第四十話 騙し合い
「ていやぁーっ!」
アナの裂帛の気合と共に放たれた突きを余裕をもってかわす。
明らかにアナの動きは鈍っている。
それでも腐っても高ランク冒険者、僕は箒をかわすだけで精一杯だ。もう、僕の膀胱に残された時間はあまりない。大振りな一撃をかわし、すこし距離が開いたところできりだす。
「あのですねー、盛り上がってる所に水を差すようで申し訳ございませんが、お花を摘みに行かせていただいてもよろしいでしょうか? もう我慢できなさそうです」
ちなみにお話を摘むというのは、冒険者間では用を足すという女性の隠語だ。
「なにっ! そんなこと言って逃げる気だろう。しょうがないな。見ててやるからそこでしろ!」
アナが、まるで新しいおもちゃを貰った子供のようなキラキラした目で僕を見ている。
しょうがないのは、お前だよ。さすが、エルフの血をひいているだけはある。
「あのー、せめて、後ろを向いてもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいだろう。だが、両手は上に挙げろ。よく見えるようにだ」
なにがよく見えるようにだろう。キラキラした目でロンギヌスを見るな!
「あのー、せめて目を閉じていただけないでしょうか?」
アナがサリーに目配せする。サリーは頷き目を閉じる。ちなみにモモさんは、既に目を閉じている。素直でよろしい。
「目を閉じたぞ! 早くしろ!」
アナは目を閉じる。だか、明らかに薄目を開いている。見えてるだろお前!
僕はゆっくり後ろを向いて、足を閉じる。
ジョボボボボボッ!
「今だ! やれ!」
アナが叫ぶ。
「スタンジャベリン、テン!」
サリーが魔法を放ったと思われる。
「イグニッション! アクセル・ハンドレッド!!」
水こぼれるの擬音を口から出すのを止めて、限界を超えた加速をして振り返ると、サリーの手から僕に向かっていくつもの光の槍が放たれてる。素晴らしい。大きな胸の形がまる見えだ!
一時邪念を捨てて、モモさんの方へ向かう。加速の負荷が僕を襲う。限界を超えた反動の全身の痛みに耐えながら、モモさんの腰を両手で抱え持ち上げる。
アナがこちらを向き近づこうとするが、まるでコマ送りのようにゆっくりだ。このスピードに対応するとは、化け物だな。
振り返ると、のろのろと光の槍が僕を追っかけてくる。確か昏倒の矢の魔法って言ってたな。
後ろを向き、そのことごとくをモモさんに吸い込ませていく。そして、優しく大地に横たわらせ、距離を取る。ここで、加速が解けた。
「キュー!」
モモさんは、口から言葉にならない声を出し動かなくなった。多分昏睡の魔法だから命に別状はないだろう。
「なんて、卑怯な!」
アナの口から漏れる。卑怯はお前らだろう!
サリーは、なにが起こったのかわからないのか、手を突き出して硬直してる。胸隠せ胸!
これでやっと1人無力化した、いよいよ膀胱が破裂しそうだ。
僕は人としての尊厳を守るため、この窮地を乗り越えてみせる!
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