第93話 王立学院①
あ〜あ、せっかく「開眼!」「命、燃やすぜ!」とかやってみたかったのに。
「アクションヒーロー」の能力は今まで色々と試して来たけど、17番目の平成ライダーの「ゴーストハンター」能力、2番目の平成ライダーのとある能力の2つはまだ試せていないのだ。というか、試そうにもゴーストやレイスなんてそうそうお目にかかれないから試しようが無い。
まぁ、何にせよマルティン子爵旧邸購入の件は終わりだ。暫くは宿屋暮らしをしながら物件探しをしよう。ゾフィとメリッサの都合を考えると貴族街に近い立地が望まれるところだな。
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さて、今の俺はというと、王都に来て初めての単独行動の最中。
ここのところ常に朝から夕方までアイーシャと一緒だし、部屋には女子会メンバーが遊びに来ている事が多い。そして夜ともなれば美少女姿のメルがベッドの上から俺においでおいでするのだ。
勿論、全て嫌じゃないし、美人の恋人達と一緒にいる時間は嬉しいし楽しいものだ。だけど、それはそれ、これはこれ。
今日、俺はみんなに単独行動を願い出た。その理由は妹エミリーと幼馴染にして元婚約者のマリーに会うため王立学院へ行くからだ。
だってなぁ、妹と幼馴染に会いに行くのに、いくらパーティメンバーとはいえアイーシャのような美女を連れてはいけないでしょう。どうしてって、そんな事したら絶対にエミリーとマリーに「お兄さま、妹に会いに来るのに女連れとか信じられない!」「兄さま、この女性は兄さまの何ですか?」とか言われて責め立てられる事必定だからだ。
それに俺はこの世界では今まで家族には疎まれて縁が無かったからな。そんな家族の中でエミリーは俺にとって家族と思えるたった一人の妹だから、久々の再会の場では兄妹だけで過ごしたいんだ。
あ、マリーもね。マリーとは家族・兄妹同然に育った。彼女の事が本気で好きだったし、領地ではマリーの存在が心の支えだった。もしマリーが「剣聖」の能力を授からなかったら俺達は結婚して家族になっていたはずだから。
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ジギスムンド王国の王都ジルギットブルグ。この都市は王城を中心に貴族街の1区から時計回りに21区までの街区が王城を取り囲むように連なる都市構造となっている。区の数字が下るほどその区は王城から遠去かり、住民の階級は下がって貧富の差も広がるのだ。
1区から3区までが所謂貴族街で、4区から6区が官庁街、7区と8区が学術区、9区から21区が商工業・平民居住区となる。そして王都の城壁外には宿屋街があり、貧民街が存在している。
エミリーとマリーが在学している王立学院は学術区である7区にあり、校舎に講堂、学生寮と格技棟、運動場と広大な敷地を有している。
今まで、そこで婚約破棄があったり、悪役令嬢が糾弾されたり、ハーレム野郎が女を侍らせたりとかあったのかな、などと余計な事を考えてしまう。
え?ハーレム野郎はお前だろって?ハハハ、痛いところを突かれたな。
何て事を考えつつも、俺は13歳の時の元服の儀での事件を思い出した。あの事件で俺は王立学院に入学出来なくなったけど、もし、何事も起きずに入学する事が出来たとしたらどうなっていただろう。
と言って王立学院(=貴族社会)に未練がある訳じゃない。ど田舎の最下級貴族、その三男坊なんて王立学院を卒業したってその先はたかが知れている。どの道、俺はそこからはみ出て冒険者になっているような気がするよ。まぁ、ただ、もう一度キャンパスライフを送ってみたいという思いはあったかな。
なんて事を考えているうちに7区の王立学院に到着。
王立学院は王侯貴族や富裕な平民の子弟が在校しているだけに、そうした生徒達の安全確保のため煉瓦で築かれた高い塀に囲まれている。勿論、塀の上には槍みたいなトゲトゲの金具が付いた奴だ。その分厚い扉がある正門には衛兵の詰所もあり、部外者が学院を訪問する際は詰所の衛兵に身分と訪問の用向を伝え、学院側の許可が下りるまで学院内に入る事は出来ない。
俺が学院の正門に近付くと、早速槍を持った衛兵に誰何され、用向を尋ねられる。
「王立学院に平民が何の用だ?」
あぁ?確かに俺は平民だ。だから何だって?ものには言い方ってものがあるだろうが!
何て事を俺は言わない。自分よりも身分が低い者、弱い(と見た)者に強く出る事はこの世界、この国では普通な事で、常識でもある。だから一見横柄で嫌な態度をしたように見えるこの衛兵は、彼の持つ常識と職務意識により自分の仕事をキチンとしたと言えよう。
「俺は冒険者でホルストと言う。この学院に妹と幼馴染が在学しているので面会に来た。取次を願う」
その20代前半と思しき衛兵はジロジロと足の爪先から頭まで訝しそうに見て、更に妹と幼馴染の名を尋ねる。
「確認するから妹と幼馴染の名、学年、組を申せ」
「妹はエミリー・ヴィンター。ヴィンター騎士爵家の長女、幼馴染はマリー・マイルスターだ。組は二人とも1年10組」
俺が二人の名と組を告げると衛兵は目を剥いて驚き、「剣聖様の幼馴染だと?この小僧が?」と小声で呟いた。おい、しっかり聞こえているぞ。ホルストイヤーは地獄耳なんだからな?
詰所に勤める別の衛兵が確認のため校舎へと向かい、待たされる事暫し。
「確認が取れました。エミリー・ヴィンター学生、マリー・マイルスター学生共にお会いするとの事です」
確認に行った若い衛兵が学校職員を伴って戻って来て俺にそう伝えた。
それから学校職員の中年女性に案内されて校内を歩く。時刻は午後3時過ぎ、西陽差す廊下は課業を終えた制服姿の生徒達で溢れかえり、一人先を急ぐ者もいればはしゃぎながら学生寮へと向かうグループもいる。前世で俺自身が経験した学生時代とよく似た風景がそこにあった。
(何か、懐かしいな)
そんな感慨に耽っていると、何やら生徒達の一部が俺を見てひそひそ話をする声が聞こえる。
「ねぇ、あの人誰だろう?」
「来客かな?」
「何か、黒髪の貴公子って感じでカッコいいよね」
「「「ね〜」」」
ふっふっふ、このホルストイヤー(地獄耳)は自分に関する事ならどんなひそひそ声だって聞き逃さないぜ!
と、そんな事を考えていると、生徒達の間から一人の女生徒が駆け出して来た。
「ホルスト兄さま!」
その女性とは俺の前に躍り出ると、駆けて来たからか息を弾ませ、真っ直ぐに俺を見つめる。
真っ赤な髪をポニーテールに結い、大きな二重に青い瞳。真っ白でよく見るとほんの僅かに雀斑が浮く、それでいて美しく整った顔は以前よりも少し伸びた身長と共に彼女を大人びて見せる。
制服姿で俺を見つめるその潤んだ瞳の持ち主は俺の幼馴染にして元婚約者マリー・マイルスターだ。
「マリー、久しぶり。暫く見ない間にまた綺麗になったな」
「…兄さま」
マリーは瞳を更に潤ませると、感極まったようにそのまま俺の胸に飛び込んで来た。
「兄さま!お会いしたかった、兄さま」
「マリー」
おそらくは周り中から注目されているであろう俺とマリー。でも俺はそんな事気にせず、両腕の中の元婚約者を強く抱きしめた。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




