第73話 彼女達の決断 アイーシャの場合①
ゾフィさん、なかなかやりますね。ホルスト様のご褒美を盾に王都までの道中を共にしようだなんて。流石はエルフ、伊達に長生きはしていないという事でしょうか?
まぁ、それはいいです。ここはこのアイーシャ、負けを認めましょう。でも私もホルスト様がナヴォーリを離れる事についてはとっくに折込み済み、手をこまねいていた訳ではありません。ちゃんと手は打ってあるんですよ。
それに王都に帰れば勇者パーティの枷のあるゾフィさんより、冒険者ギルドや組織の任務で私の方がホルスト様と絡む事が遥かに多くなるのは必定。それが私のアドバンテージになるはずです。
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私の名はアイーシャ。獣人族だから姓はありませんが、ヒト族社会で必要な場合は狐を意味する「ロッカ」を姓として使ったりもします。だから時にはアイーシャ・ロッカ。
年は20歳で、ホルスト様よりほんの少しだけ年上となる狐獣人の女です。
私の家は代々ジキスムンド王家に暗部や工作員として仕える家で、私も御多分に洩れず幼少の頃からその道の訓練を受けて現在に至っています。
正式に組織の一員となったのは13歳の時。裏の世界にも元服の儀が影響するのも不思議ですけど、「能力」が関係するからかもしれませんね。尤も、私は獣人だからヒト族が神より授かる「能力」は関係ありませんが。
私の最初の任務はメイドに扮しての第1王女の護衛でした。勿論、そうした任務も想定して宮廷内でのマナーもバッチリです。それを皮切りに護衛任務だけではなく、ターゲットとなる貴族の館に潜入しての情報収集もこなしました。
その後、14歳になってからは冒険者登録し、主に冒険者として活動しつつの諜報や工作活動に従事しています。
元から荒事の訓練を受けていて、剣術や格闘技を得意とする私です。ギルド内で冒険者として駆け足でランクを上げると、組織の命令で王都冒険者ギルド本部の職員として働く事となりました。窓口の受付嬢から始まり、こちらも徐々に職位が上がって行きます。
そうした中、私に王国南部ティレニア海沿岸にある自治都市ナヴォーリへの転勤命令が出ました。しかも、副ギルドマスターとして。
この辞令は組織も当然一枚噛んでいて、実は王室を守るための組織は政治的には中立の冒険者ギルドとは裏で協力関係にあります。そのため冒険者ギルドが組織の工作員に身分を貸すのはさほど珍しい事ではありません。
この頃には王国内で次期王位を巡る第1王子派と第2王子派の争いが各所で顕在化していました。王国唯一の国際貿易都市であるナヴォーリ市はどちらにとっても戦略上とても重要な街です。仮に内戦となった場合、ナヴォーリ市の持つ財力、情報力、海運力は両陣営とも是非欲しいところでしょう。
かつてのナヴォーリ市は独立した都市国家であり、王国を仮想敵国としていました。その後、王国の自治都市になるとナヴォーリ市の歴代政権は王国内のどの派閥にも属さない中立政策を貫き、現市長もその政策を踏襲しています。
それをひっくり返し自陣営に引き込みたい第2王子派はナヴォーリ市へ工作を仕掛け出したようなのです。ですから、私のナヴォーリ市での任務は第2王子派による政治工作に対する情報収集、妨害工作を行うためでした。
私はナヴォーリ市の冒険者ギルドに赴任すると、早速市政界へのパイプ作りに着手して市長の奥様と良好な関係を築く事に成功しました。まぁ、ぶっちゃけ副ギルドマスター就任の挨拶に伺って仲良くなっただけなんですけどね。でも、これが後になって市長への献案にとても役立ちました。だって、市長は奥様に完全に尻に敷かれていましたから。
情報収集はギルド内には部下や協力者もいたので問題ありませんでした。ところが、そうした中に荒事に向いた者がいない事が問題で、私は王都の組織本部に人員の補充を求めましたが現地でどうにかしろと梨の礫でした。
