第82話 マリーの剣術修行 王都編
ムラージ師から「教える事は皆教えたから自信を持つ事じゃ。後は実戦と場数を踏む事だけじゃな」とのお言葉を頂き、私はお世話になった皆様にお礼と王都へ旅立つ挨拶にまわりました。
兄弟子や騎士の中には私に粉かけてくる者もいましたけど、そういう男性は気持ち悪いので勿論お断りです。ですが中にはしつこい奴もいて本当にうんざり。なのでそうした連中には稽古中にちょっと教育してあげますと途端に大人しくなってくれました。
一応、そうした兄弟子や騎士も見かけたら挨拶するつもりでしたけど、不思議とそうした人達にはすっかり姿を見なくなっていました。
そうした挨拶回りを終えて王都行きの支度を整えると、出発まで多少の時間的余裕が出来ました。だけど実家には帰りません。ホルスト兄さまを蔑み追い出したあの田舎者達の顔を見るのも嫌ですから。
それは両親や兄上、領主のヴィンター騎士爵様だって同じです。みんな、みんなホルスト兄さまは何も悪くないのに、まるで人身御供のように追い出した連中なんですから。
それにエミリー様には王都で会えますしね。
〜・〜・〜
王都へはラース辺境伯様が馬車を用立ててくれました。そればかりか餞別としてラース辺境伯家の紋章の入った両手剣と結構な額の支度金まで頂いてしまいました。支度金は他にもヴィンター騎士爵家やアプロス教団からも頂き、私は俄かにちょっとしたお金持ちです。
ですが、あまり嬉しくはありません。だって、兄さまを追い出した主家と私と兄さまの仲を裂いた教団からのお金ですから。
出発に際して、一応両親には別れの手紙を書いて送りました。育ててくれた感謝を綴って。
王都へは辺境伯家の家士が一人と侍女が一人の計二人が付き添いました。そのお二人とは次第に打ち解けはしましたけど、ホルスト兄さまとエミリー様と私で行った一年以上前のラースブルグへの旅よりは楽しくはありません。
王都への道すがら、私は一人考えに耽る事が多くありました。車窓から単調な田園風景を眺めながらホルスト兄さまの事を考えてしまいます。今、何をしているかな。ちゃんとご飯食べているかな。もう下位金級になっちゃうとか、やっぱり兄さまは凄い!とか。
そんな事を思っていると、自然に表情が緩んでしまい、侍女のリリアさんに「王都が楽しみなんですね」と揶揄われてしまいました。リリアさんの言う「王都」には多分に兄さまの事が含まれている訳ですけど、女性はそういう事に敏感ですから、彼女にはきっとバレてそうですね。
〜・〜・〜
そうして到着した王都では、ラース辺境伯家の王都屋敷に入寮までの間お世話になり、入学1ヶ月前に王立学院の女子寮に入寮しました。
そこで同室になったのは2年生に進級するドルフィン伯爵家次女のルーリエ先輩。先輩も「剣士」の能力持ちで、私達は程なく意気投合して、隙を見つけては裏庭で稽古したり手合わせしたり、技を教えあったりして過ごしました。
入学前になりエミリー様も入寮しました。ですが、私はその前から近衛騎士団に訓練で呼ばれるようになっていましたので、エミリー様とも一緒に過ごす時間が取れなくて。それでも毎日エミリー様の部屋に顔を出しているうちにエミリー様と同室のソフィア第3王女殿下とも親しくさせて頂けるようになり、互いにソフィ、エミィ、マリーと呼び合う仲になりました。
〜・〜・〜
王都に来てから困ったのは剣術修行の事でした。相部屋のルーリエ先輩と寮の裏庭で多少はそれらしい事が出来るものの、やらないよりはマシという程度のもの。そのような場所では当然本格的な稽古は出来ませんし、顔に怪我でも負わせてしまって先輩が婚約破棄なんてされたら大変です。何と言っても先輩は伯爵令嬢ですからね。
学院では剣術の授業もありますけど、これは貴族の子弟を対象としたムラージ師の仰った「綺麗な剣術」。なので私にとっては遊びみたいなものです。真剣に習っている人には申し訳ありませんけど。
