7 主人と奴隷
「いいか〜?お前はたった今、この俺、グラン様の奴隷の<サン>になった。
奴隷は主人に絶対服従!!
どんなに理不尽な事でも言う事をちゃんと聞くんだぞ!!分かったか!!」
最初が肝心とばかりに指を差しながら怒鳴ってやれば、サンはコクリと素直に頷いた。
それによしよしと頷くと、突然ゲホゲホっ!と咳き込むサンに、腰に括り付けた水袋を渡してやる。
「そんな病弱アピールは、これから通じないからな。とっとと水を飲んで、ゴブリンの耳と魔力核を集めるぞ。」
「……えっ……こ、これ……飲んでいいの……?」
タプンッと水がたんまり入った袋を手に持ち、ビクビクしているサンの口にグイッと袋の先を突っ込んだ。
「早く飲め!!時間がない!!早くしないと今日の稼ぎが手に入らないだろっ!!全く!このグズ〜!!のろまっ!!腐った顔!!」
最後は暴言をたらふく吐き出してやって、ジ〜ン……と感動に震える。
俺はやっと、『やる』側になってやったぞ!!
そんな喜びに浸っていると、そこでジワジワとやっと心が追いついてきた。
────待てよ?もしかして俺、夢叶っちゃったんじゃね?
俺が八つ当たりするための奴隷、手に入っちゃったじゃん!無料で!!
その事に気づき、心の中で飛び跳ねる。
つまり今までためていた金も自由に使えるから、これからちょっと美味しいモノを食べる事も可能だぞ!!
思わずガッツポーズをする俺を見て、サンは口に突っ込まれた袋の先端から恐る恐る水を飲む。
────ゴクンっ……。
そうして一口飲んだ瞬間、突然ごくごく!!と勢いよく飲み始めたサンにギョッ!としたが、どうやら麻袋に閉じ込められていたため、蒸していたのかもしれない。
喉がカラカラだった様だ。
それを見ていたら俺も喉が乾いてきて、サンがフゥ……と息を吐き出したタイミングで、水袋を奪ってゴクゴクと飲んだ。
するとサンは固まってジッと俺を見つめる。
「なんだ?どうした?」
「い、いえ……その……ご主人様は……俺の後……飲んで……。」
サッと自分の腐り始めている顔を触るサンに、俺はハンッ!と鼻で笑った。
俺は生きるために、ゴミだろうが腐った食い物だろうが何でも食ってきた男。
こいつはまだまだ若いから、下っ端の何たるかを何にも知らないな〜?
ニタリと意地悪く笑うと、そのままクックックっ〜……と口に出して笑ってやった。
「全く、本当に甘ちゃんだな、お前は!!
今日限り、そんなクソみたいなプライドは捨てろ。
腐ってようが何でも食べないと、下っ端は生きてはいけないぞ!!」
「……えっ?いえ、そうじゃなくて……。」
ぶちぶち言い訳ばかりのサンの頭を小突き、その後も固まってしまったサンに、サッサとゴブリンの耳を入れていた麻袋を持たせる。
「これからそんな言い訳は通用しないからな。
ほら、奴隷初日は勘弁してやるからそれを持って、俺の切り取った耳を入れるんだ!
後、ちょっと臭いからこのリングをつけろ、外しちゃダメだからな。」
サンは俺の命令に逆らえず、今度は無言でコクコクと頷いていた。
人に命令するって気持ちいい〜!
ジーン……と感動に震える胸を抑え、いつもやられる『ついてこい』のジェスチャー、顎クイっ!をすると大人しくついてくるサン。
更に気分が良くなった俺は、そのままご機嫌でゴブリン達の耳を切り取ってサンに渡していった。
◇◇◇◇
「ドブネズミと化け物は馬車に乗るなよ、気持ち悪りぃからな。
馬車で荷台を引っ張るからそれに乗れ。」
ビュードにそう言い放たれ、帰りは馬車の後方にヒモで括り付けられた小さな滑車付きの荷台に乗せられる。
めちゃくちゃ扱いがグレードダウンした!!
ガーン!とショックを受けながらも、歩いて帰るよりマシ!と、ニコニコと愛想笑いをしながら小さな荷台に乗り込む。
そしてオズオズして動かないサンも、ポイッと乱暴に放り込んだ。
またサンが固まってしまったが、それを気にかける暇もなく馬車は出発し、ガタガタガタガタ!と、ものすごい揺れに晒され、沈黙。
最悪……最悪だ……。
そんな乗り心地最低ランクの、視点も定まらない程揺れる景色の中、サンはボンヤリと俺を見つめていた。
俺は座っているお尻が痛すぎて気づかなかったが……。
そうして無事にハウスに到着後、本日の稼ぎは相当よかった様でビュード達は大はしゃぎしながら綺麗なおネェちゃん達が沢山いるお店へ揃って行ってしまった。
しかも泊まり込みコースを頼んだらしく、明日の朝ごはんもいらない様だ。
よっしゃ────!!!朝の仕込みしなくてすむ────!!
今日は久しぶりにゆっくり寝れる〜!!
「ドンマ〜イ。」
「お留守番おつ〜。」
「右手の恋人と仲良くな〜おっさん。」
心の中で拳を握って喜ぶ俺には、ヒュード達のいつもの暴言など何も聞こえず、そのままニッコリ笑顔で見送った。
────バタンっ……。
そして扉が閉まった後、俺はチラッと隣でボンヤリ立っているサンを見下ろす。
サンはちょうど俺の頭ひとつ分くらい?小さくて、とにかく手足が細くてガリガリだ。
とりあえずご飯でも食べさせるか……。
自分の腹もぐーぐーと鳴っているのに気づき、「ついてこい。」とサンに命じてキッチンへ。
そして食料庫……の横にある鉄製の大きなゴミ箱へ向かい、そこのゴミ達を漁り始める。
このゴミ箱は、ヒュード達が食べ残したモノや傷んだ素材などが全て入っているゴミ箱で、そこだけは好きに扱っていいとのお許しが出ている。
こうして依頼が上手くいった日は、景気よく食材を買うためストックしておいた食材は丸々このゴミ箱へ捨てる事になっているので、本日のゴミ箱は宝の山!
キラキラと輝く様な食材達を前にせっせと集め、それを使ってあっという間に料理を作り上げていった。




