第70話 さらば、ナヴォーリの街
魚藍亭に戻った翌日、一階の食堂で俺は朝食を頂いている。今朝のメニューはアサリと芋、豆、人参の入った魚介の出汁をベースにクリームで煮たほぼクラムチャウダーに白パン。スープもパンもお代わり自由だ。食後には黒茶(殆どコーヒー)も付いてくる。
食欲を誘うとてもいい匂いで味も良いんだけど、俺は折角の朝食を堪能出来ないでいる。それは何故かというと…
「ホルスト、義勇隊は解散したんでしょ?どうしてこちらのお二人が今もホルストの元にいるの?」
「どうしてって、私はホルストから海賊退治のご褒美を貰わなくっちゃいけないからよ?」
「私もホルスト様からマンティコア討伐で手柄を立てた際のご褒美を頂かなくてはならないですし。それに副ギルマスとしてホルスト様の所在を把握していなければなりませんので」
おわかりだろうか?この朝食の席で俺はメリッサ、アイーシャ、ゾフィ、三人の女性によって包囲され身動きが取れないでいるのだ。
動員解除と共に俺は海軍基地を抜け出し、港の繁華街にある魚藍亭に戻った。ものの、俺の居場所はあっけなく彼女達に見つかってしまった。そして朝から訪ねて来た彼女達がバッティングしてしまい、何故か俺が詰問されるハメになっていたりする。
「そもそもホルスト様はどうして黙っていなくなったのですか?そういう事をされると困ります!」
「本当そうだよ?」
「私だって心配したんだから。会いに行ってもいないし!」
さっきまで対峙していた彼女達だったけど、今度は何故か三人が連携して俺を責め出した。
「…すいませんでした」
思わず謝ってしまった。
「ナヴォーリの救世主も女にゃ敵わないってか?」
そうした俺の様を見て、朝から酒盛りしている船員の酔客達がニヤニヤしながら揶揄う。ここ2〜3日は戦勝気分で街はお祭り騒ぎが続いているのだ。
「「「ガハハハハ」」」
盛り上がる酔客達だけど、その直後、アイーシャに一喝される。
「黙りなさい!無駄口叩くその口、切り裂くわよ?」
アイーシャが放つ殺気により一瞬にして黙り、下を向く酔客達。
まぁ、当事者としていつまでもこの状況を放置しておく訳にもいかない。メルは黙りを決め込んでいるし、店内の雰囲気が悪くなっても女将さんに迷惑がかかってしまう。
「まぁまぁ、逃げも隠れもしないから。俺も少し一人になりたかっただけなんだよ」
「…そう」
「…なら」
「…いいけど」
不承不承といった感じで納得する彼女達。
"ふんっ、モテる男は辛いわね、ホルスト"
はぁ、今度はメルが拗ねちゃったよ。
〜・〜・〜
今回の紛争。一応、市議会で正式に「海賊紛争」と呼び名が決まった。これはこの紛争の"敵"は"海賊"である事が誰からも望まれた結果だ。この辺りを後世の歴史家達がどう判断するのか想像するに面白くもある。
(それにしても「敵は海賊」か。ふふふ)
「ホルスト様、何一人笑いをしているのですか?気持ち悪いですよ?」
思わずこの世界では自分しか知らないSFネタで一人笑いをしてしまっていたら、傍のアイーシャから突っ込みが入れられた。
「ちょっと思い出した事があってね。だけどアイーシャ、最近は遠慮無いよね?」
だってさ、言うに事欠いて「気持ち悪い」だよ?女子からその言葉を言われるって、結構傷付くもんなんだよね。
「まぁそうかもしれませんね。何と言ってもホルスト様と私は戦場で互いに背中を預け合った"戦友"でもありますから」
それは確かにそうであり、反論しづらいものがある。これは例えば一回抱いたとかだったら「一回やったからって彼女面すんな!」とかの鬼畜発言する奴もいよう。だけど、戦場で共に戦った戦友に「一度くらい一緒に戦ったからって戦友面しないでよね!」なんて口が裂けても言えるもんじゃない。
そんかアイーシャにすかさずゾフィが牽制。
「私なんかホルストに信頼されて困難な任務を任されちゃったけどね」
「わ、私なんか連れ去られた船まで空飛んで助けに来てくれたんだから!それにホルストったら私を殺したらガルメーラ王国の王女を皆殺しにするとか言っちゃって。本当、どれだけ私か大事なのって感じ」
メリッサも負けてないようなんだけど、少し話し、盛ってないか?
