第三話 壊滅した鉄の盾重騎士団
「タッチヒール!」
僕が癒した青年の青白い顔に赤みがさす。
医者っぽい爺さんを捕まえて怪我が酷い者の所に案内させた。
まだだ。この青年にはまだ癒しが足りない!
「じいさん! 傷を見せろ!」
包帯が解かれて縫合された傷口が現れる。傷は大きくまだ血が止まってない。出し惜しみはなしだ。
「タッチヒール・テン!」
血が染み出している傷口に手をあてて、増幅した回復魔法を流し込む。みるみる傷が消えていく。
「抜糸っ!」
もう糸は要らない。すぐに傷口は塞がる。焦ってじいさんが糸を取る。そこに触れて癒して完成だ。青年の苦悶の表情が穏やかになる。
「次だ! じいさん!」
「おお、すごい癒しの魔法だ! あと何回使えるのじゃ? 救える命には限りがあるじゃろう。家族がいる者から優先的に……」
何的外れな事言ってるんだ。優先? そんなもの無い。全員助けてやる! ハゲの言葉が僕の心に火を付けた。自分も怪我してるのに部下を助けてくれと。そう言うのは嫌いじゃない。
今の奴もあと少し僕が来るのが遅かったら死んでたかもしれない。時間が惜しい。
ここはまさに地獄の入り口だ。むせかえる血の臭いに、耳を塞ぎたくなる苦悶の声。変えてやる! この不愉快な状況を。僕には力がある。癒しの力が。目の前で困っている者がいたら助ける。当たり前の事だ。転生前は無力だった。そんな当たり前の事も出来なかった。けど、今は違う。僕は僕の望むように出来る力がある! 地獄? 知らんな。そんなもんぶっ飛ばしてやる!
僕はじじいの胸ぐらを掴む。
「黙れ! じじい! 口を閉ざして、さっさと死にそうな奴の所へ連れて行け!」
とりあえず爺さんをビンタで黙らせて、次へ行く。人の命に優先って言葉を使った事に無性に腹が立った。
「気の荒い嬢ちゃんだな。こいつらはもうだめじゃよ。癒しの奇跡も足りないし、火傷が酷すぎる」
そこには、十数人の鎧を纏った男達が転がされていた。部分的には鎧を外されてるが、鎧が溶けてる箇所もあり、多分皮膚が貼り付いて剥がせないのだろう。ケロイド状の皮膚、炭化した手足を露出させてる者もいる。
とりあえず、じじいの尻を蹴る!
「じじい! さっき嘘つきやがったな! 怪我が酷い奴の所へ連れて行けと言ったはずだ! こいつらよりやばい奴はもういないだろうな?」
「こりゃ痛いな。わしが怪我人になるわ! こいつらが1番重症じゃ、見ての通り、もう助けてやれないじゃろう助ける事が出来る者から先に……」
「それは、お前じゃなくて俺が決める! じじい、口じゃなくて手を動かせ!」
じいさんが言ってる事は正論だ。普通なら。
けど、何故か解らないけれど、僕はそれにやたら苛立った。なんか、運命とかの前じゃお前は無力なんだと言われてるようで。勝手に人の限界決めるんじゃねー。僕の力を、地獄の努力で手に入れた力を見せてやる。僕の魔力は十六年間の何があっても続けてきた鍛錬の結晶だ。出し惜しみは無しだ。
「タッチヒール・アドバンスド」
僕は、一番近くの顔がケロイド状の男に触れる。水ぶくれが破裂するが気にせずゴイゴイいく!
じじいとその助手に鎧を剥がさせて、どんどん治してく。
しばらく後には重傷者を全員全快させていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんと、素晴らしい! 奇跡! これが聖女!!」
じじいが涙を流している。
「泣くのは後だ! どんどんいくぞ!」
僕はどんどん癒していく。患者に触れる右手のみならず、全身も血塗れだ。癒す時に浴びた返り血だけど、気にならない。初めは僕が重症者の所に行って癒していたが、騎士たちの復活者が気を効かせて、僕の所に患者を連れて来てくれるようになった。長蛇の列が出来てる。少しづつ軽傷になってきて話せる者も出始めたので、事の次第を聞きながら癒す。
聞いた話をまとめると、サンドリバーの街に巨大なレッドドラゴンが現れて襲いかかってきて、サンドリバー鉄の盾重騎士団は住民たちを身を挺して守ったそうだ。住民には軽傷の者しか出さなかったという。騎士団長の働きもあり何とか撃退したけど、あえなく壊滅したそうだ。サンドリバー重騎士団の団員総勢百人。一人として背を向ける事無く、巨大な竜に立ち向かったそうだ。
馬鹿だ!
こいつらは馬鹿だ!
いい馬鹿だ!
最高にかっこいい馬鹿だ!
話を聞きながら、僕の涙腺が緩む。マリーは泣き上戸だ……癒す手に力が入る。
それにしてもマッチョばかりだな……ていうかマッチョしかいない……まぁ重騎士団だもんな……
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