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舞踏会場の死闘・下

「武器に退魔の力を付与しました。少しは魔族にも効果があるはず」

「よくやった……ライエル、守備はお前に任せていいな」


 団長がサーベルを一振りして俺を見る。

 この戦いには自分でケリをつけたい、とその目が言っていた。


「任せてください」 

「すまないな」


 一言残して団長が風のように突進した。

 ザブノクが槍を振り下ろそうとしたが、それより速く床から氷の杭が突き出す。

 切っ先が正確に槍を持つ右手と右肩を刺し貫いて動きを止めた。


「死ね!」 


 団長のサーベルが閃いて、目にも止まらない速さで斬撃がザブノクを切り裂く。

 顔、首、胴に一瞬で斬撃の傷が刻まれた。


『少しはやるな、人間よ』 


 ザブノクが氷を砕いて槍を振りぬくが、団長の前に分厚い氷の壁が立ち上がって刃を止めた。

 氷が一瞬で切っ先を包み込んで凍らせる。


 槍を引き抜くより早く、左右からフルーレたちが切りかかった。

 フルーレ達が一太刀づつ切ってさっと下がる。


 氷の壁が霧のように消えて、団長が踏み込んでサーベルを袈裟懸けに切り下ろした。

 硬いモノを切り裂く音がしてザブノクの胸甲に傷が刻まれる。赤い煙が吹き上がった。


 ザブノクが槍を振り上げるより早く、また床から氷の刃がはえてザブノクを突き刺した。

 氷の生成が俺の風よりはるかに速い。文字通り瞬きするほどの速さで生み出された氷の刃がザブノクを刺す。

 

 今までは氷使いの練成術師って感じで戦ってたが、この人の本領はむしろ至近距離での斬撃戦なのかもしれない。

 精霊剣士の恩恵(タレント)持ちだからあの人は前衛でも戦えるのは知っていたが、改めて見ると化物じみた強さだ。

 本人の剣とあの氷の連撃、A帯の前衛数人分だぞ。


『下位の者にはこれでも十分であろう……だが私が相手だったことが不運だな、諸君』


 ただ、あれだけ切られているのに、ザブノクには大してダメージがなさそうだ。切られたはずの傷も大半が消えて行っている。

 普通の魔獣ならすでに100回以上は死んでるはずだって言うのに。クソが。 


「【我が名において揺蕩うマナに命ず。汝に与えられし命は不当なれば、我がその苦役より解き放たん。疾くその働きを止め、あるべき所へ戻れ】」

「【此処は幽世2階層、奥の宮には碧榊、祝詞奉じて太刀佩けば、賜る御名は禍祓】」


 テレーザの詠唱が続く中、ローランの魔法解除(ディスペルマジック)が飛んで、治癒術師の治癒(ヒール)が傷をいやす。

 ラファエラの退魔の剣の詠唱が終わると、援護を受けた前衛がザブノクに切りかかった。


 斬撃がザブノクをとらえる。傷口から赤い煙が上がった。

 団長の氷に刺された時のようにすぐに傷が消えたりはしない……多少は効果があるらしい。


『さすがに鬱陶しいな、其処のもの』


 ザブノクがこっちを一瞥する。一歩下がって床に穂先を突き刺した。


「風よ!」

 

 絨毯を切り裂いて床から槍の穂先が突き出してきた。

 刀で穂先を逸らす。黒い炎に覆われた穂先が目の前をかすめた。

 肌に炙られるような熱気が触れる。ラファエラが悲鳴を上げてしりもちをついた。


 今のはラファエラをまっすぐ狙ってきた。

 前衛組は傷をつけて嬲っているだけだが、魔法使いは仕留めに来ている。


『ほう、そこの男。よく防いだな』

「お前の相手はこっちだ!」


 団長のサーベルがまた胸甲を切り裂いた。赤い血煙が吹きあがる。

 ザブノクが薄笑いを浮かべて団長を見下ろした。

 無駄ではないんだろうが……致命傷には程遠い。


『人間は壊れやすいからな、大切に遊ばなくてはならん。ასი ნემსი』


 短い詠唱がして、針のような細い刃が団長達に刺さった。傷口から噴水のように血が流れでる。

 が、団長が何事もなかったかのようにサーベルを振り下ろした。

 ザブノクが槍でサーベルを受け止める。


『愚か者は死が怖くないとみえる』

「騎士が血が流れたからとて怯えると思ったか!」


 フルーレや前衛組が針やナイフをものともせず切りかかった。

 見ているだけなのはもどかしい……加勢に行きたくなるが。


「ライエル!お前は魔法使いを!テレーザを守るのだ!なすべきことを果たせ!」

『いいぞ。さあ、踊れ、人間ども!ათასი დანის პირას』


 空中にまたナイフが浮かんだ。

 まるで意思があるかのようにナイフが空中を舞って前後左右から20本近くがこっちに飛んでくる。


「風よ!来い!」


 風でテレーザたちへの分、そして自分の急所をまず守る。

 風の壁に当たったナイフのほとんどが逸れるが、一本が俺の腹に、一本が俺に足に刺さった。

 火をつけられた痛みが走ってまた傷口から水瓶を倒した時のように血が流れだす。


「痛ぇな、この野郎」

「ライエル!【我が名において揺蕩うマナに命ず。汝に与えられし命は不当なれば、我がその苦役より解き放たん。疾くその働きを止め、あるべき所へ戻れ】」


 傷口が白く光って噴き出す血が弱くなった。傷自体はさほど深くない。

 ヒールは無くてもこの程度の痛みなら十分戦える。


 団長と一緒に戦っている前衛がまた一人槍に切られて下がった。

 周りを囲んでいた前衛組が少しづつ減っていく。

 手数が多すぎる。回復(ヒール)魔法解除(ディスペルマジック)が間に合わない。


『さあさあ、どうした。まだまだ私を殺すには……』

「おい!どけどけ!」


 ザブノクを言葉を遮るように野太い声がした。

 人垣が割れる。


「悪い!待たせたな!」


 人垣を割って巨大な黒い大剣を構えたノルベルトが飛び出してきた。




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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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