10 ラッキーだろう
「俺がこの病気になったのは……六歳の時でした……。
それまでは……同年代の子達より……何でもできたから……。モンスターとの戦闘も……大人より……できた……。」
「へぇ!────って事は、サンは戦闘系の才能があったって事か?」
普通は戦闘系の才能がないと、モンスター相手に戦うことは不可能。
しかもそんな幼い頃から戦えたなら、相当凄い才能があったと想われるが……サンは静かに首を横に振った。
「……判読不明だった……。小さな村だったから、それ以上の事は……。ただ両親は凄いギフトだろうって……。
そしていつか大きな街に俺を連れて行くから……そこで自分たちの面倒を見て欲しいって……言ってた。」
「ふ〜ん。まぁ、戦闘系の才能がありゃ〜ガッポリ稼げるからな。
羨ましいこって。」
才能ゼロな俺からしたら羨ましい話に、ケッ!と不貞腐れた様な態度を取ると、サンは薄暗い表情を見せる。
「……でも、この病気が発症して捨てられちゃった……。
……今まで俺の事を大事だって……愛してるって言ってたのに。
まるで別人みたいにあっさり俺を森に捨てたよ。
そこで死ねって……。気持ち悪いとか臭いとか……散々悪口言ってた。それからずっと一人。」
「……ふ〜ん。」
役立たずだと捨てられた俺より不幸だ。
そう思うと、チラッと頭の中にある事が浮かんだ。
『はぁ〜今日はついてねぇわ。────あ、でも〜お前の人生より全然ついてるからいっか!
お前みたいな役立たずがいると、嫌な事があってもすっげぇ慰められるわ〜。
良かったじゃん、少しでも人様の役に立てて。』
どこでも言われ続けてきた言葉だが、今は俺が使う側になれるんじゃないか?
あー自分より不幸なやつ見て、慰められた〜!って。
そうやって不幸な奴を使えばいいのか。
いつも言われている言葉を、今度は俺が言ってやろうと、ニヤリと笑いながら口を開いたが────……。
「……死ななかったんだからラッキーじゃん。
寧ろそんな嘘つき共に一生利用される人生じゃなくて良かったんじゃね?」
「……えっ?」
何だかそんな気分になれなくて、全然言おうとした事じゃない言葉が口から飛び出した。
一応これでも嫌なやつに媚びる事に関して経験豊富な俺から言わせて貰えば、多分サンの両親は一生息子に食わしてもらおうと思ってたと思う。
しかも大きい街でって事は、確実に今以上の暮らしでって事。
俺はわざとらしくヤレヤレと肩をすくめた。
「俺が言うのはなんだが、お前の両親結構クズだと思うぞ。
酷い事言って殴ってくる様なヤツの方がずっとマシ!
ちょっとした優しさを見せて、人を使う奴の方がタチ悪いんだ。それで逃げ出さない様一生飼い殺されるからな。
だからスッパリ捨てられた今が、一番幸せな結末だって事。なんたって自由だし。」
「一番幸せ……?俺……自由?」
確かにスパッと捨てられるって辛いかもしれないが、長い人生から見たら、それこそが一番いい選択肢だと俺は思っている。
下手に優しくされて離れられないと、骨までしゃぶり尽くされるってもんだ。
……まぁ、力がないと、結局自由ってわけにはいかないけど!
ググっ!と唇を噛んで悔しい気持ちを飲み込むと、サンは小さく空気を吐き出すと、そのままフッ……フッ……と連続して吐き出し、最後はアハハッ!!と大笑いし始めた。
突然の大爆笑に俺がギョッ!としていると、サンは嬉しそうに笑顔のまま俺を見る。
「確かにそうだ!俺は自由。何のしがらみもなく残りの人生を生きていく事ができる!!
……あぁ、おかしいな。俺は初めて、今生きているんだって……幸せだって思える気がする。
こんな化け物みたいな姿になったのに。ありがとう……ご主人様。」
「……お……おぅ……。」
サンがあまりにも幸せそうに微笑むから、何も言えなかった。
そして同時に、自分より不幸なヤツを使う事は意外に難しいのだと理解し、ズズ〜ン……と凹んだ。
上機嫌で芋の皮むきを始めたサンを見て、バツが悪くて頭をポリポリと掻く。
そして八つ当たりの様に、またガミガミと芋の要領の良い剥き方を教えてやっては、素直に聞くサンに気分は上昇し、いつもより早く時間が過ぎていった。
それからメンバー達がポツポツと帰宅し始めたため、俺はサンに命じ、直ぐに奴らが歩きながら脱いでいく衣服を集め、そのままスタコラサッサ〜と視界に入らない様に裏手の井戸へ。
そして洗濯物の洗い方も教えてやると、サンはあっという間に完璧とも言える洗濯をマスターし、いつもの数倍……いや、数十倍ものスピードで洗い物が終わる。
その後は、夕食の準備をしていたのだが……そこでちょっとした事件が起こる。
「おいっ!!!ふっざけんなよ!!化け物がっ!!!気持ちりぃんだよっ!!」
なんとメンバーの一人が、俺の後ろについて食事を運んでいるサンを見て、突然切れ始めたのだ。
サンは顔の大部分と、ボロボロの衣服から出ている腕と足がドロドロに腐っているため、皮膚は爛れ黒ずんでいる。
それに対し匂いは抑えられても、視界に入る事や食事所にいるのが我慢ならないと大激怒してしまった様だ。
「申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ──────!!!」
俺は即座にジャンピング土下座をして謝ったが、そいつの怒りは収まらず、なんと料理をサンに向かってぶち撒けたのだ。
「ぶっ殺してやるっ!!!」
メンバーの男は、それでも怒りは収まらない様で、サンを本気で殺そうと剣まで抜いた。
それにびっくり仰天した俺!!
アワアワしている間に、そのまま剣は勢いよく尻もちをついてしまったサンへと振り下ろされそうになったので、俺は咄嗟にサンの上に覆いかぶさって目を瞑った。
はいっ!!俺、死んだ〜〜!!絶対死んだ──────!!!
ぼんやりとそんな事を考えながら、迎えにくるであろう死神に『天国への運賃おいくら?』な〜んて尋ねる妄想をしながら、震えていたのだが……なかなか衝撃が来ない。
「あ……あれ???」
それを不思議に思いながら、恐る恐る目を開けると、目と鼻の先には剣と剣。
つまり先ほど激昂した男が振り下ろした剣と、それを止める様に交わっている剣があった。
「おい、勝手に殺すんじゃねぇよ。その化け物はこれから使う予定なんだからよぉ〜。」