そこでラース辺境伯家の家令さんが近衛騎士団の訓練に参加させて貰えるように話をつけてくれたのです。神殿騎士団は王都の郊外に本拠地があるのでとても通えませんからね。
近衛騎士団の訓練に参加させて貰うと、思わぬ方との再会がありました。誰かと言えば、ヴィンター騎士爵家の長男でホルスト兄さまの長兄であるフランツ様でした。
フランツ様はホルスト兄さまより4歳上。また双子の弟であるアイク様がいます。フランツ様は王立学院を卒業後、まずはラース辺境伯家騎士団で見習いをした後、辺境伯様の推薦で近衛騎士団への入団が認められたと聞いています。
同じく次兄のアイク様は軍の常設第1騎士団へ入団しています。
フランツ様とアイク様はホルスト兄さまとは兄弟だけに黒髪、黒眼、色白で顔付きも似ています。ですが、フランツ様は何故か昔からホルスト兄さまの事を嫌っていました。なので正直私はこの方が苦手、というか嫌いです。
だけど、フランツ様は近衛騎士団で私の事を家臣の娘だと言って回り、家臣の娘だからと実に馴れ馴れしく接してきました。
私にそうして良いのはこの世でホルスト兄さまだけです。私はフランツ様にそうした態度はやめて欲しいと頼みましたが、どうもフランツ様の中で私はどうあっても家臣の娘であるようで、まともに取り合って貰えませんでした。挙げ句の果てに絶対に言ってはならない言葉を口にしたのです。
「もうホルストとの婚約は解消されたんだろう?実は俺、マリーの事狙ってたんだぜ?そのうちホルストから奪って、正妻は無理でも愛人にでもしようと思ってな。もうあの余計者もいないんだ。剣聖だったら俺の正妻でもいけるだろう。マリー、俺と結婚しろ。これは次期ヴィンター騎士爵家当主からの命令だ!」
はぁ?何を言ってるの、この男は。コイツと結婚?あり得ない。ホルスト兄さまとの婚約が解消されたって私はホルスト兄さま以外の男なんて考えられない。それに、コイツ何て言った?ホルスト兄さまから私を奪って愛人にする?ホルスト兄さまが余計者?馬鹿も休み休み言え!親と寄親のお陰で近衛騎士団に入れたような男と、誰よりも強くて優しく、頭が良くてカッコいい、自分の道は自分で切り拓くホルスト兄さまじゃ比べ物になる訳ないでしょうに。
私は漏れ出す殺気を必死に抑えます。だって、ここでこの男と問題を起こしたらラース辺境伯様の顔に泥を塗る事になるし、私が入る勇者パーティ(予定)にも迷惑をかけてしまいます。
それより何より、ホルスト兄さまに失望されたくありません。私は必ず名実共に剣聖になると兄さまと約束したのですから。
でもこの男はとても面倒な存在です。このように家臣の娘だと言って回るくらいならまだしも、俺と結婚しろなどと付き纏われたら堪りません。
そこで私は兄さまの例に倣い、フランツ様にこう切り出しました。
「私と決闘して勝てたらフランツ様との結婚を考えてあげても良いですよ?その代わりにフランツ様が私に負けたら私に二度と関わらないで下さいね?」
これを聞いたフランツ様は近くにいた同僚騎士達を証人として巻き込み、私との結婚を賭けた決闘をすると触れ回りました。私を女と見て侮り、何故か勝つ気でいるようで笑止千万です。
って言うか、聞いてなかったのでしょうか?私は「結婚を考えてあげても良い」って言ったのですけどね。え?狡いって?私だってこれから剣聖として戦う身です。これくらいの謀事くらい巡らしますよ。これもムラージ流剣術の一環ですからね。
では、そのムラージ流剣術を許された剣聖としての私の力と技をフランツにはその身体で味わって貰いましょうか。そしてホルスト兄さまを侮辱した罪を贖って貰いましょう。
私はこうして生涯2度目となる決闘をする事となりました。一度目はホルスト兄さまを裏切った結果だったけど、二度目はホルスト兄さまを侮辱した男を叩きのめすために戦います。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




