第74話 彼女達の決断 アイーシャの場合②
翌日、ギルド支部に現れたホルスト君(この頃はまだ君付け)。その容姿はアンジェリカの資料にあった通りのスラッとした長身に黒目黒髪のエキゾチックな美男子でした。物腰も丁寧で、外見的には私の好みにジャストミート!
クールにしていながら、私の顔と耳を見てソワソワしだしたところも可愛いくって好印象。まぁ、私って美人ですしね。それに獣人好きなヒトは耳を見るんですよね。
一応、私はいつものビジネススマイルで丁寧に対応したのですが、これはイケる!と押しまして。遂にナヴォーリ滞在中の依頼協力について彼から言質を取り付ける事が出来ました。これで有事にはホルスト君を巻き込む事が出来ます。
この言質については後に大いに生きる事になりました。アンジェリカには感謝しかありませんが、私はこの事でホルスト君には少し警戒されてしまったようですけどね。
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ホルスト君はトラブルに呼び寄せられる体質なのか、ナヴォーリへ来てから間髪を置かず今度は自らに差し向けられた暗殺団を全員捕らえました。尚且つ海賊に誘拐された市長の娘をナヴォーリ沖を航行中の海賊船まで(驚くべき事に)飛んで行って救出するというまるで御伽噺の英雄のような活躍までして見せました。
これを聞いた私はホルスト君を軸とした第2王子派の破壊工作に対する防諜計画をギルドマスターに提案します。
「ホルスト氏から街防衛の協力についての言質は得ています。緊急事態の招集に応じる形なので報酬も少額で済むでしょう。ここで彼を逃してはなりません」
オールバック口髭のギルドマスターは指をパチンと鳴らすと、「それいいね。それで行こう!」と即決。
その後、計画に従ってホルスト君を隊長として、私と王都アプロス教団本部からナヴォーリ支援に派遣されて来た勇者パーティの弓聖ゾフィさんの3人で義勇隊を結成して艦隊に乗り込む事となったのです。
私が迎えに行くと、ホルスト君はやはり私を警戒しているようでした。だけど、緊急事態の招集については、「やると言った以上はやります」と言ってくれ、招集には応じてくれました。
でも、ホルスト君は私に対してもやもやした気持ちがあったようです。ギルド支部への道すがら皮肉めいた文句を言ってきました。
それに対して私は軽く笑顔で応じていたのですが、そもそもホルスト君はそうした皮肉めいた性格では無いのでしょう。私が
「では、この件が済みましたら私と夕食を共にするというのは如何でしょうか?勿論、その後も…」
と提案しますと、
「はぁ、俺の負けだ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
と、早々に降参します。
夕食は兎も角、その後の事なんか勿論する気はありません。そうした睦み事は好きな男性としかしたくありませんから。もっとも、そうした方が未だいませんでしたけど。
所属する組織の性格上、私も女性の工作員であるためそうした情報収集や暗殺についても一応の訓練を受けました。ですが教官役の女性工作員から「この娘はあまり向いてないわね。荒事向きだから、こっちはかえってボロが出るわ」という評価を頂いて早々にその道はリタイアしています。
でも、年上の私に生意気にも口論を挑み、早々に両手を挙げるホルスト君の様は可笑しくも、可愛らしい男の子に思えましたよ?
