2 神様のギフトと夢
────く、くっそ〜……!今日は『俺、強いんだぜアピール』もか……。
それがヒュードの女を口説く時によく使うテクニックだと知っている俺は、とにかく大げさに痛がるフリをする。
要は狙っている女の前で、こうして暴力を振るい、『きゃー!強くてかっこいい!』って思われる作戦ってヤツ。
これが結構頻繁で、一番めんどくさいし何より痛い。
まぁ、最初の頃みたいにまともには喰らわないから明日には痛みは引いているが、ガキの頃は生命の危機を感じる時も多々あった。
しみじみと昔の嫌〜な思い出を思い出していると、呻く俺を見て満足したのか、そのままヒュード達はお気に入りの美女達を連れて、それぞれの部屋へと行ってしまった。
シ〜ン……。
鎮まり返ったその場で、俺はうめき声をピタリと止めてスクっと立ち上がると、腹に入れていた攻撃吸収効果を持つ鉄板の様な板を取り出す。
「────くっそ〜……。鉄板入れてもいてぇよ。さすがは攻撃スキル持ち。
普通に入ったら、一ヶ月はまともに動けなくなっちまう。
鍛冶屋のおじさんが失敗作だからって安く売ってくれたコレがあって良かった〜。」
ベコッと凹んでいた薄い板が、瞬く間にまた元のツルツルした形状に戻ったのを確認すると、その板をまた腹に入れて、上着で隠す。
そして、酒や食い物で散乱しているその場を見渡し、はぁ〜……と大きなため息をつきながら片付けを始めた。
ここは<ハウス>と呼ばれているパーティーメンバーの拠点地で、ちょっとした宿屋みたいな形状の建物だ。
メンバーたちはこの建物内にそれぞれ自室を持っていて、現在この散らかり放題の場所が共同の飲み食いするスペース。
ちなみに当然の様にハウスの掃除と、炊事洗濯、飯の支度は俺の仕事である。
「────ったく、こんなに食い溢すなよな。勿体ねぇ。」
上の階にあるメンバー達の自室から、何やら騒がしい笑い声や怪しげな物音を聞きながら、俺はメンバー達が食い散らかした飯を拾って食べる。
俺にとって、あいつらの食べ残しはご馳走だ。
それに舌鼓を打ちながら、スピーディーにその場の片付けを終わらせていった。
なんてったって、仕事はこれで終わりではない。
これから俺はパーティーメンバー達がしっぽりお楽しみの間に、掃除と明日の料理の仕込みを終わらせないといけないのだ。
サッサッと散らばる酒瓶を集めながら、毎日毎日変わらない自分の境遇を改めて考え、大きなため息が溢れた。
この世に生まれた瞬間、最高のアドバンテージは身分。
そしてその次に人間の価値を決めるものは、先天的に備わっている特殊な才能、通称<神様のギフト>というモノだ。
これが何かによって、俺達人間の人生は更に大きな分岐点を迎える。
俺は動きを止めて、先ほどヒュードが蹴飛ばしたら歪んだ鉄板入りの腹を思いきり叩き、びくともしないことを確認して大きく肩を落とした。
だいたい一人一つ持って生まれるその<神様のギフト>だか、これはかなり当たり外れが大きく、一般的に戦闘に役に立つ才能なら、大当たり。
つまりそれを持って生まれたヒュードは、身分が無くとも人間としての価値は高く、それなりに尊重される人生が約束されているというわけだ。
そしてその他にもチョコチョコと、頭脳系や特殊系など、ある分野では役に立つというモノが当たりに分類され、それ以外はハズレ。
ちなみにハズレの代表としては『一般人』とか、『怠け人』とか?
後は正体不明のギフトも沢山あって、恩恵が何もないモノや、マイナスの作用を持つ才能も多々あるため、そういったヤツらは大外れを引いた者として、100%最底辺として生きていかないといけない。
ちなみに俺の『神様のギフト』は────……。
「────正体不明、かつ未だ大した恩恵なしの【渡り人】だもんな〜。なんだよ、それ。渡り鳥かよってな!」
止めていた動きを再開し、集めた酒瓶をテーブルの上に置きながら……俺は乾いた笑いを漏らして天井を見上げた。
そのギフトは、今まで俺に大した恩恵を与えてはくれず、そのせいで俺はひたすら底辺のまま。
親に捨てられ才能のない奴が、大抵行き着くのは犯罪者への道なのだが、それを考えれば────。
「俺って結構凄いよな〜。
媚を売ったり、お世辞をいいまくったりはするけどさ。
努力の賜物っつーか……あ、『渡り人』ってもしかして下っ端の才能でもあったのかもな!」
一人で笑いながら、そのまま床に落ちているティッシュなどのゴミもゴソゴソと片付け始めた。
すると────キラっ!と光るモノが、そこら中にチラホラと落ちているのを発見して目を光らせる。
────ニヤァァァァ〜!
俺は笑いながら、その光る存在を拾い集め、直ぐに数え始めた。
この光る物の正体、それはズバリ『お金』だ!
「クックック〜!アイツら女を気前よく買った時、細かいお釣りの金は忘れちまうからな!
今日も秘密のお小遣いゲットだぜー!」
その場で硬貨を数え終わると、ホクホクとポケットにしまう。
そして直ぐに掃除を再開し、部屋をピカピカにした後は、次の日の料理の仕込みを終え、急いで自分の部屋へと駆け込んだ。
勿論部屋といってもヒュード達の様な立派な一人部屋ではなく、そこは階段の下にある小さな物置部屋で、掃除用具が同居人の部屋だが結構住み心地は悪くない。
ギシギシという木の軋む音と、アンアンという女性の艶めき声、そしてたまによく分からんプレーをしているらしい音などを聞きながら、俺は掃除用具が入っている木製のロッカーをゆっくりとずらした。
するとその下の床には四角い小さなドアが付いていて、開けるために手を差し込む穴が開いている。
恐らくココは元々ワインなどを貯蔵する様に作られた収納庫。
しかし、現在この存在は俺以外知らないので、俺専用の秘密の収納庫として使わせてもらっているのだ。
俺は穴部分に指を差し込みパカっと開けると、中は人が一人入れるくらいの空間があって、そこには今まで俺がコツコツ貯めて来た硬貨がごっそりと置いてあった。
「何年も貯めた俺のへそくり!まともに金も貰えない俺だが、実はちょっとした小金もちなんだぞ〜!」
早速今日ゲットした小遣いもそこに入れて、ニンマリと笑みを浮かべた。
実は俺は金を貯めて、『あるモノ』を買うという野望が昔からある。
それは、ズバリ────『奴隷を買うこと』!
その願いが叶った時の事を妄想すると、ニヤニヤと笑いが漏れてしまう。
『奴隷は人ならず。』、この国での奴隷の扱いは『物』。
ちなみに身分としては最下層のモノとなる。
大体は犯罪を犯した者や、借金で首が回らなくなった奴が大半で、ある特殊な魔法【隷属魔法】を施すことで、絶対に主人に逆らえない『物』になるのだ。
そしてそんな物をどうして欲しいのかといえば、答えは一つ!
「クックック!今まで俺がされてきた嫌なことをぜ〜んぶ!奴隷にやってやるんだ!
同じ目に合わせてやって、このどうしようもできない怒りと屈辱をぶつけてやる!」
グッと拳を強く握りながら、今までされてきた沢山の屈辱的行為の数々を思い出し怒りに震えた。




