 曲がりなりにもかつて一緒に戦った仲間だ。もう、目の前で誰かが死ぬのは見たくない。

 

 勿論、違う方向に進むことになったと言われたときも、あのギルドでのやり取りも腹は立ったが。

 だからと言って、全滅するのをざまあみろと見物するほど落魄れてはいない。

 ロイドが俺を真剣な顔で見つめた。


「あの……ライエル……さん、もう一度、俺達と……」

「それは無い、悪いが」


 ロイドがテレーザの方を見て俯いて顔を上げた。


「必ずこの恩は、返します」

「期待しないで待っているさ」



 ロイドたちが出て行った。治癒術師の施設にでも泊まるんだろうか。

 あれほどの相手と戦って死者が出なかったのは幸運だったな。


「お人好しなことだな。お前をパーティから追放した連中だろうが」

「まあ、こうしておけばいいことがあるかもしれないだろ」


「もう少し頭を下げさせても良かっただろうに……恩を売ったということか?」

「いや、そういうわけじゃないぞ」


 なにやらテレーザらしくない、俗っぽい表現ではあるな。

 自分のしたことは案外自分に返ってくる。善いことも、悪いことも。長い目で見れば損得は案外合うものだと思う。


「だが一つ言うなら、だ。私の魔法への賛辞が無かったのが不満だ」


 テレーザがちょっと頬を膨らませて言う。


「お前な……」

「あいつを倒せたのは私の魔法あってのことだろうが。あのロイドとやらは生意気なことを言ってくれたし、一言あってしかるべきだ」


 冗談で言っているのかマジなのか分らんな。


「まあ、そうかもしれないがな。あいつらがいたからこそ倒せたんだぞ。俺たち二人じゃ負けてた」

「むう……それは……確かにそうかもしれん」


 実際の所、二人だったら多分負けていた。 

 俺一人であいつを足止めはできなかっただろう。

 一応、彼らにもその戦績を主張する権利はあったわけだ。彼らは言わなかったが。 


「でも、この討伐評価は俺たちの総取りだ。結果良しということでいいだろ?」

「まあ、お前がそう言うならそれで構わん」 

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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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