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第94話 王立学院②

マリーは元服の儀で「剣聖」の能力を授かった際にクリスから勇者パーティに誘われて俺を裏切った。そしてその時に一度は本気で俺を邪魔者として殺そうとした訳だけど。暫くお互い離れてみて、やはり俺はこの娘の事が好きなんだと思い知った。


凡そ一年振りに抱きしめたマリーの身体。ちゃんと剣聖としての修行をしているようで引き締まっているものの、それでも華奢で女性らしく柔らかく、髪のいい匂いも変わっていなかった。


トントン


不意に肩を叩かれる。


「今、忙しいから後にしてくれ」


トントン


先程より強く叩かれる。しつこいな、誰だよ全く。


仕方なく叩かれた肩の方に振り返ってみると、そこには俺を睨む妹エミリーが腕組みして立っていた。


〜・〜・〜


「全く、信じられない!あんな公衆の面前で抱き合うとか」


「「ごめんなさい」」


所変わってここは王立学院の面会室。あの後、俺はエミリーにこっ酷く叱られて耳を引っ張らてここまで連れてこられたものだ。


その前に現場で一悶着ありましたけど…


〜・〜・〜


そこにいた生徒達は校舎の廊下で抱き合う俺とマリーを輪になって見ていた。そこから感じられたのは驚愕、羨望、好奇、侮蔑、呆れ、悲嘆、そして嫉妬と怒り。マリーはこの学院で剣聖として随分と人気者であるようだ。


「おい!お前、マリーから離れろ!」


突然、俺達3人の元に1人の男子生徒が怒りの形相で怒鳴りながら迫って来たのだ。


その頃には流石に雰囲気を察して俺とマリーも離れていたけど、互いに寄り添ってはいた。


「誰?お友達?」


「違います。断じて違いますから!」


俺の問いにマリーはぶるぶると頭を横に振って全否定。


その男子生徒は金髪を首のあたりまで伸ばした色白の優男。顔の作りは整っていて、その見てくれと態度から多分、伯爵家か侯爵家の次男三男といったところだろう。


「お前は誰だ?何故ここにいて、何でマリーに抱き着いたのか?」


やけに質問が多いな。人に物を尋ねるならまずは自らが先に名乗るという常識は親や家庭教師から習わなかったのか?


「エミリー、面倒くさいから面会室に行こうか?」


「え、えぇ」


俺はいきり立つその男子生徒をスルー。どうせマリーに気があるんだろ?だからって俺がまともに相手する義務なんて無いからな。それに相手になって俺が平民の冒険者だと知ったら「平民の分際で」とか「冒険者風情が」とか言い出すに決まっているんだ。それで激怒したマリーと揉めて騒動になって、とそんな流れが手に取るようにわかるよ。君子危うきに近寄らずってね。


「待て!まだ話は終わってないぞ!」


「貴様!俺のマリーに近付くな!」


男子生徒は尚も何やら喚いて煩いので俺を案内してくれていた中年女性の学校職員にお任せして、俺達は早々に面会室へと向かった。


「あれはマレーン伯爵家の次男で、名前は何だったかな、私に付き纏って迷惑しています。やけに上から目線で何様ですかって感じです」


マリーは心底うんざりした表情で最後の方は吐き捨てるように言った。おそらくはマリーの美しい外見と剣聖という肩書きに釣られ、マリーが平民であるのをいい事に高い(と本人は思っている)階級と実家の権勢でモノにして自分も成り上がろうという下種な野郎だろう。


大体、伯爵家の次男以下なんて長男のスペアであり、本人には何の権利と権力も無い。精々が自宅の使用人や家臣の子弟、領民相手に威張り散らせるくらいなものだ。ああした連中はそこを勘違いしてるよな。


「マリーも苦労しているんだな」


「本当ですよ。兄さま以外の男なんてクズばっかり」


いや、そんな事は無いと思うぞ?マリー。


「まぁあんな奴の事はどうでもいいよな。二人とも、なかなか会いに来られなくて済まなかったな」


俺は面会室のソファに座ってまま、対面に並んで座るエミリーとマリーに謝って頭を下げた。


「兄さま、顔を上げて下さい」


「まぁいいわ。こうして約束守って会いに来てくれたのだし。連絡用のシキガミもくれたしね」


エミリーが「んもう、しょうがないなぁホルスト君は」みたいなニュアンスで許してくれた。だが待ってほしい。それじゃあ俺がまるで射撃とあやとりしか能が無いの○太君みたいじゃないか?まぁ、彼は美人の幼馴染と結婚したけどね。