〜・〜・〜
市の議事堂で「海賊紛争」の戦勝式典が催された。俺は参戦した義勇隊隊長として式典に招待され、アイーシャとゾフィと共に名誉市民とか名誉海軍士官とか勲章やらを授与された。
そして更に旅行者である俺は本来義務の無い招集に応じて戦功を挙げたため、市と冒険者ギルドへの貢献度が大と市議会と冒険者ギルドナヴォーリ支部から判断されて上位金級にランクアップした。
ナヴォーリ市は第2王子派の策略で本当に危機だったと思う。全て第2王子派の思惑通りに事が進んでいたら海賊(ガルメーラ艦隊)
の通商破壊で経済は衰退し、自重しての艦隊温存主義から行き詰まり、遂には艦隊決戦に撃って出たナヴォーリ艦隊は海上でガルメーラ、ジギスムンド両国の艦隊に挟撃されて全滅。そしてツェルパン伯爵を始めとする第2王子派の領主から攻められ、クーデターで内部崩壊して降伏。市長派粛清後の短い永久執政官の統治を経て王国へ併合されていただろう。第2王子の息のかかった街として。
しかし、ナヴォーリ市はその全てを跳ね返した。ガルメーラ、ジギスムンド両国の艦隊は消滅し、その再建には長い時間が必要となる。ナヴォーリの商船隊は海上通商路を独占する事となるだろう。
しかも、兵を送ったツェルパン伯爵や第2王子派の領主ばかりか、海上でガルメーラ、ジギスムンド両国にも巨大な貸しを作った。
おそらく、これでナヴォーリ市の自治と繁栄は20〜30年は大丈夫なはずだ。
「色々な奴が色んな事を企んで、結果多くの人達が死んだけど、蓋を開けたらナヴォーリ市の一人勝ちだったな」
式典の帰り道、今回の紛争を思い出してみて俺は思わず一人呟いた。
「それもこれたもホルスト様の働きがあってこそですよ」
「本当、そうね。ホルストはもっと大きく構えていいのよ?」
「ホルストのお陰。一市民としてお礼を言うわ。本当に有難う」
美女達と美少女からそう言われて正直悪い気はしない。しかし、俺としてはどんな勲章や感謝の言葉よりも街の人達が日常を送るその姿が一番の宝物だ。それだけでいい。
「ところでホルストはこの後どうするの?」
ゾフィに尋ねられ、俺は思っていた事を口にする。
「この街のゴタゴタも解決したしな。予定通りに王都に行くよ」
それを聞いたゾフィはにっこりと笑う。
「そう。私もね、ナヴォーリの問題が解決したから王都に戻るんだ。あっ、そうだ。私、ホルストと一緒に戻る事にしようかな?いいわよね?」
えぇ!俺、メルと温泉入ったりして、らぶらぶら寄り道しながら行こうかと思っていたのに。でも、断わろうにもゾフィの目が「断ったら、これをご褒美にするよ?」と語っているので、どの道詰んでいる。って言うか、そもそもそれを見越してゾフィは言い出している。
「も、問題無い。好きにしてくれ」
「やった!ありがとう、ホルスト。大好きよ」
「「!!」」
ゾフィはそう言って俺の腕に抱きつくと、アイーシャとメリッサに勝ち誇った表情を見せた。
「そうですか。ホルスト様はそもそもナヴォーリには王都へ行く途中、物見遊山に立ち寄られたのでしたね。名残惜しくはありますが道中お気を付けて下さい。出立はいつですか?」
アイーシャは淡々と別れの挨拶を述べると、俺の出立日時を尋ねた。
「うん。明後日の朝にしようかと思っている。それでババール山の麓で温泉に入ったりとか、そんな感じで寄り道しながら王都を目指そうかと思ってる」
この間、メリッサは何かブツブツと呟き、それから俺と喋る事なく、一人公邸に帰って行った。
〜・〜・〜
こうして波乱を極めた俺のナヴォーリ滞在は終わり、ここに来た本来の目的である温泉を堪能すべく魚藍亭を後にした。
え?女の子達はどうしたかって?
まぁ、いますよ、一人。すぐ横にね。「温泉楽しみね?」とか言ってる弓聖のエルフが。
アイーシャには昨日、ギルド支部に街を離れる手続きに訪れた際に随分と事務的な対応をされ、公邸に帰ったメリッサには会う術も無いので手紙とメリッサに似た女神ナルディアのカメオを送っておいた。
それにしてもいい所だったな、ナヴォーリ。
さらばナヴォーリの街、さらばナヴォーリの女、機会があったらまた来るからな。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




