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第89話 ご褒美はパーティ結成

約2ヶ月振りに会うアイーシャは相変わらず綺麗だ。ナヴォーリで見せた冒険者スタイルの女戦士モードではなく、王都という都市に合わせた都会風に洗練されたお洒落で出来る女モードである。


茶金色のふわりとしたショートの髪、その頭からは狐耳がぴょこっと立っている。服装はというと、白い丈長のワンピースドレスにワインレッドのベストを着ていて、長身のアイーシャにはよく似合っている。足元は茶色の短ブーツを履き、ってこれでは頭から爪先まで舐めるように見ているかのようだな。


「あの、ホルスト様。久々にお会いしたからといってそう舐めるように見つめられては恥ずかしいですわ」


アイーシャは俯いて恥じらうようにもじもじしだしたので、俺は自らの失策に気付いた。


「いや、済まない。立ち話しもなんだから、そこに掛けなよ」


と俺はアイーシャをジロジロ見た事はスルーして、向かいの席に座るよう促した。


「それでは、失礼して」と言いながら腰を掛けるアイーシャ。初めての都会(まち)でアイーシャに会えて少しホッとしている俺。


アイーシャは俺が王都入りした事を知って早々に会いに来たのだろうけど、問題は彼女がそうしなければならない何かしらの要件なり目的がある訳で。何と言ってもアイーシャは王室直轄の秘密工作機関の工作員だからな。


「本当にお待ちしていましたよ?ホルスト様。ナヴォーリから王都まで2ヶ月は長すぎです」


少し拗ねたようなアイーシャも悪くないな。


「同行者もいたしな。そもそも、あちこち寄り道しながら物見遊山の旅だ」


「ゾフィさんとの旅は如何でしたか?」


「最初はどうなるかと思ったけど、まぁ、楽しくもあったよ」


すると、アイーシャは少しムッとした表情になり、「へぇ、それは良かったですね(棒)」と言うとソッポを向いてしまった。


俄かに曇った雰囲気を誤魔化すため、アイーシャにここに来た用向きについて尋ねる事にする。


「それで、俺に何か用があるんだろ?」


「そうですね。まずはご無事な到着に安堵致しました」


まだ硬い口調だけど、俺の身を案じてくれていたのだから、ここは素直に感謝しよう。


「そうか。それは有難う」


俺が礼を述べると、少し表情が緩む。


「ホルスト様、王都での宿はお決まりですか?」


俺がギルド本部の受付嬢から金鶏亭と向日葵亭を紹介された事と、宿は向日葵亭にしようかと思っている事を伝えると、アイーシャからは金鶏亭を推された。


「向日葵亭は中堅クラス向きの宿で決して悪くはありませんが、年若くして上位金級になられたホルスト様が滞在されますと嫉妬や反感から中堅クラスの冒険者達に絡まれたり、悪い噂を流されたりと嫌がらせを受ける事になるでしょう。また、上級冒険者のホルストに取り入って利用しようとする者が出ないとも限りません。よりグレードの高い金鶏亭の方が宿泊客や従業員のレベルが高く、そうした余計なトラブルも未然に防ぐ事が出来ます」


確かにアイーシャの言う通りだろう。俺は庶民的な宿で騒がしいながらも和気藹々とした雰囲気を期待した訳だけど、実際はそんなラノベの宿屋みたいな所は無い。向日葵亭にしても、同じような中堅クラスの冒険者同士なら協力したり、張り合ったり、牽制したりしながらやっていけるだろう。でもそこへまだ16歳の金級冒険者が入ったら、それは異物以外の何者でもなくトラブルの元となろう。


「それに、上位金級冒険者のホルスト様は貴族や上位聖職者、大商人といった身分が高い依頼人と接する事となります。彼等本人若しくは代理人と会うにも金鶏亭は都合が良いですし、秘密保持の面でも依頼人からの信頼を得られます」


流石は王室直轄の秘密工作員だ。そうした事情にも通じているのだな。そうした知識は俺にはあまり無いから、ここは助言に素直に従った方がが良いだろう。


「そうか、助かるよ。有難う、アイーシャ。じゃあ、取り敢えず金鶏亭に泊まる事にする」


「はい。是非そうなさって下さい」


いずれはどこかに部屋なり家なりを借りるにしても、それまでは金鶏亭が止まり木って事だな。高い宿だから王都到着間も無いけど、いっぱい働かなくちゃだ。


「ホルスト様なら依頼には困らないでしょうから、大丈夫ですよ」


そんな俺の内心が顔にでも出たものか、アイーシャが励ますような事を口にした。


「それに王都郊外にはダンジョンもありますから、そちらで稼ぐ事だって出来ますから」


そう言えば、王都の郊外には幾つかのダンジョンがあるのだったな。全国の冒険者が一度は王都を目指すのはそこにダンジョンがあり、一攫千金を狙えるからだ。


俺は食べながらでいいかい?とアイーシャに断りを入れ、給仕の女の子にアイーシャのために紅茶を注文した。


「一刻も早くホルスト様にお会いしたかったのが一番の用件です。それなのにホルスト様は早く仕事の話をしろとか、酷すぎですわ」


アイーシャは紅茶を口に付けると怒りモードで切り出した。


「ごめん。アイーシャが急に不機嫌になったからさ」


「それは不機嫌にもなります。だって、その、旅の間にゾフィさんと、」


「ごめん、無神経だった。その、ゾフィとは、まぁ、昨夜恋人になったよ」


「まぁ、いいでしょう。2ヶ月も一緒にいれば、男女ですからね、そういう事になるでしょう。ゾフィさんはそれを狙ってホルスト様に同行した訳ですし。それに、私だって負けていませんから」


勝ち負けとかあるのか?だけど、そう言ったアイーシャはバッグから一通の書類を取り出すと俺に読むように促す。


「ええと、「宛 アイーシャ・ロッカ 王都における冒険者ホルストとの連絡・調整担当を命ず」って、何これ?」


「お読みになった通りです。私、ホルスト様との連絡・調整担当に任命されましたので、今後とも宜しくお願いしますね?」


いや、俺は全く聞いてない話だ。しかも、何?連絡・調整担当って。


「こんな事を承諾した憶えは無いんだけど?一方的過ぎないか?」


「いえ、私がそうした担当になったという事ですので、ホルスト様はお気になさらずに」


いや、でもなぁ、そんな担当が付くって事はアイーシャを通してその組織って言うか、第1王子派が俺を取り込もうって事だろ、それ?


