滝壺にて
「エルエル来ねーな」
僕は岩に腰掛けて足を水に浸けている。冷やっこい冷やっこい。疲れが取れるわー。
「そうですね。もしかしたら、まだ上で苦しんでるのかもしれないですね」
そうだな。例え魔法で傷を癒したとしてもしばらく痛みは残る。痛みを消す魔法もあるそうだけど、痛みは体の不調のサインだから使わない方がいいので、その魔法はあまり広まってない。
「ウシオ、魚いるのか?」
「いるみたいですけど、良く見えないですね」
ウシオは大きな岩の上から滝壺を眺めている。結構広い。まるでそうめんみたいに上から水が落ちてくる。綺麗だ。ここは迷宮都市の中のはずなのにまるで大自然の中だ。なんか知らない鳥の鳴き声なんかもする。
滝壺を見ると、上から川の水が結構な量落ちてきてるので水は白くて滝壺の深さは分からない。僕は滝から離れてるのに、飛沫がここまで飛んできたりもしてる。やっぱり滝はいいな。なんて言うか空気がうまい。しっとりとしてて、澄んでるように感じられる。けど、気持ちいいけど、僕はここで水浴びするのは気がひける。なぜなら、水、冷たすぎるだろ。やっぱ、温かいシャワーがいいな。
「けど、エルエル来ても素直に羽くれるかな?」
「ご主人様のために抵抗しようがむしり取るだけです」
「けど、あいつ、飛ぶの上手いからな」
「そうですよね。飛んで逃げられるかもしれないですね。やはり会うなり強襲して両断してやるしかないですね」
んー、なんか本気なのか冗談なのかわかんない。いや、ウシオが冗談を言う事はレアだ。さすがに両断したエルエルから翼をむしるのはやだな。まあ、魔法で回復出来るとは思うが。
なんかウシオってやっぱり元魔物だけあってバイオレンスだよな。もうちょっと優しさを教育しないと。僕が子供の頃にして貰ったように、優しい昔話でも朗読して聞かせてやるか。笠地蔵なんかいいんじゃないか? という訳で今回は平和にいこう。
「ウシオ、却下だ。あいつは一応知的生命体だから、交渉でなんとかしよう。僕に任せとけ」
とは言ってもエルエルは来ない。それにサリーとシェイドも来ない。どこ行ってるんだろうか? エルエルと遭遇しててバトルになってなかったらいいが。
やる事ないので、僕とウシオは滝を満喫している。岩を伝って滝ギリギリまで近づく。
「くっそー、水着があれば飛び込むんだけどな」
嘘です。底が見えない滝壺は少し怖い。
「ご主人様、私、飛び込んでみましょうか?」
「いや、冷たそうだから、止めたがいいな」
「私は大丈夫です」
ドボン!
言うなりウシオは滝壺に飛び込む。怖いもの無しだな。




