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第95話 王立学院③

王立学院に在学する妹と幼馴染に会いに来た俺は、妹エミリーから自分のルームメイトが俺に会いたがっていると告げられた。


「あぁ、それは、何でか知らないけど、構わないよ」


「本当?じゃあ、呼んで来るね」


エミリーは嬉々として席を立つと、ルームメイトを呼びに面会室から出て行った。


面会室には俺とマリーの2人が残る。


「「あの「兄さま」「マリー」」


エミリーが退出して間を置かずマリーが俺に話しかけ、同時にマリーに呼びがかけた俺の声と重なった。


「「どーぞどーぞ」」


お互い譲り合い、また声が重なった。


「ふふっ」


「ハハッ」


「なんか懐かしいですね、こういうの」


「そうだな」


「兄さまとこうして一緒にいると楽しい。でも、私が自分で壊しちゃったんですよね」


笑顔から一転して俯くマリー。


「あのさ」


途端に顔を上げるマリーに俺は想いを告げる。


「さっきマリーが俺に抱き着いてさ、俺もマリーを抱き締めたじゃないか」


「…はい」


マリーはコクンと頷く。


「その時思ったんだ。色々あったけど、俺はやっぱりマリーが好きなんだって」


「え⁉︎」


「幾ら振り返っても過去は変わらない。でも俺達は幼馴染から恋人になって、婚約して別れて、そして仲直りして幼馴染に戻った」


「ホルスト兄さま…」


「何人も恋人がいて何言ってんだと思うかもしれないけど、マリーが大好きだ。もう一度俺の恋人になってくれないか?」


俺を見つめるマリーの両眼からは涙が溢れ出し、止めどなく流れる。俺は懐からハンカチを取り出すと、恥ずかしそうに泣き笑いするマリーの涙を拭った。


「私のような兄さまを裏切った女が兄さまの側にいていいんですか?」


「その件なら俺は許しているよ」


「はい」


「それで、答えを聞かせてくれないか?」


俺達の婚約はマリーが「剣聖」の能力を授かった瞬間から、俺達の意思なんか顧みられる事無く王国とアプロス教団とによって有無を言わさず解消、というか最初から無かった事にされた。


だけど今の俺は貴族なんかではなく身分なんて無い。平民で上位金級の高ランク冒険者で、王国も教団も蹴散らせる実力があるのだ。だったら、もう何に遠慮なんてするだろうか?俺は奪われたままではいない。今度こそ好きな女を守り抜いてみせる。


「はい。私は兄さまを愛しています。私をもう一度兄さまの恋人にして下さい」


「マリー…」


「ホルスト兄さま…」


こうして一年振りに恋人同士に戻った俺とマリー。見つめ合う俺達に言葉は要らず、ただ心が満たされていく、んだけど…


「あの〜、お二人さん?そろそろ部屋に入りたいのだけど…」


部屋の入口からジト目で俺達を見るエミリー。その後ろには両手を口に当てて頬を染め、目を見開いてこっちを見ているルームメイトさんが立っていた。


〜・〜・〜


「お兄さま、こちらが私のルームメイトでクラスメイトでもあるソフィアよ」


エミリーが俺にルームメイトを紹介すると、ルームメイトの少女がソファから立ち上がって一礼する。


「ソフィアと申します。ホルストお兄さまの噂はエミリーからかねがね伺っております。今日は無理言ってお会い頂きまして有難う御座います」


「…」


この少女、何者だろうか?魔力の量が半端なく多いぞ。それに量もさる事ながら、その質は混じり物の無い純水のようだ。


輝くような金髪に高貴さを醸し出すコバルトブルーの瞳。ほんわかとした雰囲気を感じさせながらも美しく愛らしい顔立ちの少女。


「エミリーの兄で冒険者のホルストだ。妹が世話になっている。今後とも昵懇にしてやって欲しい」


因みに今の席は二脚の2人掛けソファとテーブルを挟んで配置されているので、俺の対面にエミリーとソフィアが並んで座っている。

まぁルームメイト同士と復縁した恋人同士が向かい合っている形か。


「はい。私はエミリーとは一生の付き合いで

いたいと思っています」


ソフィアがエミリーと生涯を共にすると言うと、途端にエミリーは顔を赤くしてもじもじする。よもや百合か? とかチラッと思ったりもしたけど、それもあり、じゃなくてこの場合は別の意味だろう。


