第二十三話 癒しの力
「ああああーっ!!」
アルスの吐血にまみれ、僕は、悲鳴をあげる。いつの間にか完全復活をとげたアンデッドが、アルスの剣でアルスの胸を貫いていた。
「なんて凄まじい聖なる力だ! あと少しで消滅させられる所だった」
完全復活したアンデッドは話しながらさらにアルスに深々と剣を刺す。アルスは力無く両膝を地につく。
どうしよう……
僕は考えを巡らせる。
アルスは、自分を貫いた剣に手を触れ、目を見開く。今、何が起こったか理解できていないのだろう。
今の僕が使える魔法は、聖なる光を放つホーリーライトと触った者を回復するタッチヒールだけだ。
僕は魔力を抑えるロザリオを外し、多分混乱していたのだろう、自分の全ての存在と力を一つの魔法に込める。一瞬頭の中を何かが瞬き、僕の右手から膨大な魔力が溢れまるで大河のような白い光の奔流が辺りを包み込む。アンデッドは弾かれたかのように瞬時に後退する。
「タッチヒール!」
僕は力が抜け崩れ落ちかけながら、どうにかこらえて倒れ込んできたアルスの額に手をあてる。溢れ出た光が収束しアルスに吸い込まれていく。
『俺は、死にたくない!』
『もっと、もっと強くなりたい!』
『この娘を守りたい!』
『……おっぱい触りたい!!!』
僕の頭の中に力強い声が聞こえる。何なんだ? アルスの叫び?
「おおおおおおおおおおおーっ!」
アルスは激しい雄叫びを上げ力強く立ちあがる。彼を背中から貫いていた剣が勢いよくはじき出され飛んでいく。
アルスは金色の光につつまれて、金色の髪が逆立ちまるで火柱が上がるかのように天を突く。
「ああああーーっ、溢れるーーーうっ!!」
バシュッ!
アレスの全身の筋肉が肥大化し、上半身の服と鎧が弾け飛ぶ。そして僕に背を向ける。貫かれたはずの傷は一瞬のうちに消え去っている。
アルスの髪は激しく逆立ち、なんか金色のオーラ的なものが体全身を包んで居る。
僕は全ての力を使い果たし、その場にへたり込んでしまう。コイツはヤバい。僕の本能がここから逃げ出せとひしひしと伝えている。けど、体が動かない。
アルスは、アンデッドをびしっと指さす。
「てめーは、俺をおこらせた!」
アルスの怒声が辺りを震わす。それだけ路地裏の建物が揺れて小さな瓦礫とかが落ちてくる。
僕は肩で息をつきながら、やり過ぎたのではと後悔した。多分回復させすぎて、余った力が変な方向性に向かったのではないだろうか? 今のアルスは明らかに人外の匂いしかしない。
正直アンデッドより、絶対間違い無くコイツの方がやばい!
「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ!」
残像を残してアルスはアンデッドに襲いかかる。激しくリズミカルなかけ声でアルスはアンデッドを殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る!
高位のアンデッドは強い物理への耐性をもってるという。けど、そんなの全く関係ない。ただ物理、あり得ない程の力とスピードだ。
軟体動物みたいになったアンデッドさんは、なす術もなく手足を変な方向に曲げながら吹っ飛んだ。
「我に傷を与えるとは……このままではすまそんぞ、次相見える時には、地獄を顕現させてみようぞ!」
なんか、アンデッドさんは偉そうな負け犬の遠吠えをほざきながら跳躍する。凄い、瞬時にして体は粗方修復している。
まるで怪鳥のように宙にうかび、その体が弾けて、大きなコウモリが現れて上空に飛び出す。
みるみるうちに、僕たちとの距離が開き、影が小さくなる。ヴァンパイアだったのね。
「うんばらばっぱっ砲!」
アルスの突き出した両の手から、光あふれるエネルギー波が出て大きなコウモリを包み込む。刹那コウモリはなんか激しく爆発してその後には髪の毛一本も残っていなかった。
なんだ今の? 魔法? いや違う、純然としたエネルギーだった。
「楽勝っ!」
アルスは腰に手をあててどやる。なにが『楽勝』だ、さっき明らかに死にかけていた者の言うセリフではないと思う。
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