66 二人の被害者
前半??視点、後半彼岸ちゃん視点です。
「……ッ……なん、なの。」
悔しそうに、女は唇を噛みしめる。
「何なの、何なのよ…。ッ!」
ぎゅうっと、手を強く握りしめる。
「何なの、何なの、何なの、何なの…本当に、何なのよッ!!」
自分に言い聞かせるかのように、叫ぶ。
その声量は大きく、近所迷惑になりそうだったが、女はもうそんなことなんて気にしていられなかった。
「邪魔なの、邪魔なのよ。」
彼女がみるのは、白と黒で統一された祭壇。
「邪魔なはずなの。」
彼らが配信を始めてから今まで、女が集めてきたグッツ類を集めた祭壇。
「邪魔なのに、何で、何で……。」
女の頬は、上気していた。
圧倒された。
不覚にも、感動してしまった。
感動、させられてしまった。
「何でそんなキラキラしてるのよ、なんで私の視界にはいってくるの? なんで、なんで、なんで―――??」
「邪魔、邪魔なの。」
そのはずなんだ。
あの女は、【咲久和 華】は邪魔なんだ。
じゃま、するな―――。
女は、憎々しげに顔を歪めた。
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「………。」
私は、配信が終わってもしばらく無言で、動けなかった。
「はな、ちゃん。」
すごい。
今回の配信は、その、一言に尽きる。
本当に、凄い。
どうしよう。
不覚にも、私は圧倒されてしまっていた。
華ちゃんのその、技量に。
そしてなによりも、魅せられてしまっていた。
彼女のパフォーマンスに。その身に宿る、圧倒的な熱量に。
まるで、熱に浮かされるように。
心地よい、疲労感にも似たそれに、ぼうっと酔いしれる。
「…って、いやいやいや!」
何やってんだ私は!
ぼうっとしてる場合じゃないだろう!
「これから配信なのに!」
そう。
私はこの後、歌配信を予定している。
「……あのクオリティの後に始めるの、勇気いるなぁ…」
華ちゃんめ。
すごかったし、全力を尽くしてるのも伝わってきたけれど、そこだけは恨むよ?
あんな完璧なパフォーマンスの後で私の配信なんて見ようとする人いるかなぁ……?
平常時よりも絶対に減るとは思う。
すごかったもん。
それにしても、始める時間が遅くないか…って?
……華ちゃんの記念配信みたかったんだもん。
後単純に私が夜型だってだけだよ。
「配信準備しないと。」
誰にともなく呟いて、私は配信の準備を始めた。




