第71話 彼女達の決意 ゾフィの場合
自治都市ナヴォーリ市の「海賊紛争」が第2王子派の野望を挫く形で終結した。この紛争に招き寄せられるようにナヴォーリ市を訪れたホルストの活躍があってこその終結と言えるだろう。
そのホルストが海賊紛争が片付き、ナヴォーリを離れて当初の予定通り王都へ向かうという。私はその道中に同行させてと迫り、無理矢理理由を付けて、何なら紛争時に約束した「ご褒美」をチラつかせて強引にホルストに同意させた。
元々ホルストと私が属する勇者パーティとは、「剣聖」の能力を授かった彼の婚約者を巡ってイザコザがあり、勇者とホルストは決闘したし、敵対していたとも言える関係だった。それは勇者があっけなく倒され、こちらが降伏して解決したのだけど。
その後、私達のパーティはホルストに正式に謝罪した。王命で結成されたばかりの私達の勇者パーティは何事も経験不足で問題山積。誰もがなんだかんだと理由を付けてパーティとしての活動も訓練もせず、聖女のミシェルの頑張りでどうにか回っていた状態だった。
彼に降伏していた私達は、更に彼に頭を下げて昵懇を願い、合わせてアドバイスを頼んだりもして、お互い名前で呼び合う関係にはなれていた(と思う)。
この時、私はある程度ホルストの性格を分析していて、それはこの海賊紛争とそれ以降で実に役に立った。彼の性格は自分に敵対する者には容赦無く、それでいて自分に好意を抱いたり庇護を求める者を守ろうとするもの。しかも、何気に(女性からの)押しに弱い。
ホルストとはその後会っていなかった。彼は実家の騎士爵領に戻ってしまったし、私達も彼のアドバイスに従ってパーティの活動を再編成する作業に終われたからだ。だけど、次第にホルストの噂は「猫連れ」冒険者として王都にも伝わるようになり、遂には一人で魔物の大群から騎士爵領を守ったと吟遊詩人が歌うまでになった。
そんな時、私はアプロス教団の某司祭長に呼ばれ、ナヴォーリ市の支援を要請された。正直、縁もゆかりも無いナヴォーリ市がどうなろうと知った事ではなかった私だったけど、その司祭長の口から「クリス勇者パーティと所縁のある猫を連れているという冒険者も向かうそうですよ?」と言われ、思わず「行きます」と返事をしてしまった。
私はその司祭長を「このタヌキめ!」と心の中で罵りつつ、ホルストに会えるとワクワクした気持ちで国王から下賜されたパーティの屋敷に帰ると、早速パーティの皆に報告した。その際、聖女のミシェルは悔しがって自分も行くと言い出し、それが叶わないとなると、何故か私を睨んで口を聞かなくなってしまったりした。
〜・〜・〜
そうして、私はホルストの性格に付け込んみ、ホルストに王都までの同行を認めて貰った。とはいえ、ホルストが内心それを迷惑がっているのは私だって十分承知している。だから、ナヴォーリからババール山麓にある温泉の郷へ赴く道すがら
「なぁ、王都に行くと言っても俺、あちこち寄り道するけど、ゾフィは早く王都に帰らなくていいのか?」
と言って来るのも、そんな彼の気持ちが現れての事だと理解している。でも、出来るだけホルストと一緒にいたいのだ。だって、私は海賊紛争を一緒に戦っている間にすっかりホルストに魅了され、完全に好きになってしまっていたのだから。
元々、剣聖を巡るイザコザの時だって、剣聖と勇者をあっという間に倒す程の実力を持ち、黒眼黒髪のクールな美男子。きつい事を言うくせに何だかんだで優しい生意気な年下の男の子って事でちょっと気にはなっていたのだけど。だからナヴォーリ支援の要請も受けた訳で。
〜・〜・〜
凡そ一年ぶりに会ったホルスト。精悍さも増して更に格好良くなっていた。私は軽い感じで「久しぶり」なんて声をかけてみたけど、内心はドキドキで。
海賊との戦いが始まると、私とアイーシャ(国王直轄の特務機関工作員)を率いて戦う様は冷静沈着にして、指示は的確。戦う姿に無駄は無く、まるで演舞を見ているよう。何とも頼れる上官で、この人と一緒にいれば何も恐くないと思える程だった(絶対に口には出せないけど、クリスじゃなくてホルストが勇者なら良かったのに)。
その戦闘の最中、かなり離れた敵旗艦の舵を船上から矢を射って破壊してくれと私はホルストから頼まれた。それは弓聖たる私をしてもかなり難易度が高い攻撃。何と言っても射場は船上なので常に揺れ、敵旗艦は遠く且つ互いに動いているので距離も一定ではない。標的となる舵も常に揺れて細く小さい。
でもホルストに出来ないなんて絶対に言いたくない!