俺は何となくこのソフィアという少女の正体がわかってしまった。であるならば、この少女が自ら正体を明かさない以上、俺がこれ以上深入りすべきではないだろう。


「やぁ、どうも長居しちゃったなぁ。兄ちゃん、そろそろお暇するわ」


我ながら態とらしい口調になってしまったな。


「兄さま、また来てください。私も金鶏亭に伺っていいですか?」


「勿論だよ、マリー。みんなにもマリーを紹介しないとな。連絡は例の手段で頼む」


「はい。ホルスは元気にしてますよ?」


ホルス?一瞬誰だよって思ったけど、マリーが式神の烏に付けた名前だった。何でも、マリーのルームメイトの先輩も可愛いがってくれているそうな。


「お兄さま、まだ帰らないで。大事なお願いがあるの」


エミリーの俺へのお願い。可愛い妹の願いなら叶えてあげたいところだけど、このタイミングでのそれはちょっと拒みたいものを感じるな。


「どんなお願いだ?聞くだけ聞くよ?」


俺から冷ややかさを感じたのか、言葉に詰まるエミリー。それでも意を決して口を開いた。


「あのさ、お兄さまからシキガミの烏を貰ったじゃない?」


う〜ん、シキガミとか第3者の前で触れて欲しくなかったな。まぁ、エミリーとソフィアは同室だから今更か。


「それで、ソフィアにもシキガミをあげる事って出来ないかな?」


「出来ないな」


「!!」


俺はエミリーのお願いをにべも無く断った。 するとエミリーはショックを受けた様な表情になった。


「あげられる訳がない。あれは俺の能力で作り出した、謂わば俺の分身であり、術の一つだ」


「でも私とマリーにはくれたじゃない?」


「それはお前とマリーが俺にとって大切な存在で、お前達を守るため迅速な連絡手段が必要だと判断したからだ」


俺がそのように説明すると、エミリーは下を向いてもじもじと照れだし、マリーは俺を見上げてうっとりと「兄さま」と呟いた。


「ソフィアさん」


「は、はい」


ソフィアという少女に深入りしないと思いながらも、この少女の思い違いを糺すため、この場で敢えて向き合う事にする。こんな調子で今後も何かとエミリーに無茶な要求をされたらたまらないからな。


「何で俺の式神が欲しいんだ?」


「お兄さま、それは私がせ「エミリーは黙っていてくれ」」


エミリーの言葉を遮り、更にソフィアに尋ねる。


「どうした?理由があるのだろう?」


ソフィアは何かを言おうとするも口をつぐみ、やがて意を決して口を開く。


「あ、あの、私は「魔女」の能力を授かりました。ですが、私は事情があって魔法の使い方を知りません。ですからエミリーがホルストお兄さまからシキガミの烏を貰ったのを見て、その、私にも使い魔があったらなと思いました。そうしたらエミリーがホルストお兄さまに頼んでくれると言ってくれて、」


俺が安請け合いしたエミリーをギロリと睨むと、すかさずエミリーは目を背けた。


「要は人の物が欲しくなったという事だな?」


俯いて「はい」と小声で答えるソフィア。随分としょげてるな。


「お前も「魔女」であるなら、自らの術という手の内を他人に見せる意味はわかるな?」


「…はい」


魔法と呼ぶか魔術と呼ぶかは現象を引き起こさせる方法に違いがあるものの、魔力による事は同じだ。魔法使いでも魔術師でも、敵対する者に手の内が知られては対抗措置をとられて戦闘でも暗殺でも不利となり、場合によっては死に直結してしまう。


「お前が誰だか知らないが、他人に大事な物を譲れと言っておいて自分が何者なのか名乗りもしない。俺は全くそこに誠意を感じない。そんな奴に俺の分身を譲れないな」


「お兄さま!」


「兄さま!」


俺の物言いにエミリーとマリーが抗議の声を上げた。


「ごめんなさい。私が安易にエミリーに頼んでしまったのがいけないんです」


ソフィアは再びソファーから立ち方がると、また深々と頭を下げる。


「申し訳ありません。ホルストお兄様のおっしゃる通りです。私がエミリーにシキガミを強請ったからです。エミリーはそれを断れず、辛い思いをさせてしまいました。これは私のおごった心に原因があります。本当に申し訳ありませんでした。エミリー、無理言ってごめんなさい」


「ソフィ」


ソフィアの隣りでエミリーが心配そうに彼女の名を呟く。


「お前の謝罪は受けるよ」


さて、言いたい事も言ったし、本人も反省した事だから今度こそお暇しようかな。


「申し遅れました。私は現ジギスムンド王の第3王女でソフィア・アディア・ジギスムンドと申します。以後お見知りおきください」


ソフィアはそのように名乗ると、スカートの裾を両手で摘んで見事なカーテシーをして見せた。


いや、それ狡いでしょう。名乗らないなら最後まで黙っていてくれよ。










いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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