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その後の彼ら・7

 旧パーティ視点です。

「はい、確かに受け取りました、ヴァレンさん。こちらが今回の報酬です」


 天窓から夕方の明かりが差し込むヴァルメーロの冒険者ギルド。

 魔族のライフコアを確かめた受付嬢が言って、じゃらりと音を立てて金貨が何枚かと銀貨が使い込まれた木のカウンターの上に並べられた。

 一応ざっと数えて袋に入れる。普通の魔獣討伐の数倍の報酬額ではあるが……


「いい稼ぎになってるなぁ、まったくよぉ」

 

 ジルヴァが気軽に言うが、その口調からは遣る瀬無さが滲み出ていた。


 今回戦ったのはトロール数体と、アルフェリズで戦ったバフォメットなる魔族。

 一度戦ったから多少はやりやすかったが、前に戦った時より格段に耐久力が上がっていた。

 

 持って行ったポーションは全て使い切り、エレミアも魔力をギリギリまで使っての薄氷の勝ちだった。

 ジルヴァの相棒のフェリクスも魔法を連発し過ぎて宿で動けなくなっている。

 エレミアの最後の魔法でとどめを刺せなければ……どうなっていたかは考えたくないな。


 最前列で戦ったロイドもその炎のような黒魔法の直撃を受けて治療院送りになってしまったし、一緒に組んだパーティからは犠牲者が二人も出てしまった。 


「今回の犠牲者については、規定通りギルドから弔慰金が……」

「……そういうことじゃない!」


 事務的な口調に思わず声が高ぶった。

 受付嬢がおびえたような顔をして、にぎやかなギルドの広間が静かになる。

 周りの冒険者から注目が集まったが、またすぐに皆はそれぞれに自分たちの話に戻って、元の賑わいが帰ってきた。


「……あまりにも情報が少なすぎるだろ。どうなってる?」


 彼女に当たっても仕方ないのは分かっているが、不満はどうしても出てしまう。


「魔族のライフコアは宰相閣下が買い上げて魔族の調査を行っているとのことですが、情報が降りてこないのです」

「もう発生が始まってかなりになるだろ?」


 前にも同じことを聞いたぞ。

 魔族が出始めてからそれなりに時間がたった。

 俺たち以外にも魔族を倒しているパーティはいるから集められたライフコアもそれなりの数のはずだ。

 

 そして、普通の魔獣の落とすライフコアは砕かれてトラムの燃料になったりしているが、魔族のライフコアは話を聞くところによると、強すぎてそれには適さないらしい。

 つまりすべて研究に回っているはずだ。

 宰相の旗下の魔法使いなら恐らく相当優秀な連中だろうに、何の情報もないのはあまりにもおかしい。


「こちらからもギルドマスターが何度も働きかけています……ですから、もう少しお待ちを。情報が入ればすぐお知らせしますから」

「ほう、ギルドマスターがね」


 ジルヴァがちょっと驚いたような口調で言う。

 ヴァルメーロの冒険者ギルドのギルドマスターは実質的にはこの国の冒険者ギルドのトップであり、ちょっとした貴族なみに影響力が高い。

 一応真面目には動いているらしいな。なら少しは期待できるか。 


「それとは別に、アレクトール魔法学園とギルドで開発していた、対魔族用の前衛の武器がもうじき出来上がります」

「どんなものなんだ?」

「肉体ではなくマナに直接干渉する武器で、魔族のような霊体(アストラル)にも効果が見込めます。ただ、逆に一般的な魔獣には大して効果はありませんが」

「それはありがたいな」


 今の武器では魔族を切っても実質的にダメージが無いから前衛は足止めにしかなっていない。魔族も無駄だと分かっているから、大してひるみもしない。

 前衛の攻撃でもある程度有効なら、また戦い方も変わってくるし、魔法使いの負担も多少は減る。

 それに、まったく効きもしない攻撃を続けるのは気が滅入る。


「近日中に試作品がギルドに届きます。ヴァレンさんたちをはじめとして、魔族との戦闘が多いパーティに優先的に配備しますので」


 ギルドの受付嬢が申し訳なさそうに言った。



 ギルドを出て臨時で組んだパーティのリーダーに弔慰金と報酬の分け前を渡すと、彼らは悄然とした顔でそれを受け取って去って行った。

 こんな時に慰めとかの言葉はかけられない。

 

 幸運にもここ数年はなかったが、一緒に戦った仲間から犠牲者が出るのは冒険者なら珍しいことじゃない。

 だが珍しくないからと言って平気なわけじゃない。いつだって苦い果物をかみしめたような、喉の奥が焼けつくような。そんな気分になる。

 ライエルが防御を重視して犠牲を減らすように立ちまわっていた気持ちが改めて身に染みた。


 夕食を終えて部屋に戻る。

 イブとエレミアも何か思うところがあるんだろう、食事中は無言だった。


 ヴァルメーロで最近から世話になっている冒険者の宿、岬の灯台亭の三階の角部屋。

 掃除が行き届いた部屋の片方には棚と大きめの寝台があった。

 普段はロイドが寝ている寝台は今日は空だ。まだ治療院に居る。


 ギルドの帰りに見舞いに行ったが、ロイドは幸いにも治癒術で回復していた。

 すぐに次の討伐に出たい、と意気盛んに言っていたが……あいつにとっては強くなること、そしてライエルに並ぶことが何よりの目標なんだろう。


 ライエルのいる魔導師団の功績は評判になっているから、特に関心を持たなくても聞こえてくる。

 だからこそ、ロイドも意識してしまうんだろう。 


 だが、目標は死んでは達せられない。

 あいつはまだ若い。最短距離を行きたい気持ちは分かるが。


 窓の外を見る。広い通りにはいつも通り人と馬車が行きかっていて、もう夜だというのにライフコアのランプがあかるく夜空を照らしている。

 笑い声と話し声が三階の部屋まで波のように聞こえてきていた。


 冒険者としてみれば、今は成功したと言っていいだろう。

 魔族を倒しそれなりに名声を得た。ギルドでも一目置かれるくらいにはなっている。

 金も結構な額を稼げた。今の宿はアルフェリズで泊まっていた宿よりずいぶん上等だ。

 

 だが冒険者も命あっての物種だ。金貨を棺桶に詰めてもらっても意味が無い。

 魔族が現れる確率は確実に上がっている。しかもなまじ討伐の実績をあげたから、俺達に討伐依頼が回ってくることが多くなってきた。


 このまま魔族と戦い続ければ、ロイドやイブ、エレミアがどうなるか分からない 

 リーダーとして、果たして今後どうするべきなのか。考えなくては。





 あと一話、次章の最初だけ投稿します。

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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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