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お互いに必要なもの

 一回目の戦いの後、もう一度討伐任務を受けた。

 というか放置されていたブラックウッドの討伐だったがこれもあっさりと片が付いた。


 ブラックウッドの最大の特徴は木に本体が寄生しているという特質上、どこに本体がいるか分からない上にとにかくしぶといことだ。

 強いというのもあるが厄介な相手ということで敬遠されがちではある。だから依頼も放置されていたんだろう。


 それでも桁外れの威力があれば問題ない。

 彼女の使った魔法は先日の火炎系の魔法だったが、核が潜んでいた木のエリアを一撃でまとめて消し炭にしてしまった。

 正直言って大したもんだ。魔術導師ウォーロックと自称するだけある。俺は呼んでいないが。


 戦いは長引けば長引くほど人間にとっては不利になる。

 理由は単純で、人間は魔獣と比べてあまりに脆く、痛みにも弱すぎる。

 こっちがどれだけダメージを積み重ねても、魔獣の一撃で形勢逆転なんていうのはありきたりな話だ。


 支援魔法が今一つ需要が無かったり、長い詠唱が好まれないのもそこに尽きる。

 僅かでも速く強い攻撃を集中させ、敵を戦闘不能に持ち込む。それが一番安全な戦い方なのだ。


 俺のような中衛タイプの錬成術師の不遇はまあ個人的には何とかしてほしいとは思うが。

 前衛を厚くしてシンプルに叩き潰すという戦術は合理的なのだ。



 2回目の討伐も、金は俺の取り分、討伐評価はテレーザの取り分となった。

 ようやく懐が温かくなったから今日は郵便局に来ている


「送金を頼む」


 窓口の女の子に話しかける。もう顔見知りだ


「おいくらですか?」

「3000クラウン」


 そういうと、その子がちょっと驚いたような顔をした。


「稼いでおられますね」

「おかげさまでね」


 銀貨をカウンターに並べる。

 すぐに事務的な感じに戻った彼女が銀貨を数えて書類に金額を書き込んでサインとハンコを押す。

 書類を半分に切って、一枚を革にロウで張り付けてもう一枚をこっちにくれた。いつもの手順だな。


「これで手続きは終了です。確かにお送りします」



 郵便局を出た所でテレーザがいた。ベンチに腰掛けて手紙らしきものを読んでいる。


「どうした?」


 そういうとテレーザが俺を見上げて目を逸らした。

 見られたくないいたずらを見られた子供のような感じだ。


「いや……」


 表情が薄い冷静な表情はいつも通り見慣れたもんだが、めずらしくもの憂げな表情が浮かんでいることくらいは分かった。

 手には一枚の封筒を握っている。金で装飾がされた豪華なもので、アレクトール魔法学園の紋章が捺されていた。


「お前こそ何をしている……送金か?」


 聞いてほしくないかのように、質問に質問で返してきた。まあいいか。


「まあね。姉の子どもに」

「ほう、お前に姉がいるのか」


「ああ。冒険者だった」

「なぜパーティを組んでいないんだ?引退したのか?」


 小さく胸に痛みが走った


「いや、死んだ」

「……すまない。気が利かなかった」


 テレーザが珍しく慌てた感じで言う


「いや、別にいいさ。冒険者にとって珍しいことじゃないし、隠すことじゃない。お前のおかげで助かってる。仕送りが増えているからな」


 パーティを追放されるのと同じく、珍しいことじゃなくても深刻なことじゃないってわけではないが。

 ここで暗くなっても仕方ない話だ。


 二人パーティで取り分が多いうえにこっちの方が金を多く貰っている

 数か月前までは仕送りするのが大変だったが、今は比較的余裕ができてきた。


「で、お前はどうかしたのか?」


 手紙は郵便局で出して郵便局で受け取ることができる。

 一部の貴族は郵便局に金を払って屋敷まで持ってこさせるらしいが。

 なんかの手紙、アレクトール魔法学園からの書簡を受け取ったことくらいは分かる。


 彼女が唇をかんで俯いた。

 聞いてほしくないんだろうな、ということはなんとなくわかる。

 今なら問いただせば口を割るかもしれないが……弱みに付け込むようで気が進まないな。


「言いたいことがあったら言った方がいいぞ。力は振る剣に、意思は語る言葉に乗せよだ」

「なんだ、それは?」


「冒険者の俗語だ。なんか考えてる暇があったら剣を振れ、言いたいことがあったら口にしろってことだな」

「……前から思っていたのだが。なぜそんな回りくどい言い方をするのだ?冒険者はみんな詩人なのか?」


 テレーザが端正な顔をしかめて言う


「さあな。俺が考えたわけじゃない」


 そういうとテレーザが足を止めた。考え込むように俺を見る。今は言葉を待つ場面だろう。

 黙って立っていたら横をゴトゴトとトラムが走っていった。


「……ライエル。すまないが間を置かず討伐任務に行きたい」


 そんな事だろうと思ったが。なぜそこまで焦るのか。


「できればもっと点が稼げる相手がいい。おまえにも私の力は分かったはずだ。お前がいれば私も安心して詠唱に集中できる」


 なぜそこまで焦るのか、聞いてみようと思ったが。いずれは話してくれるだろう。

 こちらとしても稼げるなら不満は無い。


「そうだな。いいだろ、探してみよう」

「すまない。感謝する」



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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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