第二十話 精霊女王
「ようこそ皆様、迷宮都市サーレ最下層へ!」
扉をくぐると澄んだ女性の声が僕達を迎えた。ん、声が若いぞ!
母さんじゃない!?
部屋の中では、まずは花のような香りが僕らを出迎えた。ここはとても広く天井の高い部屋で、ドーム状の天井には、闊達としたまるで生きているかのような天使の絵が描かれている。植物のような浮き彫りのある柱が二列に並びその中央には赤いカーペットがひいてある。そのカーペットがたどり着く所には金で縁取りされた赤い椅子、玉座みたいなのがある。そこに小柄な誰かが肘掛けに両手を伸ばして座っている。その人物は微動だにしない。
僕達はその部屋の玉座を上とすると右側にある扉にいる。真っ赤なカーペットからは外れてる形だ。控え室への出口、脇道、そんな感じだ。
僕らは自称リーダーのアナを先頭に玉座に近づく。
「申し訳ございません、どうしようもない事情がありまして、このままで失礼致します」
部屋のどこからというか、部屋全体から声がする。玲瓏玉の如き美声だ。
どうもアナは玉座から離れたカーペットを目指してるみたいだ。カーペットを歩きたいのだろうか。それかもしかしたらそれが王族と話をするマナーなのか?
足が埋もれる程柔らかい赤いカーペットを踏みしめながら玉座に近づくと、少しづつ人物の詳細が見えてきた。若い、多分僕と同じ高校生位の、端正な顔立ちの少女だ。痩身というか思春期独特の手足が長いような体型で、薄い緑色のシンプルだけど体のラインにしっかり合ったローブを着ている。恐ろしく、多分僕と同じくらい胸が大きい。
髪はつややかな緑色で、ウェーブを描いて肩口に流れている。その瞳は閉じていて、口元も緩く閉じられている。
若干、いや結構、僕、マリーに似ている気がする。美少女って似るものではあるからかもしれないけれど、僕はどっかで見た、いや多分どっかで会っている気がする。見ているだけで安心感や懐かさを感じる。それとは裏腹に僕の鼓動は早くなる。ドキドキして少し痛いくらいだ。
どこで会ったのだろうか?
記憶をたどるけど、どうしても思い出すことができない。もしかしたら僕の親族なのかもしれない。今度母さんに聞いてみよう。
僕達が玉座から少し離れて彼女の正面に立つと、また声がする。彼女の口元は微塵も動いていない。
「私の名前は、ラファエル。この迷宮都市の所有者で、妖精たちを統べるものです。世間では精霊女王と呼ぶ者もいます……」
部屋によく通る心地よい声が響いた。
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