42 おはようございます、今日も今日とて通知がすごいです
「…………ん……く、ぁああ……ぁふ。」
部屋の窓から差し込んでくる心地よい朝日が意識の覚醒を促してくる。
それでもまだ少し寝ぼけている思考のまま、スマホで時刻を確認する。
六時三分。…いつもより少し遅いけど、まぁ許容範囲内。
そして大きく伸びをして、そこでやっと意識が完全に覚醒する。
「…よし。」
ベッドから立ち上がり、布団をたたむ。
そして昨日のうちに用意しておいた服にパジャマから着替えながら、スマホを机の上に置いてSNSを確認。
…前はSNSを確認したりなんて頻繁にしてなかったんだけど、VTuberになってからはリサーチが大事になってくるので、毎朝こんなふうに確認している。
そしてその他の身支度も終え、俺は一階に降りていく。
六時五十八分。ご飯まで三十分程度残っている。
「おはよう。」
「おはよう、留依。」
一階に降りてまず会ったのはしろ兄ちゃん。
「くろ兄ちゃんは?」
「まだ寝てるよ。多分昼間まで起きない。
三時位まで作業してたみたいだし…。」
「ここの所忙しそうだったしね。」
しろ兄ちゃんは、お手洗いに行くから、と言っていなくなった。
「おはよう。……留依、貴方また一時に寝たでしょう。」
「ゔ…おはよう母さん。」
VTuberになって生活リズムが少し乱れたが、概ね前と同じ生活をしているのは母さんがこうやって注意をしてくれるからである。
夜遅くまで作業しないといけなくなって、夜ご飯を食べそこねた時、きちんと用意してあるありがたみよ…。
実家ぐらしで良かった。
「VTuberになるからといって、体壊したら元も子もないわよ〜?
気をつけなさいね。」
「うん……。」
そこで母さんとの会話を切り上げ、俺は部屋を見渡す。
今起きているのは俺としろ兄ちゃんと母さんだけか。
雨とくろ兄ちゃんは寝てるかな?
父さんはどうせ徹夜で趣味に没頭していることだろう。
ちなみにうちん家の一階にはリビング&キッチン、トイレ、風呂、来客用の間、そして仏壇の部屋があり、二階には俺たち兄妹の部屋(三つ。しろ兄ちゃんとくろ兄ちゃんの部屋は大部屋で、二人で一つの部屋を使ってるが、仕切りがあるので二部屋みたいな扱いになってる)、トイレ、母さん父さんの部屋、父さんの趣味部屋、あとリビングがもう一つある。
三階は屋根裏部屋と、開けたベランダ。後は物置しかない。
「留依兄ちゃん、はよぉ……。」
寝ぼけ眼で降りてきたのは雨。
それでも着崩すことなく制服を着てきている上に、教科書などが入ってるであろう膨らみのあるカバンも持っており、学校に行く準備はきっちりしてきたようである。
「おはよう、雨。今日は遅かったね。」
「おはよう。さては、夜ふかししてたな?」
「ん〜ん…夜ふかしはしてない…単なる寝坊。」
雨はねむい…と漏らしながらソファに座る。
スマホを出して時刻を確認、七時十八分。
もうこれくろ兄ちゃん来ないだろ…。
と思いつつつぶいたーを確認。
あぁ、また色んなVTuberさんからDM来てる…………。
兄ちゃんたちへのコネ作りに来る人ほんと多いからなぁ…。
そう思いながら一応一通一通読んでいく。
彼岸花さんみたいな人からのDMが混じってることがあるからね。
すると、一通だけ悪意にまみれた、というか、悪意がどうしても隠せなかったというふうなDMがあった。
「これ、なんて読むんだ…。
あやせ…みつじ?」
一見男性名にも見えるその名前。
OurTubeで確認すると、書生姿が堂に入った男性のようなVTuberさんだった。
そして、男性でも許せない同盟、通称D.Y.Dの第一人者でもあるらしい。
「D.Y.Dか…。」
この世界の兄ちゃんたちがきっかけとなって作られた団体で、団体に加盟している女性は千人にものぼる。
まぁ、男性管理局とかいう機関から取り締まられているから、表立って活動している人は本当に少数なんだけどね。
「えぇっと、なになに?
『拝啓、【咲久和 華】様
突然のDM失礼いたします。
私、OurTubeでVTuberとして活動させていただいている【文世蜜慈】と申します。
この度ご連絡いたしましたのは、私が取り仕切らせていただいております、“男性でも許せない同盟”に関するお話でございます。
突然ですが、咲久和様はこの世界についてどう思われますでしょうか。
私の考えといたしましては、貴重であるというだけで男性が優遇され過ぎな世界に、大変憤慨しております。
身近に男性がいらっしゃる咲久和様にとっては日常なのかも知れませんが、私たちにとっては異常、非日常であるのです。
男性に暴言を吐かれるということがどれだけ苦痛か。
他人に暴言を言われるだけでも苦痛を感じるという人が大多数を占める中で、男性という希少な種に暴言を吐かれることはとてもダメージが有るのです。
もし、このような思想を咲久和様も抱かれていましたら、下記の電話番号までご連絡下さいませ。
長文失礼致しました。
tall : 0120−****−***
文世蜜慈』
……………ぅわぁお…。」
「これまたキッツイDM来たなぁ、留依。」
「うん……って!? くろ兄ちゃん!? 急に後ろに現れないで!? 怖いから!」
すまんすまん、と苦笑しながら隣に腰を下ろすくろ兄ちゃん。
「どったの? ……うわ。」
俺が大声を出したことに気がついたらしく、耳につけていたイヤフォンを取って手元を覗いた雨は、表示されていたDMを見てあからさまに嫌そうな顔をした。
「雨、この人知ってるのか?」
「あ〜、うん。
毎日のようにくろお兄ちゃんたちのとこに苦情DMくれるVTuberさん。
結構悪質だったから、通報&ブロックしといた。」
得意げにVサインをする雨。
今、くろ兄ちゃんとしろ兄ちゃんに来るDMは雨が管理している。
雨が一番そういう対処が上手いというのもあるし、雨がやりたいと自主的に主張したというのもある。
末っ子の雨にそんなことをさせるのも…、って尻込みしてたら、雨がいつの間にか勝手にやってたらしい。
うん。そこには突っ込まないでおく。
流石に俺は女性Vだし、雨の負担を増やすのもってことで自分でやっているけど。
兄ちゃんたちのDMは本当にすごいからなぁ…………一回見せてもらったけど、なんというか、うん。
男性VTuberって、本当にすごい狙われるんだなぁ、って思った。
「じゃあ、俺もそうしといたほうが良い?」
「……んん〜〜〜。……それは留依お兄ちゃんの好きにしたら良いと思う。
だって、家のルールは?」
こちらを試すように見やる雨。
勿論覚えてるよ。
「「「「『自分のことは自分でする』!」」」」
いつの間にか戻ってきていたしろ兄ちゃんが加わり、四人合わさった声に、思わず笑った。
「ふふっ。」
「あははっ。」
「ご飯できたわよ〜」
「「はーい」」
「くろ、いつの間に降りてきてたの? 探したんだけど。」
「すまんすまん。ちょっと父さんに呼ばれてたんだよ。」
そんなやり取りが兄ちゃんたちの間でされていたのを尻目に、俺たちは食卓についたのであった。




