第86話 ゾフィの告白①
⭐︎ ゾフィ視点
メルダリス様に背中を押されてホルストを夕食に誘ったものの、このバトゥーダと言う宿場町、実は初めて来た街なのでどこにどんな店があるのか私は何も知らなかったりする。
ここは王室直轄領なので他の貴族領のよりも税率の割合が低い。そのため四公六民が守られて街並みも立派。泊まる宿からホルストと連れ立って歩くも私達は無言。この旅の中で滞在する街をホルストと歩くのは楽しく、そんな時はいつも2人して冗談を言ったり、珍しいものを見てはああだこうだとおしゃべりをしていたものだった。でも今の私にはこれからするホルストへの告白の事で頭がいっぱいでそんな余裕は無い。
私はエルフだから長命。と同時に身体の成長は人や獣人よりも遅い。それは精神面でも同じで、私はもう年齢だけなら108歳。だけど人や獣人で言うなら18歳といったところ。一応伯爵令嬢である私はもちろん男性との交際などした事はないし、乙女もいいところなのだ。そして今まで誰か男の人を好きになった事なんて無い。
だから初めて好きになった男の人がホルスト。でも伊達に108年も生きていない。人を見る目ならそんじょそこいらのヒトや獣人には負けない自信がある。だって長命であると言う事はそれだけ多くの人々を見てきているって事でしょ?
その中でもホルストは一番。ホルストと出会い、ホルストという男を知った以上、もうホルスト以外の男の人なんて私には考えられない。
因みに私には兄が2人いて妹もいる。そして私が授かっていた能力「弓士」が3年前に「弓聖」にレベルアップすると、勇者パーティーへの参加が王命で決まった。その際に父からは家にとらわれず弓聖として好きに生きなさい言われている。
別に私が実家から勘当されたわけじゃなく、「弓聖」を神から授かった事で貴族の義務やら今までの理から外れた存在に私がなったから、という事らしい。
だから私がホルストの恋人となっても、或いは妻の1人となっても問題ない。
馬車の中でホルストは必ず私の思いを受け入れてくれるとメルダリス様は言っていた。神族による保証付とは言え、男の人に好きだと言う気持ちを伝えるのは初めてのこと。緊張するに決まっている。
「ゾフィ?」
「ひゃい!」
ずっと考え事をしていたせいか、急にホルストに名前を呼ばれて変な声が出てしまった。
「あの店とかどうかな?」
ホルストが指で指し示す方には煌々と明かりを灯す少し高級そうでおしゃれなレストラン。
お金に関して言えば、私はそこそこのお金持ち。だから例えこの街で1番高いレストランであっても支払いに問題は無い。
そこは告白の事で頭がいっぱいの私に代わってホルストが歩きながらも見つけてくれたレストラン。店構えからして高からず安からず、美味しい料理が出て来そうな雰囲気が醸し出されている。それにホルストが見つけてくれたのだから私に否は無い。
「うん、行こう。あのレストランに行こう!」
「お、おう」
私の勢いにホルストはちょっと引いていた。
そのレストランは木材をふんだんに使った落ち着いた内装で、店内はテーブル毎にランプが灯されて、薄暗くも良い雰囲気を醸し出していた。給仕の少女に案内されて席につくと、私は1番高いディナーセットを2人分注文した。
「食前酒はどうなさいますか?」
ってそんな事もすっかり忘れていた。
「何かおすすめはあるかい?」
私がアワアワしていると、ホルストが機転を利かせてくれた。「はい。コレーツ領産の白ワインなどいかがでしょうか?」
「だってさ。どうかな、それで?」
私がご馳走すると言ったからだろう、ホルストが私に窺う。
「うん、それでお願い」
給仕の少女は「かしこまりました」と返事をすると厨房へと戻って行った。
⭐︎ ホルスト視点
ゾフィー、随分とテンパっているな。いつものクールなイメージはどこへやら。連れ立って歩きながらも少し顔を赤くしてうつむいて、時々チラチラと俺の顔を見て。まぁ、そこは気づかないふり、だよな。
そうしたわけでゾフィに店を選ぶ気配も無く、俺がここなんかどう?みたいな感じで目についたおしゃれで手頃なレストランに入るとディナーセットを注文、食前酒で乾杯だ。
若いウェイトレスがデキャンタから白ワインをそれぞれのグラスに注ぐと「どうぞごゆっくり」と言って引き上げていく。
「それじゃぁ、このたび最後の夜に、でいいかな?」
ゾフィは自分がご馳走すると言った割にはリードする気配が無く、仕方なく俺が進めることに。
「うん」
ゾフィーが小さく頷くと俺達はグラスを合わせた。
「「乾杯」」
そしてグラスに口をつけると、白ワインはほんのりとした甘さと酸味が利いて飲みやすく、とてもフルーティーで実においしい。俺はクラスの半分ほどの量を口に含んで飲んだのだけど、
「ぷはぁ」
ゾフィは何故か一気飲み。そしてあろう事か手酌でデキャンタからグラスにワインを注ぐと、再び一気に仰った。
「ちょっ、どうしたんだよゾフィ」
するとゾフィはほんのり赤く染めた顔を上げると、何故かジト目で俺を見据えたのだ。
「これが飲まずにいられますかっての!」
そこからは怒涛の絡み酒となった。
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それでは次話もお楽しみに!




