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舞踏会当日

 お待たせしました。待っていてくれた人に百万の感謝を。

 更新再開します。本章の最後まで一気に行きます。

 舞踏会のエスコートの作法なんてものは勿論俺は知るわけはない。なので、またカタリーナに聞くことにした。

 どうもテレーザから話が通っていたらしく、すぐに教えてもらえた。

 叙勲式の時ほど面倒じゃなかったのは助かったな。


 舞踏会当日。カタリーナに教えてもらったように馬車を仕立ててテレーザの家に行った。

 馬車はカタリーナが手配してくれた二頭立て。黒地に金の装飾が入った立派な馬車だ。

 御者もきちんと着飾っていて、馬も二頭とも白の美しい馬。


 いわれた通りのドアをノックして下がって待つとテレーザが出てきた。

 花と蔦を意匠化した凝った文様が入った足元まである青色の長いマント。マントの前の合わせ目から白いドレスがのぞいていた。


 銀色の髪はきれいに整えらて後ろで結われていて、マントと同じ青い宝石の髪飾りがついている。片眼鏡だけはいつもと変わらないな

 胸元には前に贈った蒼真珠が光っていた。

 

 テレーザが俺をじっと見る。


「うん……似合っているぞ」

「そりゃどうも」


 そういえばこれをこいつの前で着るのは初めてだ。

 テレーザが手を差し出してきた。

 その手を取ってエスコートする、だったはずだ、多分。手を取ったまま馬車まで一緒に歩く。


 テレーザが馬車に乗り込んだ。扉をこれまた言われた通り静かに閉める。

 ちょっと気が緩んだ。やれやれだな。 


「ありがとう、ライエルさん」


 一息ついたところで、イザベルさんが声をかけてきた。


「いえいえ。貴族ってのはややこしいですね。うまくいってますか」


 そういうとイザベルさんが穏やかに笑った。


「ごめんなさいね、我儘な子で。こんな特別にしてくれて……娘も喜んでいますわ」

「……特別?」


「ええ、このような形でしてくださるのは淑女を迎える時のかなり古風で特別な作法ですわ」

 

 特別なのか。

 なるほど、カタリーナが作法をレクチャーしてくれてるときなにやらにやにや笑いを浮かべていた理由が分かった。

 アステルも勿論わかってっぽいな。言えよ、まったく。


「子供のころから魔法の修行に明け暮れていて、こんな風にしてもらうのは初めてなんです……ずっとあなたが来るのを玄関の窓から見てたんですよ」

「そうですか」


 ちょっとその場を見たかった気もするが。

 まあそういうことなら最後まで付き合ってやるか。



 馬車が王宮についた。

 儀仗用の槍と鎧を身に着けた衛兵が馬車の戸を開けてくれる。

 

 先に出て、降りてくるテレーザに手を差し出した……なんとなく周りの視線を感じるな。 

 テレーザが一瞬嬉しそうな表情を浮かべて、すぐに普段の冷静な表情に戻る……隠してるつもりなんだろうが、あまり隠せてないぞ。


 衛兵に刀を預けると、衛兵が恭しく一礼して王宮の立派な扉を開けてくれた。

 テレーザの手を取ったまま中に入ると、別の衛兵が一礼して先導してくれる。

 絵と彫刻が並ぶ王宮の長い廊下を歩いて辿り着いた舞踏会の間はとてつもなく立派だった。


 だだっ広い広間は高い天井からは美しいシャンデリアが吊るされていて、ライフコアの明かりで夜とは思えないほど明るい。

 ドームのような天井には青い空に舞う鳥と太陽が描かれていて、周囲の壁には雪に覆われた山が描かれている。

 

 すでに師団のメンバーは殆ど揃っていた。

 それ以外にも沢山の貴族らしき着飾った人たち。100人ほどは居るだろうか。思ったより大規模だな。

 フロアの一角には何人かの楽師がいて四弦琴(ヴィオリーノ)横笛(フラウル)を静かに奏でている。


 しばらく待っていると音楽がやんでドアが開いた。


「王様のおなりです」


 侍従の声と共に、何人かの兵士を従えた王様が入ってきて、その後ろに控えるように宰相が入ってきた。

 全員が頭を下げた。俺もそれに倣う。


「諸侯、面を上げられよ」

 

 声が掛かったので顔を上げた。

 直接見るのも久しぶりだな。前と同じように王は深紅のマントを、宰相は臙脂色のローブを着ている。

 王様の頭には金色に輝く王冠が乗っかっていた。


「対魔族魔導士団の団員達よ、諸君らの貢献に感謝する。今日は君たちの宴だ。楽しんでくれ」


 王様が随分簡単に言って、貴族の一角から大きな拍手が上がった。

 変わって宰相が進み出てくる。出迎えるように、今度は別の方から拍手が上がった。王様の挨拶の時より大きい気がする。

 宰相が拍手を静めるように手を広げた。会場が静まり返る。


「いまだに魔族が跋扈する理由は分からない……だが君たちのおかげで被害は抑えられている」


 そう言って宰相が言葉を切った。

 確かにこの師団がいなければ冒険者が個々に戦うか、騎士団が戦うかしかなかったが。

 それでも組織的に対抗するまでには時間がかかっただろう。


 恐らく俺達が戦ったバフォメットとか以外にも魔族との遭遇の報告をはあったんだろうとは思うが。

 ただ、それでも団長の抜擢も含めていち早くこの師団を組織したのは大した先見の明だな。


「皆の貢献に感謝するよ。民と我が国と我が王のために戦う君達の勇気に敬意を表する。我が国に祝福があらんことを」


 宰相の演説が終わってひときわ大きな拍手が起きた。

 

 しかし、両者のあいさつの後の拍手はそれぞれの別の方から上がっているところを見ると、いわゆる宰相派と国王派に割れているのは確実らしい。


 なんとなくこの辺の対立関係も分かってきた。それぞれの集団同士も微妙に緊張感が漂っている。

 魔族を倒しているんだから、その結果を慶べばいいと思うんだがな。



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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新再開ありがとうございます! 幼い頃から修行に明け暮れつつも古風なエスコートに憧れてた一面を見せるテレーザがかわいいですねー [気になる点] >一瞬嬉しそうにテレーザな表情を浮かべて 情…
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