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第84話 王都手前のきな臭さ

コレーツ侯爵領は領都シャーロッテンブルグ。領主の館がある旧市街は古都の面影残る落ち着い街だ。伝統ある街並みには由緒有り気な建築物が甍を並べ、ゾフィとお茶しながら街並みを見て歩くのも楽しいものだった。


かと思えば、王国南部地方と王都を結ぶ街道の中継地でもあるシャーロッテンブルグ。新市街地は活気に溢れて賑やかさだ。


乗合馬車の停車場は新市街地にあり、人、物の出入りが激しい。金の出入りもそうであるはずだ。そこで気になったのが傭兵団や冒険者パーティ、はたまた商人や農夫の服装をしてはいるものの妙にガタイがよく鋭い目付きをした男ばかりの小集団がやたら目に付いた。しかもそいつらは布を巻いた長物を持っていたりして。


(わかりやすい連中だな、おい)


「なぁ、ゾフィ」


「ん?何?ホルスト」


俺はそうした旅人達?を停車場で眺めながらゾフィに尋ねる。


「アイツらってさ、何か旅人装ってるけど、どう見ても騎士とか兵士だよな?」


「うん。私もそう思った」


王都を目指す傭兵団、冒険者パーティ、そして商人や農夫に変装した騎士や兵士の集団。このシャーロッテンブルグしか見ていないから何とも言えないけど、きな臭さを感じる。


「何かさ、このまま王都に行くとまた面倒事に巻き込まれそうじゃないか?行き先変更しようかな(ボソッ)」


最後の方の呟きがゾフィにしっかり聞かれていた模様。


「なっ、何言ってんのよ!ダメに決まってるじゃない!ここから私に一人で王都に行けって言うの?」


凄い勢いで怒られた。


「いや、冗談だよ。ゾフィは俺がちゃんと守るから。でも王都で何があろうと俺は何するつもりも無いよ。王都の事は王都の者が解決する事だろ?俺は精々王立学院にいる妹を守るくらいだ」


そう、王都で何があろうが俺の知った事ではない。


「それはそうだけど。でも、正義の冒険者ホルストとしては権力者に虐げられる無辜の民は守って助けるんでしょ?」


うっ、それを言うとは。痛いところを突くな、ゾフィ。


「ま、まぁ、それはそうだよ」


「なら、それで十分よ。何も私はアイーシャみたいにホルストを紛争や政争に巻き込むつもりなんてないからさ」


ゾフィはニコッと笑いながらそう言った。


だがしかし、アイーシャもナヴォーリ市民のためと言って俺を海賊紛争に巻き込んだ訳だけどな。


と、そんな遣り取りをゾフィとシャーロッテンブルグの停車場でしていたけど、俺達が乗る乗合馬車が停車場に回って来たのでその話題は中断した。車内では他の乗客達も乗っているため専ら雑談に花を咲かせ、やがてゾフィは馬車の揺れで眠気を催したのか、俺の肩にもたれてうとうとと舟を漕ぎ出した。


"ねぇ、ホルストは実際、王都で何かあったらどうするつもりなの?"


こうしたタイミングを見計らっていたのだろう、メルから念話で話しかけられた。


"この街しか見ていないから何とも言えないけど、あんな連中が王都に集まってるなら、やる事は一つだろう"


ただでさえこのジギスムンド王国内は第1王子派と第2王子派との暗闘が続き、散発的な紛争も勃発している。そしてきな臭い連中が変装してまで王都へ集まっている(多分)。この連中が一体どちら側の駒なのか。


第1王子が勅命による正当な王位継承権者だ。なので軍も近衛騎士団も第1王子が把握しているはずだ。だからあのイリーガルな連中は十中八九第2王子派の駒だろう。


そうなると、第2王子派はあの連中を使ってやる事といえば、クーデターとか?そんなところだろうか。


だけど現国王は既に次期国王を第1王子であると定めているのだ。なのに、どうして第2王子とその取り巻き連中はそれを覆そうとするのか?普通に考えてこれは叛逆行為であり、失敗すれば勿論叛逆者として第2王子はその取り巻き連中も巻き込んで処刑されるであろうし、貴族家はお取り潰しの上で族滅の憂き目にあうだろう。ここは21世紀の日本ではなく、剣と魔法、弱肉強食の力こそ正義の封建社会なのだからな。


そうした超リスクが伴い、成功するとは思えない叛逆行為、簒奪行為に何故出るのか?連中にそうしなければならない切迫した理由があるのか?それとも連中がそうした行為に出られる程の強力な後ろ盾でもあるのか?


