コミカライズ電子二巻配信記念SS・決意の朝
明日、コミカライズ電子版の2巻が配信となります。
あと、2巻の続きにあたる13話も各種電子書籍サイトで配信開始されてるはず。
と言うことで、作者からの記念SSです。
お買い上げ下さった方、予約してくれた方に百万の感謝を。
ライエルと出会う前、アレクトール魔法学院を出発するときのエピソードになります。
「ねえ、本当に行くの?」
「そうしようと思ってる」
石づくりの天井が高い、広いアレクトール魔法学園のホール。
今は夕方で、普段は生徒や講師が行きかうホールには誰もいない。夕焼けの赤い光が静かなホールに差し込んできていた。
学園の古い歴史を感じさせるそのホールで、カタリーナが不安そうに聞いてきた。
アレクトール魔法学園の魔法理論の三席であり数少ない友達。我がヴァーレリアス家とは家ぐるみで古い付き合いだ。
普段は年上ぶってお姉さん風を吹かせている優し気な顔には、あからさまに心配そうな表情が浮かんでいた。
「あたしは心配だわ……正直言って辞めた方が良いと思う」
「お前の魔法は確かに強いと思うがよ……何というか……そう、危ないと思うぜ」
言葉を濁しつつアステルが言う。
魔法使いと言うより戦士のような鍛えた体に短めの赤い髪。平民出身の彼はカタリーナの恋人であり、私と同じ実践魔法部門の7席だ。
直線的で攻撃的な戦いのスタイルと同じく言動も直線的な彼にしては、こういうあいまいな言い方は珍しい。
「今は主席なんだぜ……無理しなくてもいいだろ」
彼が言いたいことは分かる。
序列は彼より主席である私の方が上だ。でもそれは座学も含めた様々な教科の評価を加味しての、総合的なものに過ぎない。
純粋な闘争になれば私は彼に及ばないことは分かっている。
そして、今から私がしようとしていることは、正にその純粋な闘争だ。
総合成績とか学園の序列とか他の教科の評価などは何の役にも立たない。
「でも……二人とも分かっているでしょ?」
そういうと、私の言わんとしていることが伝わったのか、アステルが黙ってカタリーナと顔を見合わせた。
「あなたの気持ちは分かるわ、テレーザ……でも」
「ああ、そうだぜ。無理し過ぎた挙句……死んじゃ意味ねぇだろうよ」
わずかにいい澱んでアステルが言う。
実際その可能性も勿論ある。
「ここまでしなくても……次席とか上位は確実だろ?」
アステルが言う……その通りだと思う。
このままなら、主席は無理でも次席か、三席かはとれるだろうか。そうなれば、卒業したら、どこかの魔導士団には入れるだろう。
きっとその方が合理的で賢明だ。
でも。
「……悔いは残したくないの。やれることは全部やりたい」
私の恩恵は高い火力と引き換えのあまりにも長い詠唱だ。
時代遅れの恩恵と言われたことは数知れない。魔法使いの道を諦めようと何度も思った。
そんな私でも乗り越えて此処まで来れたのだから……最後までやれることはすべてやりたい。
たとえその決着が残酷なものだとしても。後悔は残したくない。
「なんていうか……大丈夫なのかよ?」
「安心して。私も死にに行くつもりは無いわ」
アステルが聞いてくる。
私は一人では戦えない。そのくらいの自覚はある。
「どこに行くつもり?」
「アルフェリズへ」
「当てはあるの?」
「ええ……大丈夫」
疑わしそうな目でカタリーナが私を見た。
正直言ってどうなるか分からない。
アルフェリズに当てがあるというのは嘘じゃない。調べてもらった一人の練成術師ことを思い浮かべる。
名匠の二つ名を持つ、守備に長けた風使い。
ただ……私の予想通りに行くのだろうか。
すべて私の予想通りになってくれれば、うまくいくはずだ。
でも、自分にとって都合のいい予想をしているだけじゃないだろうか。
都合が悪い可能性から目を逸らしているだけじゃないだろうか
それに私は本当の意味での実戦は経験が無い。あくまで学内での模擬戦だけだ。
全てが予定通りに行ったとしても、不安はいくらでもある。
でも、やるしかない。
運命があるというなら、私のこの能力も運命だというなら、今のこの時世も運命だというなら。
運命だとしても、それを大人しく受け入れたくはない。
きっと、乗り越えて見せる。今までのように。
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