50 えへへ………………。
「……………。どういう事です?」
困惑した表情で、凪くんが俺に聞いてくる。悪ふざけとはなんだ、と。
「んー、これは、もう癖なんだよね。
人をからかうの。」
人畜無害そうな笑顔を浮かべ、雨が答える。
「はあ!?」
「なんというかね、うーん。
言葉がまとまんないんだけど。
…率直に言うと、君の反応が面白かったからだね!!」
「はぁ!?!?」
余程驚いたのか、凪の声量が先程の二倍程になる。
「雨、言い方…。
ごめんね、凪くん。言い方は悪いんだけど、雨はちょっとからかった、というか…。」
「えへへ………………。」
「えへへじゃないですよ!?」
脊髄反射のような速さで凪くんは雨に切り返す。
なんだかコントみたいだ。
「……うん、まぁ悪気は………30%くらいあったかもしれないけど、ほぼノリだからなぁ……。」
「30%はあるんですね……。」
もう疲れた、と嘆く凪くん。
うん、俺も疲れた。
「まぁ、とりあえずさっき言ったことは本当だし、雨と俺が君のことを知っているのも事実。聞きたいことがあれば聞いていいよ。」
「…はい。
とりあえず、なんで俺のこと知っているのか聞いてもいいですか?」
「うん。えーっと、あ、あったあった。」
雨はゴソゴソと肩にかけていたトートバックからファイルを抜き出す。
それとともに、トートバックの中からポーチやらクッキーやら手帳やら財布やらが落ちてくる。
それを見た雨が、顔からサーッと血の気を引かせてこちらを見る。
「 あ め ? 」
「ごめんなさいいぃ…!」
そう。
雨は整理整頓が苦手なのだ。
ある程度のところまですると満足してしまい、それ以上をしない。
その『ある程度』が高いときは良いのだが、放って置くとどんどん『ある程度』という基準は下がっていく。
後輩である凪くんの前であったことも少々恥ずかしかったようで、「い、いつもはこんなんじゃないんだよ?」と必死に弁明している。……が、凪くんは口元を抑えて震えており、もう決壊寸前なのは見てわかるとおりである。
「……こほん。気を取り直してなんだけど。
どうぞ。これが私の調査資料。」
そう言って雨が凪くんに手渡したのは教科書程の分厚い資料。
「雨、こっちのほうが良いと思うぞ。」
そう言って俺は重要な部分が抜き出されただけの少ない資料―――それでも二十枚ほどはあるが―――を手に持ってひらひらと揺らす。まぁ、量的にバサバサ、のほうが正しいが。
「あー、そっか。時間無いしね。」
ごめん、こっちだね、といって凪くんの手にある資料を差し替える雨。もうすでに凪くんは絶句しているが、雨は気がついているのだろうか?
「んで、一ページ目。コレは基本情報。いま法律で適応されている履歴書の通りだと思う。うん。
まぁここはわかってると思うから飛ばしてよし。んで、一ページ目の裏と二ページ目と三ページ目、あと四ページ目と五ページ目表。これは性格に関しての考察と評判。わかりやすいようにまとめてあるはずだから見てね。
その他、家族構成と家族の考察が各一枚ずつ。んで、親族まとめが次の二ページ。
後は―――」
「おーい、雨。凪くんはそういうことが聞きたいんじゃないと思うぞ……。
ごめんね、凪くん。雨は、ちょっとズレてて。「ちょっとお兄ちゃんそれどういう事」雨はしーっ! 黙ってなさい。
んで、雨が君について知っている理由だけど、大体はSNSと君のクラスメートからの調査かな。
君の場合はOurTubeとつぶいたー、あとスタテレもかな?
そこに流されている写真、言葉遣い、時間、諸々の傾向を読み取って人の感情で当てはまるのを見つけて……っていう途方もない作業を雨は息をするかのように行える。
だからこそかな。君を見つけれたのは。」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぁ、は、え?」
あー、やっぱり処理落ちしたか。
本当にコレはなんというか……関わっていく中で実感して、知っていくしか無いからなぁ…。
「あ、でも。
薫ちゃんもそういう感じの事できなかったっけ?」
「……確かに、できたかも……。でも、雨は別格だろうどう考えても。」
「そう?」
いやあの、ね?
「…………………………………………………はぁ…。あんまりどういうことかはよくわかりませんが、とりあえず雨先輩は凄いってことなんですね?」
「まぁそうだね。」
「えへへ………………。」
その後は、普通にお茶をして家に帰った。
ちゃんちゃん。
――
―――
「…。はぁ……帰ったか。」
凪は、一人自室でつぶやく。
正直、よく分からなかった。
あの人達は何なんだろうか。
本当に自分と同じ人間なのか。
とりあえず、わかったことといえば。
「雨先輩より、留依さんのほうが怖い。
……というか、なんであんな……いや。うん、もう考えるのはやめとこう。」
あんな人と婚約してて、家の姉は大丈夫だろうか……と、普段なら絶対に考えないようなことを考えてしまう凪だったのだった。