すると、この頃から海賊によるナヴォーリ市への通商破壊戦を仕掛けられます。現市長はそれがナヴォーリ海軍の艦隊をナヴォーリから引き離すための工作と見破り、被害に目を瞑り自重に徹します。まぁ、妥当な判断と言えましょう。
私は収集した情報を組織に送りつつ、ナヴォーリへ仕掛けられたこうした工作へ対抗しなければなりませんでした。
正直、私は困りました。だってこんなの権限も手駒も無い私みたいな小娘に出来る事じゃありませんから。
そんな時、友人のアンジェリカから手紙が届きました。彼女は王都のギルド本部で行われたギルド上級職員養成課程研修で知り合い、同い年という事と、妙に馬が合って身分関係無く友達になったのです。その後も互いに任地は異なりましたが、手紙を出すなど連絡を取り合っています。
アンジェリカからの手紙はナヴォーリ支部副ギルドマスター就任へのお祝いに始まり自身の近況報告へと続きます。そして気になったのが後半部分。
「ところで、この度冒険者やってる私の弟分が下位金級にランクアップしたの。だけどラースブルグで色々あって王都へ行く事になったのだけど、その途中でナヴォーリに寄るそうだから上手い事丸め込んで使ってやってね。弟分はホルストっていうんだけど、なかなかの凄腕だからアイーシャが抱えている案件にぴったりだと思うよ!」
そしてその手紙の結びにはとある符牒が書かれていました。それは私の組織とその協力関係にある個人や組織が互いに味方だと教え合う際に用いられるもの。
アンジェリカの実家はラース辺境伯を寄親とする男爵家。ラース辺境伯は第1王子派の重鎮でって、あぁ、そういう事ですか。
私は手紙に添付されていた、そのホルストという年下の下位金級冒険者についてアンジェリカが書いた資料に目を通します。何々、背がすらっと高くて黒目黒髪の美男子で、白い猫を常に連れて「猫連れ」なる二つ名があると。あらゆる武器の扱いに精通した武術・格闘術の達人にして魔力量が多く魔法戦闘も可能。そして「アクションヒーロー」なる謎の能力を授かっている。
更に読み続けますと、今までの顕著な討伐記録まであります。それによると、彼はラース辺境伯の寄子である騎士爵領を救うため一人でゴブリンキング4体とコボルトキング1体を倒し、凡そ2千体ものゴブリン、コボルト、トロールからなる群れを殲滅しています。
俄には信じられない内容でした。だけど、アンジェリカは人を故無く騙すような真似はしい子ですし、何より組織が関与しているだけにそこに嘘はありえません。
要は応援は出さないけど、第1王子派の息がかかったホルストなる下位金級冒険者がそちらに行くから、そいつを懐柔して上手く使って成果を挙げろ。そういう事なのでしょう。
はぁ。若くして金級に成り上がった冒険者なんて変に自信満々で粋がったクセの強い扱い難い奴であると今までのギルド職員としての経験が告げています。
(いざとなったらアンジェリカの名前を出せばいいでしょうか?)
私がまだ見ぬ冒険者ホルストへの対策を練っていると、件の冒険者ホルストがナヴォーリにやって来るという情報が入りました。
そして、冒険者ホルストがシレジア川河口付近で彼の乗っていた貨客船を襲った海賊共を一人で返り討ちにして全滅させ、2隻の海賊船も沈めたという第2報が入りました。
どうも凄い人のようですね、このホルストという冒険者は。その戦闘力には期待が持てます(性格はどうでしょう)。
私は急遽ギルド支部で彼を軸とする第2王子派への対策をギルマス(私の身分については当然知ってます)に相談して立案すると、その足で市長公邸に赴いて奥様経由で市長に提案したのでした。
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それでは次話もお楽しみに!




