28 トラウマ
遅くなってすいません……!
「ぅう゛、あ、すい、ません。
思わず………。」
何分経ったか、時間の感覚がなくなってきたころ、真人くんは泣き止んだ。
「大丈夫だよ。真人くんは大丈夫?」
「だい、じょうぶです。ありがと、ございます。」
所々つっかえるところはあるものの、ちゃんと受け答えできている。ちゃんと落ち着いてきているようだった。
「目、腫れちゃったね。
洗面台ってどこかな。」
しろ兄ちゃんが真人くんにそう声をかける。
「そういうと思ったから、用意してたよ。」
「雨、ナイス。」
いつのまにか居なくなっていた雨が、濡らした冷たいタオルを真人くんに渡している。
「あ、りがとうございます。」
「うん。
真人くん、私が経緯を話して大丈夫?」
雨が真人くんを気遣いながらも、そう話しかける。
「大丈夫です。
むしろ、お願い、します。」
###
「「「…………。」」」
話を聞き終えた俺たちは、思わず絶句した。
酷い。酷すぎる。
小学生。
教師達から強烈なアプローチを受け、同学年の女子が女子禁止区域(女子のアプローチが酷すぎるので設けられた区域)に侵入してきたことも日常茶飯事。いきなり家に来たこともあったらしい。
中学生。
小学校の頃より酷くなった。
教師からのアプローチや禁止区域への侵入も日常茶飯事。
何度も誘拐されかけ、実際に誘拐されたこともあった。幸い、早くに助け出されたので、そこまで酷いことはなかった。
そして、極め付けは高校生。
入学式から数日経ったある日、放課後、必要な書類のせいで遅くまで残っていた真人くんを待ち伏せし、組み伏せ、拘束し、明らかに異常な様子で迫ってきたらしい。
まず、この時点で執念がすごい。
その時もきちんと助け出されたのだが、この時の犯人はとくに執念深かったらしく、パトカーに乗るまで彼に暴言を吐き続けたらしい。
可愛さ余って憎さ百倍とは、このようなことを言うのだろう。
その後、犯人の供述としては、
「動機? アイツは私が好きだったんだから。本当だよ?」
「何度も何度もこっちをチラチラ見てたんだよ?」
「気があるに決まってる!」
「合意の上だよ! 罪なわけないじゃん!」
「お前らが私たちの愛を引き裂いたんだ!」
などなど。
「……っふ…ぅぁ……っ!」
この事を聞いている時、怯えたように真人くんがガタガタ、と震えていた。
その反応が、この出来事が事実なのだと実感させた。
いや、ひっどいな。
酷い、と言う言葉だけでは言い表せないほどの不快感と苛立ちの憎しみ。行き場のないそれを、拳を握ることで発散する。
しょうがない、と。
こう言う世界だから仕方がない、と自分を納得させるには、あまりにも、あまりにも…………っ!
これは、真人くんが引きこもってしまっても、仕方がない。
……雨が言うには、こんなのが日常茶飯事なのがこの世界らしい。
…………………………………巫山戯るな、と思ってしまった。
誤字脱字などがありましたら、遠慮なく誤字報告をお願いいたします。
また、感想なども遠慮なくお願いいたします。




