第7話 あれから一年
あれから1年が経過した。あの元服の儀に端を発した俺の謹慎は解けたものの、俺は14歳から入学するはずだった王都の王立学院には謹慎のため準備や手続きが間に合わず入学する事は出来なかった。
このジギスムント王国では14歳になる貴族の子弟は王立学院に最低でも2年は就学して貴族として必要な学問、教養、武術、マナー等を学ばなければならない。王立学院に入学しなかった者、出来なかった者はその血統は兎も角、社交界では貴族とは認められない。
俺は謹慎によって入学に必要な準備が出来なかったため王立学院への入学が出来なかった。これは両親によって故意になされたもので、あの1年前の元服の儀での決闘騒ぎの残した爪痕は意外にも深かったという事だ。俺もヴィンター騎士爵家もカリスト男爵家は元より、ジードに連座して子弟を奴隷として売却されたラース辺境伯の寄子貴族達から相当な恨みを買っていたのだ。
俺の両親が準備が間に合わなかったとして俺の王立学院入学を見送ったという事は、即ちそうした寄子貴族達に対して暗にヴィンター家は三男(俺の事)を今後貴族として身を立てさせない、と宣言したという事。そしてそれによってあの元服の儀で起きた事は手打ちにしてくれ、という事だった。
おそらくラース辺境伯もこの事は了承済みで、辺境伯からヴィンター騎士爵家に恨みを抱いた寄子の家々への根回しもされていただろう。
これで俺はヴィンター騎士爵家の当主候補から完全に除外され、他家への婿養子にも行けず、この国の貴族としては完全に終わった言ってよかった。
まぁ、それでも飽くまで貴族に固執するなら軍に入って一兵卒から手柄を上げて立身するという手もあるけどね。
といって、俺は人生に絶望した訳ではない。そもそも、このヴィンター騎士爵家の跡取りは俺の上に2人もいる訳であり、元から俺はスペアのスペアという立場だったのだ。初めから期待なんかしていなかった。
では他家に婿養子に行きたいか?それも願い下げだ。辺境の騎士爵の三男だ。条件の良い婿養子先などある訳がない。とんでもない歳上の行き遅れと見合わされ、妻と舅と姑から何処ぞの八丁堀の同心よろしく「ムコ殿!」といびられ続ける未来などゾッとしない。
王立学院を卒業したら、その先の騎士学校や王立大学院、軍の士官学校への進学や官吏への登用なども望む事が出来ただろう。しかし、俺に神崎拓人の記憶と人格が戻った以上、どうもこの世界の貴族社会や身分制度って奴が性に合わないというか、何というか。なので、両親や辺境伯によって仕組まれた貴族社会からの追放は俺にとって痛くも痒くもなく、むしろ自由にしてくれて有難う御座いますと思ったくらいだ。
では、これからどうするか?領内の3つある村の庄屋家の家付き娘と結婚するとか、実家の家士になるとかは両親によって阻止されるだろう。まぁ、その気もないけど。だから俺は冒険者になろうかと思っていた。
この世界は魔物蔓延る、所謂剣と魔法の世界。となれば、やはりありました冒険者ギルド。そして冒険者には14歳になればギルドで登録さえすれば誰でもなる事が出来るのだ。
俺は5歳で前世の記憶と人格が戻ってから自分を取り巻く環境を知るにつれ、密かに冒険者になるべく準備をしていた。元執事のデミレル爺さん(元冒険者)に頼み、この世界の動植物や魔物の知識を実地に教えて貰い、家士のヴィリーさんには弓術や狩猟や乗馬を、両親からは剣術を学んだ。
幸にして俺には魔法の適性と豊富な魔力があった。なので母から魔法を学び、特に身体強化と回復魔法が得意となった。
更に俺には前世の知識、空手や柔道などの格闘術があり、そして「アクションヒーロー」の能力がある。
自惚れている訳ではないけど、これなら冒険者や傭兵としてやって行く上で怖いもの無しだ。まぁ、人や組織の悪意は恐ろしいし、十分警戒しなければならないけど。
実はこの謹慎中にも既に辺境なのでやたら広い実家の領内の森林や山岳地帯で薬草などの植物採取や魔物駆除、狩猟なども家士や領民達と、或いは俺個人で行っていた。だから、もう14歳になった今、ギルドに行って登録するばかりの状態だった。そして、俺が冒険者になりたい旨は両親にも伝えてあり、了承も得ていた。
〜・〜・〜
謹慎が解けると、俺は早速領都にある冒険者ギルドラースブルグ支部を目指した。
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ、父さん」
俺は出かける前に執務中の父に声をかけた。
「あぁ、気をつけて行ってこい。と言っても領都までならお前なら何の問題無いだろうがな」
「まぁ、気は抜かないさ」
俺は暢気に「お兄さま、お土産ね」と言いながらも見送りに出た妹エミリーの頭をくしゃっと撫でると館を出た。
〜・〜・〜
ジギスムント王国でもこの辺りは東端の辺境だ。そのため冒険者になるならラース辺境伯領の領都ラースブルグへ行かなくてはならない。馬車なら街道を片道3日といったところだ。
謹慎中の者は罪人として扱われる。だから俺は実家の騎士爵領から出られず、領都には「アクションヒーロー」で8番目の昭和ライダーの飛行能力を使って飛んで行き、こっそり空から進入したものだった。
この度は謹慎が解けた事でもあり、飛んで行くのは同じでも、堂々と領都の正門を潜ってやろう。俺はこれから始まるこの世界での自由な冒険者としての未来に想いを馳せ、足取りも軽く郷門を後にした。
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それでは次話もお楽しみに!




