22 ここは?
サワサワ……。
顔を擽る感触に俺の意識は現実へと戻っていく。
重だるい瞼を必死に上にあげると……目の前にはもじゃもじゃと生い茂っている草達が見えた。
「……えっ??────────あ、あれ???」
混乱したままノロノロと起き上がり、周りを見回したが、ここはただの草が生えているだけの森の中の様だった。
ここは……?
「俺は……確かに、あの貴族に殺されて……?」
はっきりしてくる意識が死の感覚を思い出させ、その場で激しく嘔吐してしまった。
そしてゲェゲェと全ての胃液をぶち撒けると、胃と共に頭はスッキリとし、直ぐに頭に浮かぶのはサンの事だ。
「────っサン!!!」
俺はそのまま走って走って、先ほどとは違う様な気がする景色に違和感を覚えながら、ハウスがあった場所へと走った。
しかし、街の中心地からかなり外れていたハウスは確かに自然豊かな場所にあったが、今走っている景色はそれとは別物で……ここはまるで深い森の中の様だ。
「────ハァっハァっ!!サン、サン、サン!!」
それでも頭の中は、隠したサンのことで一杯で……そんな変化も目に入らない。
そうしてハウスがあったはずの場所へ着くと……目に映るモノが信じられなくて、呆然と立ち尽くした。
そこには建物……などはなく、殆ど腐っている柱や金属?の様なものが、申し訳ない程度に散らばっていただけだったからだ。
「えっ……ハ、ハウスは……?」
ヨロヨロしながら、更にその場所に近づいていくと、かなり古い建物の跡地であることは分かるが……何が建っていたのか分からないくらい朽ち果てている。
「な……何でこんな……。サン……。」
無駄だと分かっていても、俺はその跡地の土を掘ったり、そこら中に生えている草を引き抜いたりしてみたが、俺がいたハウスの何かに繋がるようなモノは出てこなかった。
もしかしてハウスごと焼かれてしまったのだろうか?
────いや、そもそも何で俺は生きてる……?
殴られた場所をペタペタと触りながら混乱していると、最後に聞こえた時計の歯車の様な音と────そして、男だか女だか分からない『 声』 のことを思い出す。
《ギフトの【渡り鳥】のスキル条件を満たしました。
これよりスキル<時渡り(未来)>を発動し、肉体を完全再生し1000年後の未来へ渡ります。》
「1000年……そ、そんな……バカな……。」
あり得ないと笑い飛ばそうとしたが、今でもハッキリと覚えている死の感覚が、それを完全な笑い話にしてくれない。
しかし、信じるには自分の中の常識が邪魔をする。
「そ、そうだ……!街に行ってみれば何か分かるかも……!サンの目撃情報もあるかもしれないし……。」
フラッ……と立ち上がった俺は、そのまま街があった方角へとおぼつかない足取りで歩いて行った。
◇◇
「な……なんだ……?これ……。」
街があったはずの場所に辿り着いた俺の目に写る景色。
それを前に、俺はガクンっと膝から崩れ落ちてしまう。
目の前に広がるのは街……ではなく巨大な湖だった。
海と間違えそうなくらい巨大なモノで、一日二日でできる様なモノではない。
震えながら透き通った湖を覗き込むと、そこは深くてどこまで続いているか分からず、まるで地獄まで繋がっているのでは?と思ってしまう程であった。
「まさか本当にここは……1000年後の世界……なのか?」
愕然としながら頭をぐるぐると回ったのは、これからどうしようとか、突然1000年後に飛んでしまった不安とかじゃなく……やっぱりサンの事だった。
「……アイツ、ちゃんとあの後逃げ切れたのかな……。逃げ切れても、多分長くは生きられなかったと思うけどさ……。」
サンの最後を想い、鼻の奥がツーン……と痛くなってきて、ポロポロと目から涙が落ちていく。
「サンは……もういないのかぁ〜……。」
口に出すと余計にその事実は重く絶望としてのし掛かり、その場で突っ伏すと、わーんわーん!と大声で泣いた。
「なんで1000年なんだよ!!渡り人のバッカヤロォォォォ────!!!
普段役立たずのポンコツギフトォォォ────────!!!」
クソみたいな人生の終わりに、更にクソみたいなこんなスキル!
本当に本当に酷すぎる!!
ギャーギャーと泣き叫んでいると、突然頭の中で大きな警戒音が鳴った。
《警告!警告!現在ある一定以上のステータスを持つ人型生物が接近中。
約90秒後にコチラに到着します。》
<渡り人のギフトスキル>
【危険察知(EX)】
ありとあらゆる自分の生命の危機を余裕を持ったタイミングで察知し、それを回避する事ができる行動を瞬時に頭の中で思いつく事ができる頭脳系スキル
「────えっ!!!??」
またしても男だか女だか分からない声が頭の中に響き、ギョッとする。
どうしようどうしよう!
オタオタと焦っていると、突然自分の中にある力を感じ、それを自然に発動した。
<渡り人のギフトスキル>
【インビシブルスタイル(EX)】
自身の存在を透明にする特殊隠密スキル。
何者にもこれを見破る事はできない。
自分の体が透明になったのに驚いていると、突然蹄の音が直ぐそばまで聞こえ、なんと甲冑を着た騎士の様な男達がゾロゾロと到着した。
驚き、口を押さえて動かずにいると、その男達はキョロキョロと周囲を見渡した後、喋り始める。
「……確かに男の声がしたと思ったのだが……気のせいだったか?」
「ほら、やっぱり気のせいだろう。
ここは『神罰の跡地』。
この罪深き場所に、わざわざ入る者はおらんだろう。」
『神罰の跡地』??
『罪深き場所』???
男達が何を言っているのか分からず、口元を押さえたまま男達の様子を伺っていると、突然全員がその場に跪いた。




