第80話 エミリーの学院生活②
待望のホルストお兄さまからの手紙が届いた。もう、やっとだよ。私、どれだけ待ち侘びた事か。
それは秋のある日、私とソフィが夕食を摂ってからの入浴後、自室でお菓子を摘みのお茶をしていた時の事(勿論お茶を入れるのは私)。
おしゃべりに興じていると、窓ガラスが外からコンコンと叩かれたのだ。突然の事だったので2人してビクッとなり、恐る恐る窓の方を見た。私達の部屋は女子寮2階の角部屋だから、外から誰かが訪れようもない。
窓に近寄って確かめようとするソフィを制し、私が短剣片手に窓を開けると、そこには欄干に止まる一羽の鴉の姿があった。
そう、鴉。ホルストお兄さまは以前、実家から出て行った時も鴉に手紙を託して私に届けたのだった。
思わず「おいで」と両手を開いて鴉を呼び込むと、鴉は欄干から飛び立って私の腕の中に飛び込んで来た。
「え?何で鴉?」
驚くソフィもそのままに、私は鴉の脚に結ばれていた紙縒りを破れないように丁寧に解き、そして広げる。文面に目を落とすと、そこには見慣れたホルストお兄さまの筆跡が!
「エミィ、誰からの手紙?」
ソフィも興味あり気に覗き込む(淑女が他人の手紙覗いちゃダメでしょ!)。
「冒険者をしている兄からの手紙なの」
「えぇ、ホルストお兄さまからの?鴉が手紙を届けるの?使い魔なのかな?」
因みにソフィはいつの間にか私のお兄さまをホルストお兄さまと呼ぶようになっていた。私が良く話題に出すからだね。
ソフィは「魔女」の能力を授かっているだけに使い魔に興味があるのだろう。
「この鴉は兄が能力で創り出した使い魔で、兄はシキガミって呼んでるの」
私はソフィへの説明もそこそこに早速手紙を読む。
〜・〜・〜
親愛なるエミリーへ
学院に入学してもう半年経つけど、元気にしているだろうか?俺は辺境伯領を出てからティレニア海の港湾都市ナヴォーリ市に滞在していたんだ。心ならずもそこで海賊紛争に巻き込まれて冒険者として市の海軍と共に戦う事となり、なかなか王都へ出立出来なかった。手紙も出せず申し訳なく思っている。
因みに海賊紛争の戦働きで上位金級にランクアップしたからな。
ナヴォーリの街は異国情緒ある港街で、きれいな海に美味しい魚介の料理、勇壮なババール火山と温泉、最高だったよ。
この手紙を書いている今、俺はナヴォーリから王都へ向かう途中だ。コレーツ侯爵領のシャーロッテンブルグから式神を放ったから、俺も後1ヶ月もかからず王都に着くと思う。そうしたら約束通りエミリーに会いに行くので待っていて欲しい。お土産もいっぱい買ったからな。
この式神の鴉は今後俺と連絡が取れるようにエミリーにあげるよ。今は俺の魔力で生きてるけど、エミリーが抱いたり撫でたりして魔力を与えれば懐いてエミリーの命令に従うようになるから可愛がってやってくれ。魔力を絶やすと消滅してしまうから注意してな?
俺への手紙は同じように紙縒りにして鴉の脚に結びつけて「行け」と命じれば大丈夫。
それでは同室の娘にも宜しく伝えて欲しい。近いうちの再会を楽しみにしているよ。
猫連れ冒険者の兄より
〜・〜・〜
手紙を読み終えて感慨に浸る。もうすぐホルストお兄さまが王都に来る。私に会いに来てくれる。とても嬉しい。しかも、これからはシキガミの鴉によって手紙のやり取りが出来るんだ。
私がお兄さまからの手紙を胸に抱いて喜びを噛み締めていると、ソフィから遠慮がちな声がかかる。
「ホルストお兄さま、何て?」
「兄が近々王都に来て、私に会いに来てくれるって。それからナヴォーリで海賊と戦って上位金級にランクアップしたって」
「えぇ!上位金級?ホルストお兄さまってそんな凄い方なの?」
だからいつもお兄さまは凄いんだって言ってるのに。でもソフィが驚くのも無理はない。上位金級の冒険者なんて国中探したって何人もいないはずだ。しかもお兄さまは冒険者になってまだ2年くらいでそこまで昇ったのだ。
ランクアップしたという事は海賊との戦いも相当な激戦だったのだろう。
因みに、貴族社会でも冒険者も上位銀級となると騎士と同程度に遇され、金級ともなると男爵相当の待遇となる。だから上位金級なんてある意味騎士爵のお父様よりも偉くなっちゃったとも言える。
「私もホルストお兄さまにお会いしたいなぁ(チラ)」
えぇ?折角の兄妹水入らずの再会なのに?ってマリーもいるか。
でも、まぁ、ソフィはゆくゆくは私の仕える人になる訳だから、早くから顔を合わせておくのも有りか。ソフィに何かあった時、お兄さまに助けて貰うかもしれないしね。
「じゃあ、その時に一緒に会う?」
「えっ、いいの?有難う、エミィ」
ソフィはそう言って喜びを表して私に抱き着いた。王女様に抱き着かれるとか、考えて見れば凄い事だよね?
と、その時、部屋のドアがノックされる。
「エミリー、マリーよ」
私が慌ててドアを開けると、マリーが勢いよく入って来て私に抱きついた。ぐぅぅ、苦しい。マリー、自分が剣聖だって忘れているでしょ…
「エミリー、ホルスト兄さまから手紙が来たの。もうすぐ王都に来るって。私に会いに来てくれるって!」
マリーは私から身体を離すと、私の両肩を掴んでガクガクと揺らしてそう言った。これが剣聖が喜びを表す表現なの?身体が保たない気がするけど…
「ちょっ、マリー。エミリー、死んじゃうよ!」
ソフィが慌てて間に入ってマリーを離してくれた。ソフィとマリーも今では友達になってるよ。それぞれある意味で身分が低い者同士だから、こうした内輪の場では口調もこんな調子だ。
「あっ、エミリーごめんね。嬉しくて、つい」
つい、じゃないよ、つい、じゃ。まぁ、気持ちはわかるけどさ。
私とマリーはお兄さまからの手紙で盛り上がった。気付けばすっかりソフィを置いてけぼりにして。
すぐに謝ったけど、ソフィの機嫌はなおらず、ジト目で私とマリーの方を見る。でも、その視線は私達から微妙にズレていて、
「あの、ソフィ、もしかして鴉が欲しい、の?」
ソフィは私達よりも私達の肩に止まる鴉達に向いていたのだ。
するとソフィは拗ねたように唇を尖らす。
「だって、私「魔女」なのよ?それなのに使い魔がいなくて、2人に使い魔が出来てズルいわ」
ソフィの「ズルい」発言に思わず顔を見合わす私とマリー。
「じゃ、じゃあ、お兄さまにソフィにもシキガミを分けてくれるか頼んでみようか?」
「本当?嬉しい!お願いね?」
こういうところはソフィもやっぱり「お姫様」なんだなぁと思う。
〜・〜・〜
あぁ、お兄さま、早く会いたいなぁ。いっぱい話した事や聞いて欲しい事があるんだ。
後1ヶ月か、本当に待ちどうしいよ、ホルストお兄さま。
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それでは次話もお楽しみに!




