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 ゴールデンフィンガー(中編)


「マリー、あの変態、ぶっ殺そうか?」


 僕の影の中からシェイドが顔を出している。確かにシェイドならアイツを簡単に倒す事も出来るだろう。だが、それは最終手段だ。ここできっちりアイツの心を折っとかないとまた絡まれる事になるだろう。


「大丈夫だ。自分でケリをつける」


「そうか、まあ頑張れよ」


 シェイドは戻っていく。


「おい、モミ。その魔法は何処で手に入れたんだ?」


 ゴールデンフィンガー。見た事も聞いた事も無い魔法だ。オリジナルスペルだと思うけど、誰がそんな下らないものを開発したのだろうか? なんか聞かなくても想像はつくけどね。


「フッ。この魔法は至高のハイエルフ、ベル様からいただいたものだ。両の手を合わせ、魔力を人差し指の先一点に縛り混み硬質化する魔法だ。マリーにカンチョーしたいと言ったら喜んで教えてくれた」


 モミは仁王立ちで光輝く人差し指を天に掲げる。めっちゃアホっぽい。

 やっぱりベルか……なんて下らない魔法を開発してるんだろうか。あとでお仕置きだな。

 なんか辺りから視線を感じる。ヤバい間違い無く僕もアイツの同類だと思われている。


「サドンデスデスマッチだ! 先にきっつい一撃をくれた方が勝ちだ!」


 サドンデスデスマッチ? なんか格好いいけど意味がわからない。まあ、要はカンチョー食らった方が負けって事か? 馬鹿か。1人でやってろ!


「よっこいせっと」


 僕はその場に三角座りする。お尻を床についたら、モグラでもない限りカンチョーできないだろう。


「誰がそんな事するか! ばーか!」


「なんだと、お前は勝負を放棄する気か? せっかく私がお前に合わせて、お前が大好きで得意なカンチョーで勝負してやろうと言うのに。それでもお前は聖女なのか!」


「おい! 変な事を大声で言うな。僕はカンチョーなんか好きでも得意でも無い! とっとと家帰ってクソして寝ろ!」


「そうか、うんこ漏らすくらいのきっついやつが欲しいのか。手加減するつもりだったがお前がそう言うのなら仕方無い。全力の一撃をくれてやる」


「おい、人の話を聞け! ていうか早くしらふになれ」


「そうだな。まだエネルギーが足りてなかったな。おい、お前、早く焼酎もってこい!」


 モミと目が合った兄ちゃんがパシらされて、キッチンに走りジョッキをもってくる。それをモミは構えを解き、受け取りあおる。僕は座ったまま逃げるチャンスをうかがうが、モミは僕から視線をはずさない。けど、ヤツがもっとへべれけになれば逃げるチャンスは訪れるはず。


「マリー、今日こそは、お前に悶絶するくらいの一撃をかまして、その無駄にデカい乳を思う存分揉みしだいてやる!」


 トロンとした目でモミが僕を見る。


「やれるもんなら、やってみろ。お前が何しようと、座ってる限り、僕は無敵だ!」


 とりあえず挑発する。ヤツが暴れまわって、あと少し、あと少し酔いが回れば寝るはずだ。後しばらく我慢すれば僕の勝ちだ。


「フッ。私は来る日も来る日もお前に負けた事を反省し、カンチョーについて考えつづけた。その特性、その弱点について全てだ。そして、ベル様にこの魔法をいただき、雨の日も風の日も雪の日も訓練に明け暮れた。ただお前を倒す事だけ考えて……」


 まじで、ドン引きだ。見た目綺麗なお姉さんなのに、ずっと冒険者ギルドの受付しながらカンチョーの事を考えつづけたのか? カンチョーの訓練ってどんな事してたんだろうか? 多分、聞いたら気分が悪くなるような事してたんだろう。


「ゴブリン、オーク、コボルト、オーガにトロール。数多くの魔物を屠って来た、私の最強のカンチョーを受けてみよ!」


 うげ、魔物をカンチョーで倒しつづけたのか? 筋金入り、筋金入りのアホで変態だ。

 モミは両手を上げて組んで人差し指を伸ばす。


「究極魔法『ゴールデンフィンガー』!」


 モミの良く通る声がカフェを震わせる。



 読んでいただきありがとうございます。


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