〜・〜・〜
ホルスト君と弓聖のゾフィさんは顔見知りで、アンジェリカからの資料でも勇者と剣聖(ホルスト君の元婚約者)を巡って決闘し、勇者を瀕死の重傷を負うまでボコり、その後に和解したとありました。
ゾフィさんが「ホルスト、久しぶり」なんて親しみを込めた挨拶をしたのに対し、ホルスト君が一瞬顔を顰めました。二人の心の距離が窺い知れるというものです。
ホルスト君は頭の回転が早いようで、自分がナヴォーリの海賊騒動に巻き込まれたのは偶然ではなく、何者かの策略だと見抜いたようでした。どうも私を疑っているようで。まぁ、ほぼ正解なんですけどね。
私が情報の補足をすると、ホルスト君は自分を上手く利用しようとする連中(私もかしら?)に怒りを覚えたのか、立ち上がるや私とゾフィさんにこう宣言したのです。
「事ここに至ったからにはナヴォーリを全力で守る。だけど、それは第1王子派に与する訳では断じて無い。権力者どもの争いに巻き込まれ、虐げられる人々のために俺は戦う。そこを覚えておけ!いいな?」
「「はい!」」
それは決して大声でも怒鳴った訳でもないにもかかわらず、しかしそこには静かな怒りが込められて有無を言わさぬ迫力がありました。思わず私とゾフィさんは声を合わせて返事をしてしまいました。
そして、それが内心「ホルスト君」と呼んでいた私が、その後生涯にわたって「ホルスト様」と呼ぶように変わった瞬間だったのです。
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その後、私はホルスト様の忠実な部下としてゾフィ様に負けじと海賊、そして突然現れたマンティコアと戦い、ガルメーラ艦隊の将官をも巻き込んで討ち果たす事が出来たのです。
それに乗じて私もゾフィ様に倣い、ホルスト様から私が手柄を立てたらという条件でご褒美を貰う約束をした取り付けたのは言うまでもありません。ゾフィさんばかりに美味しい思いはさせません。
この頃にはもう私の中でホルスト様は年下の可愛いこの事態を打開するための駒から、一生を共にする旦那様。厳しい口調で命令されると嬉しくなっちゃてました。
この気持ちはゾフィさんも同じでしょう。海賊から2度も助けられた市長の娘メリッサちゃんなど、側から見ていてもホルスト様にベタ惚れなのがわかります。
でも、最も警戒しなければならないのは、あの謎の白猫かもしれません。戦闘中以外は常にホルスト様と一緒。しかもホルスト様とは確実に意思の疎通が出来ているようですし。
ホルスト様からは私だけではなく、誰にもあの白猫については説明がありません。ギルドでもただ使い魔としか申告していませんから。
流石にその秘密を暴こうなどとは思いません。虎の尾を踏む事にもなりかねませんし、第一、そんな事をしてホルスト様に嫌われたくありませんから。
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さて、ナヴォーリの「海賊紛争」が終わればホルスト様をナヴォーリに引き留める物は何もありません。ホルスト様はナヴォーリを離れて王都へ向かい旅だってしまいます。
メリッサちゃんはホルストとの別れに思い詰めて引き篭もってしまったようです。ゾフィさんは厚かましくもホルスト様へ王都への同行を取り付けました。
私ですか?ふふ、ご心配無く。もうとっくに手を打ってますから。
ナヴォーリの危機が終われば、ここでの私の任務も終わりです。そして手柄を立てたらご褒美をくれるのは何もホルスト様だけじゃないんです。
あら?ここにこんな辞令がありますね。どれどれ?
「宛 アイーシャ・ロッカ
王都における冒険者ホルストとの連絡・調整担当を命ずる」
辞令を見てみたらこんな事が書かれていました。どうしましょう(棒)
これがホルスト様を軸にした作戦を立案し、ナヴォーリが第2王子派の手に落ちる事を防いだ私への組織からの"ご褒美"という奴ですよ。まぁ、自分からそうした身分申告を出したのですけどね。
この希望が通ったという事はホルスト様の実力と活躍を組織の上も、そして第1王子派(多分第1王子自身も)も注目したという事なのでしょう。
ゾフィさんは精々ホルスト様に同行して王都までの旅を楽しんで下さい。王都に着けばこちらのアドバンテージが上ですから。
王都にはホルスト様の元婚約者である剣聖もいるそうですが、「元」ですからね。
ホルスト様、少しの間離れ離れになりますけど王都でまたお会いしましょう。そうしたらあなたの横に立つのはこの私、アイーシャですからね?
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




