4 【腐色病】
パーティーで依頼を受けた時の俺の役割は《荷物持ち》。
依頼を終了するまでの全員分の荷物持ちと、討伐したモンスターの解体やその他全ての雑用は俺の仕事。
この仕事、まぁ正直言えば非常にキツイのだが────その分手に入るモノも多く、端金にしかならないモンスターの素材は全て俺のモノにしてよいと言われているため、持って帰れるだけ持って帰り、ギルドで換金する事が許されているのだ。
「ゴブリンなら<魔力核>は小さくて売れないからって、ヒュード達は捨ててくからな。数を集めれば、結構な稼ぎになるぞ!」
< 魔力核 >
人間で言う心臓部分の様な器官
強いモンスター程強い魔力を含んでいるため、冒険者ギルドで買い取って貰える
< 魔力 >
主に魔法を使う際に使われる動力源の事
他にも特殊能力を使う際も必要となる
馬車に乗り込んだ俺達パーティーメンバーと依頼主である商会の男は、目撃情報に従い森の奥地へと向かったが、攻撃スキルを持たない俺と商会の男は、ある程度の所で止めた馬車の横で待機することに。
討伐するためゴブリンの気配を探りながら更に森の奥へ潜っていったヒュード達を見送り、俺は緊張を解いて、んん〜!と背中を伸ばした。
そしていつヒュード達が戻ってきてもいいように、直ぐに焚き火を燃やし暖かいスープを作ると、商会の男性が貴重な胡椒をそれに振りかけてくれて、そのまま二人でスープを飲みながら話し込む。
「ゴブリンの襲撃とは、ついてなかったですね〜。」
「本当に最悪ですよ。
他国で仕入れた珍しい宝石類だけでも回収できればいいのですが……。
戦闘奴隷として売り出そうと買った犯罪者達も、根こそぎ殺されました。
ゴブリンは、強そうな人間の雄は真っ先に殺しますからね。
まぁ、元々かなりの安値で買い取ったので、大して損はしてませんし、それにそいつ等が餌になってくれたからこそ無事に逃げれたので、結果的に良かったですけど。」
ヤレヤレと肩をすくめる男性の話しに少々ゾッとするモノが背中を走る。
この男性は依頼を出した商会の会長さんで、商品の回収をしっかり確認するためにと依頼についてきた変わり者。
馬車の中でも色々な話を聞かせてもらったが、悪い人ではない極一般的な感性を持つ人だと思う。
そんな人にとっても奴隷は人ではない扱いで、その死に対しなんにも思っていないという事実に少しだけ恐怖を抱いた。
「……へ、へぇ〜!奴隷も買っていたのですか!犯罪者というと……盗賊か何かですか?」
「えぇ、たまたま他国からの帰り道によった街で、人身売買をしようとしていた大規模な盗賊団が捕まったんですよ。
そいつらはその前に村を一つ滅ぼして、女子供を全て奴隷として売り出そうとしたようですが、欲を掻きすぎて見つかってしまったようですね。
自分が奴隷になって、最後はゴブリンのおもちゃになっちゃうなんて……随分皮肉な話ですよね〜。」
男はペラペラと笑いながら話したが、突然笑いを止めて「そういえば……。」と何かを思い出したかの様に話し始める。
「その奴隷達の中に、一人だけ【腐色病】を患っている青年がいたんですよ。
話は聞いた事がありましたが、実際に見たのは初めてでした。
なんでも街の近くの森でフラフラしていた所を守衛が捕まえたそうで……犯罪者達を安く譲る条件で、恐ろしいからソレも持っていってくれと頼まれたのです。
だから一応隷属魔法を掛けて一緒に運んでいましたが、多分彼もゴブリンに……。
少し可哀想ですが、病気で苦しみながら短い人生を終えるはずだったでしょうし、一瞬で死ねたなら幸運だったといえるでしょう。」
しみじみと語る男は、そのまま俺が差し出したお茶を飲みながらフゥ〜……と息を吐き出した。
【腐色病】
原因は詳しくは分かっていないが、ある日突然発病する奇病だと言われていて、発病すれば致死率は100%。
体の一部がジワジワと腐っていき、最後は苦痛と共に死ぬ。
遅効性の病気であるため、初期は痺れる様な痛みと共に生活を強いられ、末期は酷い痛みと共に腐っていく体を見続けなければならない。
その壮絶な症状から誰が言ったか《神罰の証明痕》。
生まれる前、天のお空にいた時に神の怒りに触れた大罪人が患う病気ではないか?……な〜んて、囁かれているこの病気は、一般的には恐怖や差別の対象となり、見つかれば罵倒され石を投げられる。
伝染ったりしない事は分かっているのだが、近づけば穢れると言われ即座に殺すべきだとされていた時代もあったそうだが────不思議な事になかなか殺す事ができないのだとか。
更に滅多にお目に掛かれない奇病であるため、かつて見世物小屋で買い取った事例もあるが、そいつがいるだけで周りに不幸が訪れると噂が広がり、直ぐに破棄したと聞いた事がある。
そんな非常に珍しい【腐色病】という恐ろしい病を患った青年。
病の所為でいつ死ぬかもしれないという不安と恐怖の中、周りからは迫害されて……その孤独は一体如何程のものなのだろう。
……辛いよなぁ。
ズキッと痛む胸を誤魔化す様にパンパンと叩きながら、自分の夢である『奴隷を買って八つ当たり』が思い浮かんだ。
すると、何だか自分が恥ずかしい存在の様に感じ、心は重ダルくなったが、直ぐにハッ!とする。
いいじゃん、いいじゃん!
それが『普通』だもんな!皆やってる事なんだから!
両頬をバチンッ!と叩くと、頭を振って暗くなりそうだった考えを散らした。
運が良いか悪いかで人生は決まって、それに従って生きていくしかないんだから、俺のやろうとしている事だって全然間違ってないんだ!
勢いよくフンッ!と鼻息を吹き出す俺を見て、商会の会長さんはキョトンとしたが、俺はそれからも沢山の質問をし、和気あいあいとおしゃべりを続ける。
しかしそれから直ぐに離れた所から依頼終了の煙柱が上がったので、俺達は喋るのをやめて馬車に乗り込み、その場所まで馬を走らせていった。