私はこの任務に弓聖として、いえ、ゾフィ・マルグリットとしての全てを出して挑まなければならなかった。
そして、その時、ふと閃いたのだ。成功したら何かホルストからご褒美を貰おうと。
私の頼みにホルストは二つ返事で応じてくれた。
やった!ご褒美、ご褒美、ごっほうび!
絶対に成功させてやるから。
私は前甲板に立つと弓を構えて矢を番う。そして弦を引き、目を閉じて精神を集中。
私は樹海のエルフ領から300年程前にジキスムンド王国に移住した支族の末裔だ。その時に支族長だったお爺さまが伯爵位に叙爵されている。
私達はエルフの中でも弓を友とし、弓に生きる支族。ホルストから頼まれたこの任務、「弓聖」の能力だけじゃ多分無理。我が支族、我が一族に伝わる風の精霊の秘術を合わせて使わなければ。
「天地翔る風司る精霊よ、我が捧げる贄にてその加護賜らん事を」
精霊への贄は自身の魔力。高位の精霊は贄となる魔力の純度が高ければ高いほど喜び、強い加護を与える。
私が呪文を唱えて全身から魔力を放つと、忽ち一陣の風が吹き、風の精霊から加護が与えられた(ただし一回分)。
私が与えられた加護は放つ矢を風を一体化させるもの。的を見定め、引き絞った弦を離すと、番えられた矢が放たれる。風と一体となった矢は疾風と化して海面上を飛ぶと、遠く離れた敵旗艦の舵を撃ち抜き、破壊した。
"やった!"
ホルストの期待に応えてられた喜びと自らの技術による成果への達成感、そして同時に襲い来る多くの魔力を贄として放出した疲労感。
でも、これでホルストからのご褒美は確保した。
「約束だからね、ホルスト」
「わかってるよ。良くやったな、流石だよゾフィ」
「有難う、ホルスト」
嬉しい、嬉しい、嬉しい。ホルストが誉めてくれた。エルフはあまり感情を表情に出さない事を良しとする伝統があり、いつもはツンと済ましている私だけど、この時は嬉しくて思わず喜びが顔に出てしまって。
でも、私は見逃さなかった。ホルストが私の微笑む顔を見て一瞬惚けたように見惚れていたんだ。
そう、ホルストのその表情が既に最高のご褒美だ。いや、ご褒美はちゃんと貰うけどね。
〜・〜・〜
こうして私のハートはホルストに奪われてしまった。だったら無理矢理でも何でも一緒にいる時間を作って増やして、少しでも私の事を好きになって欲しい。
「別に期限なんて無いし。それなら私も色々な所に行ってみたいし、それに」
「それに?」
「もし、王都から急ぎの用で呼びつけられたらホルストに抱き上げて貰って、空を飛んで貰えば王都までだってあっという間でしょ?」
私は知っている。ホルストは彼の持つ謎能力で空を飛べる事を。そして、メリッサとアイーシャも彼にお姫様抱っこされて空を飛んでいる事を!
「えぇ、王都までは勘弁して欲しいな。流石に疲れるよ」
そんな事を言って嫌がっているけど、私は王都までのこの旅でホルストとの仲を深め、せめて気の置けない女の子くらいの間柄になるんだ。無理はしない。
どうもライバルは多そうだけど、なんと言っても私はエルフ。寿命が永く、いつまでも若くて美しいというアドバンテージがあるので焦りはしない。長い時間をかけて徐々に徐々にホルストを私の恋人に、最終的に私の夫にすれば良い。
「じゃあ、少しならいいでしょ?」
「まぁ、少しならな」
ほら、ホルストはこんなにも優しくて人が良い。そして、思ったよりもチョロい、のかもね。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




