コミカライズ2巻発売記念SS・森の中の一夜
コミカライズの2巻が発売されました。買ってくれた貴方に百万の感謝を!
まだ買ってないという人は是非手に取ってください。とてもいい出来ですよ。
感想、購入報告等々お待ちしております。
作者からの感謝を込めてSSを描きました。
サーグレアで纏めて依頼を受けた出発に日の夜のエピソード。web版だと31話のあと、コミカライズ版だと2巻、第11話の合間あたりです。
野営用に作った干し肉と野菜を使ったスープを食べながらテレーザがため息をついた。
サーグレアでまとめて討伐依頼を受けての討伐開始の初日だ。
もう完全に日は落ちて、周囲は真っ暗な夜の闇に包まれている。
ぱちぱちと枯れ枝が焼ける音がして、赤い炎がゆらゆらとあたりを照らしていた。
赤い炎に照らされて木の黒い影が揺れる。時折どこかから鳥の鳴き声が聞こえてきた。
風が時々吹いて木の葉の葉擦れがなる。やけに音が大きく聞こえるな。
鳥の声が止んで、人気のない森の独特の重苦しい静けさが戻ってきた。
月が雲間から顔を出すと、周りが少し明るくなって気持ちが落ち着く。
今日は大型蜂との戦いだった。
空中を飛ぶ魔獣は風で弾き飛ばしやすいが、上とかの死角を突かれやすい相手でもある。
大型蜂は単体では脆い相手で、うまくすれば恩恵無しの熟練の狩人でも倒せる。
だが基本的には群れで襲ってくる上に、槍の穂先のような毒針を突きさされたら即死しかねない、侮りがたい嫌な相手だ。
とりあえず倒すことそのものは難しくなかった。
とはいえ、普段なら宿で普通に食事をし柔らかいベッドでゆっくり休息をとれるのに、今日は森の奥で野宿だ。
「大丈夫か?」
なんだかんだ言いつつ貴族育ちのお嬢さんだ。
周りに全く明かりが無いなんてことも、野営もこんな食事も初めてだろう
「問題ない」
テレーザがいつもの口調で答える。
初日の夜だし、この程度でめげる奴じゃないよな……とはいえ、気力だけでどうにかなるなら苦労はない。
慣れないことをすると疲労もたまる。疲労が溜まれば判断を間違ったりする。
ちょっとしたミスの積み重ねが致命的な結果を招くことはある。
コンディションの管理やペース配分ははいつだって重要だが、今回のような連続討伐ではその重要さは増す。
「お前は野営にも詳しいのだな」
「なんでも知っておくと、どこかで役に立つかもしれないって話だな」
パーティを渡りあるく過程でいろんな奴と会い、いろんな状況を経験した。
その中には、森の奥にある鉱山の調査のために、探索者ギルドのやつの護衛として森の中を数日間探索するというのがあった。
直接の戦闘は殆どなかったが、警戒しながら深い森を歩くのは中々大変だった覚えがある。
その時に野営の経験と、野営するときの心得を教えてもらったが、それが今役にたってるな。
普通の冒険者は野営はあまりやらない。単純に必要がないからだ。
町から討伐に出てその日のうちに倒す。倒せなければ一度出直す、これが基本だ
野営に関しては行軍訓練をする分、エリートの騎士団の方が慣れているかもしれない。
闇の中での戦いは人間には圧倒的に不利だ。
吊り橋を走るは愚か者、なんていう冒険者の格言もある。危険が避けられないことはあるが、無意味なリスクは負うべきじゃない。
「で、この後はどうするのだ?」
「休んでおけ。俺が見張る」
明日はさらに森の奥まで進んでゴブリンの巣の掃討だ。かなり歩かないといけない。
時報の鐘がないから正確な時間は分からないが、普段ならそろそろ寝る時間だろう。
木を切り倒して広場の様に開けた空間を作ってはあるから、ある程度視線が通る。多少は安全だ。
それに一応警戒の風を巡らせてある。そう簡単に奇襲されたりはしないが。
とはいえ二人そろって寝るわけにはいかない。
魔獣がぞろぞろと現れることはないだろうが、野犬や狼であっても油断はできない。寝ている所を襲われて喉でも噛まれたら命に係わる。
「お前は大丈夫なのか?」
「まあ慣れてる、明け方に少し仮眠をとるさ」
普通の冒険者パーティは3~4人が基本だ。
だから野営になってもローテーションを組んで回すんだが……それを言っても仕方ない
「私の見張りでは不安なのか?」
「馬鹿にしてるわけじゃない。俺達はパーティだろ?俺の方が慣れてるから俺がやるってだけだ。
お前じゃなくても同じだよ。それ以上の意味はないさ」
一応気を使ったつもりなんだが、テレーザが露骨に不満げに表情を変えた。
最近のこいつは前より表情が出るようになってきた気がするな。
「不満か?」
「だって……子供扱いされてるみたいで……なんか、いやだ」
テレーザが言う。まあそういうなら無下にするのも悪いかもしれない。
「じゃあ太陽が出たら代わってくれ」
「うむ、分かった」
テレーザが頷く。
「ただ……大丈夫か?」
こいつの詠唱を考えると、万が一のことがあるとき対応できるかは不安だ。
「安心しろ。警戒の魔法があるからな」
「ちょっとまて、そんなの持っているなら今使ってくれ」
そんな便利なものがあるならその方が良いに決まってる。
「術者が眠ったら維持できないのだ。
術者不在で維持できるのは儀式魔術の領域だぞ」
テレーザが言う。
なるほど。それは初めて知った。そんな便利なもんじゃないか。
しかし、意外にいろんな魔法を使えるんだな。戦闘では俺が守ってこいつが倒すって感じだったから必要なかったんだろうが。
焚火の明かりの中で、テレーザが俺をにらんだ
「私が攻撃魔法一辺倒の爆発魔女だとか思っていたんじゃないだろうな」
「……そうじゃないさ」
そう思ってた、なんて言わない位の理性はある……というか、言われたことあるのか?
「まあいいから休め。俺に悪いとか思う必要はない。しっかり休んで明日も戦うのが仕事だぞ」
そういうとテレーザが寝袋に包まって横になった。
ちなみに、あの寝袋は結構いい値段なんだが、その辺分かってるんだろうか。
地面からの冷えを防ぎ寝心地をよくするため厚手の布に上質の綿と羽根を詰め込んである。
しばらくしたらテレーザが寝息を立て始めた。
空を見上げる。月はまだ天頂まで遠い。
木の枝を焚火にくべると木の焦げる匂いが漂った。長い夜になりそうだな。
警戒の魔法の詠唱を本文中に入れられなかったので、ここで供養。
「【書架は南東・記憶の九列・七拾参頁五節。私は口述する。
聞け門衛。槍を持ち夜に備える者よ。
汝が守るは女神の神域、尊きものが安らぐ処。世の混沌を鎮める責を担う彼女らを守る、汝も世の混沌を鎮める任の一翼を担うもの也。誇り、胸に抱き務めよ】術式開放」
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