12 普通なのに
爽やかな朝日と共に、胃の不快感を感じて俺は目を覚ます。
そして目の前で空になったお皿を見て、昨日の事を思い出した。
「あ〜……普段こんなにお腹いっぱいになる事ないから胃が耐えられなかったのか……。」
ムカムカ〜とする胃を擦りながら足元を見ると、サンがまるで猫の子の様に丸まって寝ている姿が目にはいる。
ス〜ス〜と寝る姿は年相応の少年で、ほとんど顔は腐って爛れているが、顔の造形事態は凄く整っている様な気がした。
「戦闘系の才能持ちに美形ときたら、本来はスーパー勝ち組様だったんだろうな……。」
俺は誂うようにツンツン……とサンの頬をつつく。
そしてむずかるサンを見下ろし、改めてサンの身体を見回した。
確かに外見が気になるヤツはいるかもな……。
頬をつついけば腐っているためか、ブヨブヨとスライムみたいな感触がするし、匂わなくても外見的にOUTなヤツは多いかもしれない。
俺はふ〜む……と考える。
サンは晴れて俺の念願の奴隷になった。
つまり俺の所有物。
これから嫌というほど、サンドバックにしてやって、今までの人生の憂さ晴らしをしてやる予定だが────所有物をちゃんと綺麗にするのも主人の務めだよなぁ……。
ピコンっ!とそう思いついた俺は、そのままぐっすり寝ているサンを置き、出かけようとしたのだが、ちょっと寒いかも?と、サンの上にテーブルクロスを掛けてから、部屋を出ていった。
そして物置小屋へと走っていき、木製のロッカーをどかすと、秘密のへそくりからお金を取り出す。
「目的の奴隷は手に入ったし、もうコレも泡銭になったもんな!
よ〜し!派手に使っちゃお〜。」
生まれて初めての自分のお金を使った買い物に心を踊らせながら、俺は商業エリアへとスキップをしながら向かった。
商店がずらりと並ぶエリアに到着してまず向かったのは、安い!丈夫!が売りの洋服屋だ。
そこで適当に長袖のシャツと長ズボンを選び、更にその上から被るフード付きの黒いマントとブーツも選び、他には白地の布を沢山買った。
「これなら姿は隠せるから、もう昨日みたいな事にはならないはず。
それに布地を顔とか手とかに巻いておけば、皮膚が爛れるのも抑えられるかも!」
フンフン〜♬と鼻歌を歌いながら歩いていると、直ぐに浮かれている自分に気が付き、自分の両頬を思い切り叩く。
何に浮かれているんだ、俺は……。
サンは俺の恨みと怒りをぶつけて発散させてやる『道具』なのに!
ブンブンと首を横に振った後、俺はなんとなくフッと周りの町並みを見渡すと────そこには沢山の『格差』が見えた。
路地の裏には沢山の浮浪者達。
そして街を堂々と偉そうに歩くのは、たまたま才能に恵まれた奴らか生まれつき身分という最強の力を持った奴ら。
更にその周りを囲って守る様に存在しているのは、そんな奴らを輝かすためだけに存在し全てを捧げて尽くす事が当たり前の『力』を持ってない奴らだ。
弱いヤツは強いヤツのためにその命を消費する。
これが『普通』なんだ。
だから……俺が『強いヤツ』になってみたっていいじゃん。
また言い訳の様に呟きながら、手に持つ洋服達と包帯を見つめた。
……せっかく『強いヤツ』ってヤツになれたのに、何やってんだ、俺。
自分が必死に頭を下げて媚びてきた過去達が、今の自分を罵ってくる。
『何やってんだよ!』
『自分が今までされてきた嫌な気持ちを、誰かに味あわせてやれよ!』
『そしたらスッキリするからさ。』
『自分が可哀想じゃなくなるんだ。自分より不幸なヤツを下にすればさ。』
「……それが『普通』。────分かってるんだって。」
ボソッと呟いた後、突然サンと一緒にご飯をお腹一杯に食べた時の記憶が過る。
そして────……。
『ありがとう』
自分に向けて言われた言葉が頭の中に響くと……過去の自分がフワッと消えていく様な気がした。
なんだかその不思議な感覚に首を傾げていると、回復系のアイテムショップの前を通りかかり、ピタリと足を止める。
回復系のアイテムは普通のアイテムより高く、ヒュードはケチって滅多に買わないため俺も入った事がないが、色々な効能を持ったクスリがあると聞いた事はある。
……ちょっとだけ覗いてみようかな〜。
痛みがあるといっていたサンを思い出しながら────俺は初めて回復系アイテムショップへと足を踏み入れた。
そうして結局お店を出る頃にはお昼時になっていて、結構長い時間店にいた事に気づき驚く。
しかしいい買い物ができたので、俺は上機嫌で帰宅し始め自然と足は小走りに。
サンはもう起きているだろうから、急いで帰ろう。
逸る気持ちで走り出し、ハウスに到着後、直ぐにドアを開け中に入ったのだが、なんとさきほど転がっていた場所にサンがいない。
あれ……??あいつどこに行ったんだ??




