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第78話 旅の途中

「ねぇ、ホルスト」


ババール温泉郷から出発した乗合馬車の中で、ゾフィが遠慮がちに俺に声をかけてきた。


「どうかした?」


俺の返事にゾフィは下を向いてもじもじしながら再び問い掛ける。


「ホルスト、何かあった?」


「何かって?」


一瞬言い淀んだもののゾフィは続ける。


「いや、何か雰囲気が変わったって言うか、凛々しくなったというか、ゴニョゴニョ…」


流石はエルフの中でも精霊を使役出来る一族の一人。勘が良いな。


何かあったかといえば、当然あった。メルと結ばれて昨夜までベッドで毎晩愛し合っていたのだから。メルとの交わりがどう影響したのかは自分では気付かないけど、ゾフィから見て俺の雰囲気の何かが変わったように思えたのだろうか。


こんな時、「そんな事無いよ」などと言って誤魔化すのは悪手。だからと言って馬鹿正直に事実を話す訳にもいかない。何かゾフィが納得出来る答えを出さなければならない。


「色々と体験したからかな?俺の故郷の言葉に「男子一日見ざれば刮目して見るべし」ってのがあってさ」


「うん」


「エルフと違ってヒトは寿命が短いから成長するのが早いんだよ。だからナヴォーリでの体験がここに来て俺を成長させたのかもしれないな」


「ふぅ〜ん、そんなものかしらね」


ゾフィは半信半疑といったところだけど、俺は嘘は言ってない。じゃあ、追加行っとくか。


「因みにどんな雰囲気になった?ゾフィ好みにカッコよくなった?」


「ば、馬鹿!何言ってるのよ!他の乗客達がいるんだからね?それに元々ホルストは私の好みだし、それがもっとゴニョゴニョ…」


ゾフィは顔を真っ赤にして抗議すると、そのまま下を向いてしまった。発言の後半は声が小さく、いや、しっかりこのホルストイヤーは聞き取っていたけどね。


"もう、この女ったらしめ"


ベビースリングの中からメルの揶揄うような念話が伝わって来た。以前と違って余裕がある感じだ。正妻の余裕だろうか?


"上手く躱せただろ?"


"そうだけど、何か腹立つ!"


あれ?そんな余裕でもなかったか?


俺とゾフィの会話が聞こえていた乗客達から生温かい視線が送られて来る。何となく居心地悪くなったけど、気にしない気にしない、一休み一休み。もうすぐ次の停車駅に着くからな。


〜・〜・〜


時は少し遡り、俺達はババール温泉郷からコレーツ侯爵領の領都シャーロッテブルグ行きの乗合馬車に乗った。


ナヴォーリから陸路で王都を目指すにはナヴォーリの西側に接する例のツェルパン伯爵領を通った方が断然早いのだけど、つい先日まで敵だった貴族領を通って余計なトラブルは避けたかったので、ババール山を東側から回り込むコースにしたのだ。


ババール山を東回りで回り込むとやがてコレーツ侯爵領に入る。ババール山は独立峰だけど火山なので山麓は傾斜のある裾野で、また、周辺には寄生火山が幾つもあるため、このコースは結構な難所だ。ナヴォーリ市からババール山を東回りでこの難所を通り、コレーツ侯爵領を抜けて王室直轄領に向かうこの街道をイスカルテ街道という。


コレーツ侯爵領はイスカルテ街道の難所を脱したなだらかな丘陵地帯だ。街道が領内に入ると乗合馬車の乗心地もそれまでに比べて快適となった。


領内は小麦の産地で、王都への小麦供給地の一つとなっているそうだ。また、丘陵地帯のババール山寄りは葡萄栽培に適しているそうで、ワインとビネガーの生産が盛んだと言う。


俺達はコレーツ侯爵領のそうした風景を車窓から眺めつつ領都シャーロッテブルグに到着。陽は既に傾き、じきに日没を迎えようとしていた。俺達は乗合馬車の停車場から近い商人街で宿を取ろうとしたのだけど、


「申し訳ございません、本日は満室で御座います」


最初に当たった宿でフロントの従業員に慇懃に頭を下げられた。


そこから何軒か宿を当たるも満室ばかり。仕方なく冒険者ギルドシャーロッテブルグ支部を訪れて宿を紹介して貰った。その宿は支部からほど近い、料金が高めな設定の宿で、しかもここも辛うじて空きは一部屋のみときた。


一部屋か、どうしようか。俺は他を当たるか、停車場の駅舎にでも行って野宿しようか。そんか思案をしていると、ゾフィから提案が…


「わ、私は相部屋でも、か、構わないわよ?」


噛み噛みですが、ゾフィさん。


「それは流石に悪いよ」


俺が遠慮するとゾフィはずいと迫る。


「私がいいって言ってるんだからいいじゃない!それにマーレドラゴ号からずっと一緒にいるんだから今更でしょ?ホルストの事は信頼しているから大丈夫。それに知らない場所に一人にしないで欲しいわ」


"要は心細いという事か。だったら仕方ないよな?"


"私に訊かないでよ。妻は夫の判断に従うわ"


う〜ん、どちらかというと俺の方が従っているような、


"何よ?"


"いえ?何も"


「じゃあゾフィが良かったら相部屋でもいいかな?」


「だから、私はいいって言ってるじゃない」


という事で、小さくガッツポーズをしているゾフィを敢えて見ないようにして、俺は宿のフロントで宿泊手続きをして宿泊料の大銀貨5枚(5万円くらいか?)を支払って部屋の鍵を受け取った。


〜・〜・〜


部屋に荷物を置き、警戒用に式神を配置してドアに施錠すると、俺達は宿を出て宿から近いレストランに夕食を食べに出掛けた。ギルドに近い宿や飲食店は冒険者が主客であるため使い魔も入店可であり、メルと一緒に気兼ねなく食事を楽しめる。


この領は畜産も盛んなようで、俺達はローストポークメインのディナーセットを注文。まずは食前酒の白ワインで口を潤す。


「ゾフィ、乾杯しよう」


「そうね、じゃあここまで来た私達の旅に」


「いいね。ここまで来た俺達の旅に」


「「乾杯!」」


カチンとグラスを合わせてグラスに口をつけるとフルーティな甘さが口の中に広がった。


「おいしい!」


ワインの味に何となく満ち足りた気分になった俺とゾフィはどちらからともなく微笑み会った。


〜・〜・〜


その夜、食事から部屋に戻った俺達は入浴を済まし、少し談笑してから王都の王立学院に在学する妹エミリーと元婚約者の剣聖マリーに手紙を書いた。鳥型の式神に手紙を託して窓から放つと、一部始終を見ていたゾフィが感嘆の声を上げた。


「へぇ〜、そんな事も出来るんだね」


「まぁ、引き出しは色々あるんだ。さっ、もう寝ようぜ」


「そうね。おやすみなさい、ホルスト」


「おやすみ、ゾフィ」


この部屋はそもそも一人部屋。なのでベッドはゾフィに譲り、俺は床に毛布を敷いて横になり、更には毛布を引っ掛ける。


すると、ソファの上で丸まっていたメルが俺の毛布に潜り込んで来た。ゾフィに見られないように毛布を被ると、俺とメルは見つめ合い軽くキスをして眠りについた。


いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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