〜・〜・〜


それから俺達はこの1年の間にあった出来事や近況について語り合った。別々に過ごした時間とすれ違った思いを埋めるように。


「で、お兄さまはソロなの?」


あぁ!遂にそこに触れるか妹よ。しかし、これには訊かれた以上答えるのが誠意というものだろう。


「あ〜、ナヴォーリで海賊と戦った時に臨時で部下になった冒険者がいてな。お互いの連携も上手くいって、背中を預け合って戦った仲だからそいつとパーティを組んだんだ。なかなか腕の立つ下位銀級の冒険者で「で、その人って男?女?」」


エミリーに言葉を遮られ、且つ追求される。


「…ぉんなの人です」


「はい?声が小さくて聞こえないんですけど、お兄さま?」


「お、女の人デス」


エミリーとマリーは互いに顔を見合わせる。次いで2人して一斉に俺に顔を向けるとキッと睨む。


「兄さま、洗いざらい喋って頂きます」


「女性関係の事、嘘偽り無く全部よ?お兄さま」


「…はい」


俺はナヴォーリからのメリッサ、アイーシャ、ゾフィとの関係についてメルに関する事とアイーシャの出身以外の全てを話すハメとなった。


〜・〜・〜


「「…」」


エミリーとマリーは俺が話し終えると無言となり、視線を交わす。そして互いに顔を近づけては何やらひそひそと話し始めた。彼女達の会話を聞き取る事はホルストイヤーを使えば訳ない事だけど、それはマナー違反となるので止めておく。


非常に気不味いし、ひそひそ話しの合間に時たまこちらをチラっと見る二人の視線が痛い。俺は正義の味方、何一つ悪い事していない。していないはず、なんだけどな。


「はんけ、じゃない。お兄さまに私達から提案があります」


いや、エミリー。今、「判決」って言おうとしたよね?


「お、おう」


「ひこくに、じゃない。兄さまには今の金鶏亭を引き払って、クリス勇者パーティの館に引っ越しして貰います」


いや、マリー。今、「被告人」って言おうとしたよね?


「え、何でだよ?それにその話も前にゾフィから提案されたけど断っているんだ」


「それは私からゾフィさんに再提案しておきます。おそらくゾフィさんもミシェルさんも賛成するはずです」


なんか、マリーも目が据わっているし、拒絶出来る雰囲気じゃないな。元日本人の俺はつくづく空気に弱い。


「だって、そうすればお兄さまが泊まってる宿は宿泊料だって高いから節約出来るでしょ?それに勇者様の館に住めば学院だって近いから私達も安心出来るし。そのメリッサさんだっけ?その娘も官庁街からお兄さまの元に来るにも近くなるじゃない?それに勇者パーティに色々アドバイスしたり訓練するって約束したんでしょ?」


「え?う、うん。まぁ」


あれ、俺、そんな約束したっけ?アドバイスは求められた事はあったけど。


「話を聞けば、女癖が悪いとは言わないけど、お兄さまは目を離すとすぐ女の人が寄って来ちゃうから勇者様の館で弓聖様や聖女様に見張って貰います」


う〜ん、ここはどうにかして話題を変えて有耶無耶の内に一時撤退するとしよう。


「あっそうだ。2人にお土産いっぱい買ってきたんだ。ナヴォーリの真珠とかもあるんだぜ?きっと美少女な2人にはよく似合うと思うな。他にもさ「「(お)兄さま!」」」


「はい」


「お土産は後で有り難く頂きます」


「それとこれは別だから。誤魔化そうとしてもダメ!」


仕方ない。俺も腹を括るか。


「わかったよ。でもな、これは俺一人で決められる事じゃない。今や俺にもパーティメンバーがいるからな。まずはアイーシャとメリッサに諮らなければならない。それに、そもそも外野が勝手に進めて良い事柄じゃない。ゾフィとミシェルが賛成したってクリスとデリックの了解を取り付けないと」


「じゃあ、パーティメンバーが賛成して勇者が良いと言えば兄さまは?」


「まぁ、いいよ。俺は」


「お兄さま、本当ね?」


「あぁ、男に二言は無い」


と言いつつ俺はメルが反対するだろうと思っている。女子会には妙な上下関係が出来ているから、正妻のメルが反対なら余程の理由でも無い限りみんなそれに倣うはずだ。


この問題はマリーがクリス達の了解を得る、俺がパーティメンバーの了解を得るという双方持ち帰り自案として取り敢えず幕引きとなった。


「それから、私のルームメイトがお兄さまに会いたいって言っているのだけど、いいでしょ?」


え?貴族の娘と会うとか、気が進まないんだけど。




いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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