「それと、」


「まだあるの?」


もうスープ、冷めちゃったよ…


「海賊紛争の際のご褒美の件です」


「え?あぁ、約束だらな。俺に出来る事なら違法でも余程非常識でもなく、物理的に不可能な事じゃなければいいよ」


「有難う御座います。では、ホルスト様。是非、私とパーティを組んで欲しいのです」


「えぇ⁉︎パ、パーティ?」


確かにそれは違法でも余程非常識でもなく、物理的に不可能な事じゃなく、十分可能な事だけど、これは盲点だったな。確かにアイーシャのランクは下位銀級だから俺のランクとも釣り合う。実際、一緒に戦って背中を預け合った仲でもある。


しかし、アイーシャは順番を間違えたのか?先に俺とのパーティ結成を希望して、それが断られたら例のご褒美を持ち出せばいいものを。俺だって最終的にご褒美を持ち出されたら断り辛い。計算高、いや、頭の良いアイーシャならこんな簡単な駆け引きを思いつかない筈がない、と思うのだけど。


「本気なのです。これは私の本気のお願いなのです。どうかホルスト様、私とパーティを組んで下さい。私もホルスト様のお側にいさせて下さい。お願いします」


両手を祈るように組み、座ったまま閉じた大腿の上に置くと、アイーシャは深々と頭を下げた。


困った。アイーシャはいつも俺を逃げ場の無い状況に追い込む。


"メル、どうしよう?"


"知らないわよ、自分で決めなさいよ"


御説ごもっとも。


俺はこの世界に転生して「アクションヒーロー」の能力を授かってからは冒険者になって一人で諸国を巡り、弱気を助け悪しきを滅する旅をしようと思っていたのだけど。それが、メルが来て、ゾフィが来て、アイーシャが来た。もう俺の当初の予想なんかはとっくに破綻している、か。


尚も頭を下げるアイーシャを見る。その頭頂部には綺麗な分け目が、次いで不安そうに時折りピクッと動く両の狐耳が目に入る。この瞬間もアイーシャは俺に断られるんじゃないかと不安に思っているのかもしれない。


まぁいいか。こんな美人にパーティを組んでと請われるなんて男冥利に尽きるというものだよ。それに、周りで動かれるより、取り込んで内懐に入れていた方がわかりやすいだろう。何と言ってもアイーシャほ王室の工作員だから。


って事は、俺はもう王室、って言うか第1王子派に抱き込まれているって事では?あぁ、王都に来て早々にこうなったか。


まぁしょうがない。出来るだけ気付いてないフリをして、連中から何か言って来ても聞こえないフリをしよう。


「アイーシャ、わかった。約束だからな。2人でパーティを組もうか」


俺は席を立って下げたままのアイーシャの頭をそう言って撫でた。途端にバッと顔を上げるアイーシャ。今も泣き出しそう。


あぁ、確かに俺はチョロい奴さ。今夜当たり、またメルに叱られるのさ。


「有難う御座います、ホルスト様。有難う御座います」


アイーシャは俺の手を両手で取ると、そのまま頬に当て、スリスリと頬擦りをする。


「よし、これからギルド本部に行ってパーティ結成の申請手続きをしようか?」


「はい、ホルスト様」


アイーシャは嬉しそうに返事をした。


〜・〜・〜


⭐︎ アイーシャ視点


ホルスト様が私の"ご褒美"を用いたパーティ結成願いを断る事は無い、そう私は踏んでいました。ホルスト様はそういう方。信頼関係が築かれて内懐に入った者には甘く、庇護を与えるチョ、いえ、寛大で優しい方ですから。


ホルスト様は強いですけど、その分、私がした様にその甘さが突かれる事もあるでしょう。とても心配になります。だから私が一緒にいてこの方を世間の思惑や悪意から守って差し上げないといけません。


ホルスト様とのパーティ結成は単に私がホルスト様と一緒にいたいという事だけではなく、そうした意味もあるのですよ?


勿論それが私が組織から与えられた任務に利するという事も否定はしません。ホルスト様が私やゾフィさんと行動を共にしたという事実だけで貴族社会や裏社会はホルスト様を第1王子派の者だと思われていますから、更にそうした見方への補強材料になりますしね?


そうして私はホルスト様とパーティを組み、私は彼のパートナーとなりました。それはある意味で人生の伴侶でもあります。だって、私とホルスト様は戦場で互いに背中を預け合った仲なんですよ?パーティを組んだという事は一時的ではなく、それがずっと続くという事。何をするにも、何処へ行くのも一緒です。これを伴侶と言わずして何と言いましょうか。


ゾフィさん、ホルスト様の恋人になられたのですね?おめでとう御座います。でも残念、ゾフィさんは別のパーティなんですよね。ホルスト様と私は同じパーティなんですよ。


私は仕事の伴侶(パートナー)を足掛かりにホルスト様の人生の伴侶(パートナー)へとこのまま駆け上がります。


必ずやホルスト様の側を私の場所に。あなたには負けませんよ!

いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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