"どの道、ここであれこれ考えていても答えは出ない。ここは一つ王都で様子見と行こうか"


"そうね、今はそれしか無いわね"


全く、どこに行ってもトラブルばかりだ。どうなっているんだかな、この世界は。


俺はそう内心憤慨しつつも、走る馬車の振動で徐々に前のめりになるゾフィが倒れないよう肩を抱いて引き寄せた。そして、ゾフィの甘い香りと温もりを感じつつ、俺も目を閉じて仮眠を摂る事にした。


勿論、周囲の警戒は怠らないでね。


〜・〜・〜


その日の夕刻。乗合馬車はコレーツ侯爵領から王室直轄領に入ると、バトゥーダという街道沿いの宿場町で止まった。


この宿場町では有難い事に、乗合馬車の業者が提携している宿があり、到着してからの宿探しというちょっと面倒なイベントを避ける事が出来た。そのかわりなのか、宿泊代は相場よりも少しだけ高い。きっとその差額が業者の取り分なのだろう。


宿は町の中でも割と大きな宿で、部屋数もそれなりになりにある。そのため今夜はゾフィと相部屋になる必要はない。 


コンコン


と、俺の部屋のドアが叩かれる。部屋に入って間もなかったのでメルもまだ白猫の姿のままだ。


"誰かしら?"


"ゾフィだろう。開けるけど、いいか?"


"うん。大丈夫よ"


俺はドア越しに誰何する。


「ゾフィか?」


「うん、私」


ゾフィの返事があったのでドアを開く。


「さ、さっき振りね、ホルスト」


ゾフィはまだ旅装を解いておらず、装備だけ外した姿で部屋の前に立っていた。


「どうした?まぁ、入りなよ」


俺は入室を促したけどゾフィは頭を被り、夕食を外で食べようと誘う。


「今夜は私がご馳走するから」


勿論ゾフィと夕食を共にする事に異存など無い。


「そんな気を使わなくていいよ?」


「ううん、いつも出して貰っているし。それに、もう明日は王都に着くから。旅の最後の夕食くらい私に出させてよ」


そうか。そういえば明日でこの旅も終わりなんだな。


「わかった。ご馳走になるよ」


「うん」


ゾフィは嬉しそうに頷くと、自室へ戻って行った。


そして俺が出かける準備をしていると、白猫の姿でいるメルが念話で話しかけてきた。


"ホルスト、私はお留守番してるね?"


"どうして?"


"あの子、並々ならぬ覚悟で来ていたわ。そんなあの子の邪魔はしたくないの。だからホルストもあの子の気持ちはちゃんと受け止めてあげて"


"え?それって俺に浮気しろって事か?"


"この前話したでしょ?私はホルストに他に恋人がいても構わないったて。寧ろ高い身分の恋人がいなきゃダメだって"


まぁ、確かに言ってたけど。


"エルフの伯爵令嬢で勇者パーティの弓聖なら最適だわ。それにホルストだってあの子の事憎がらず思ってるし、あの子がホルストの事好きだって気付いてるんでしょ?"


"それは、まぁ、うん…"


俺も鈍感系じゃないからな。


"だったら問題ないじゃない。私はなにもあなたにあの子に迫って来いとか言ってないわ。あの子の気持ちを受け止めてあげてって言ってるの"


"う〜ん、でもなぁ、"


"もう!ホルストの正妻たる私がいいって言ってるんだからのいいの!ホルスト、しっかりしなさい!"


しっかりしなさいとか、何だか母親と2人の姉から毎回酷い目に遭わされる漫画の主人公にでもなった気分だぜ、全く。


"わかった。それはそれとして、ゾフィを待たせる訳にはいかないから取り敢えず出かけてくるよ"


"うん。気を付けてね"


ベッドの上から俺を見送るメルに手を振りつつドアを閉める。


はぁ。メルがあんな事を言ったものだから、何となくゾフィが気になってしょうがない。何にしろメルの許可?が出たから、俺の中での敷居が低くなったのは間違いない。どうもゾフィを前にしたら気恥ずかしくなりそうだな。












いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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