第65話 味方の振りした敵はウザい
アイーシャをお姫様抱っこして飛行中、お姫様抱っこされたアイーシャは、やはり空を飛ぶのが怖いのか俺の首筋にギュッと抱き着いて。アイーシャはいい匂いするし、頬と頬が密着するし、なんか息はかかるし、豊かな双丘の感触も味わえちゃって、役得というか、もう、美人狐お姉さん最高!って感じだ。
折角だからと意趣返しがてらアイーシャと多少の曲芸飛行もお見舞いした。おかっぱ口髭はぶら下げたままだったけど。ナヴォーリ艦隊を発見したのでマーレドラゴ号の甲板にストンという感じで降り立った。
マーレドラゴ号の甲板にいた水兵達は、いきなりアイーシャをお姫様抱っこした俺が、しかも糸でぐるぐる巻きのおかっぱ口髭を連れて現れたものだから大層驚いたようだった。
水兵達から報告があったのか、船室内にいたモロアッチ提督やパウロ艦長など艦隊幹部に、弓聖のゾフィが甲板に駆け付けて来る。
「ホルスト、アイーシャも無事で良かった。いきなりマンティコアが現れてさ。敵艦の甲板は敵味方乱れていて矢は射れないし、って、いつまでアイーシャを抱えてるのよ!」
「ごめんな、心配かけて。でもマンティコアは倒したし、捕虜も捕まえたから」
「アイーシャ、あんたもさっさと降りなさい」
「ホルスト様がなかなか離してくれなくって」
何故かゾフィとアイーシャの口論が始まったのでそっとアイーシャを降ろすと、「あぁ」と残念そうな悩ましい声がアイーシャから発される。
そのタイミングでマーレドラゴ号のパブロ艦長が声をかけてきた。
「ホルスト殿、敵艦に残したまま離艦してしまい申し訳ない」
このパブロ艦長、丸顔に短い黒髪の少し後退した額がチャーミング。猪首のずんぐりむっくりした筋肉ムキムキの中年男で、いかにも水兵からの叩き上げ、海と船の事なら俺に訊け!といったベテラン艦長だ。
なんでも、モロアッチ提督とは若い頃からの先輩後輩名コンビであるという。昔からこのコンビで戦功を上げて来たそうだ。
「パブロ艦長、海にマンティコアが出るなんて誰だって想定外ですよ。それにマンティコアがマーレドラゴ号に乗り移ったら大変な事になったでしょうから、臨機応変で俺は気にしません」
俺がそう言うと、パブロ艦長は目に見えて安堵の表情を浮かべた。わかりやすい人だ。
「ホルスト殿、して、この男は?」
モロアッチ提督は糸巻き状態で甲板に転がるおかっぱ口髭に向かって顎をしゃくって尋ねた。
「ガルメーラ艦隊で作戦を主導していたようなので捕虜にしました。魔物の捕獲・封印術も知っているようです。艦隊司令や艦長は戦死したそうです」
「そうか。いずれにしても艦隊戦はホルスト殿のお陰で大勝利だ。実にかたじけない」
おかっぱ口髭をグルグル巻にしたスパイダーストリングはスパイダーネット同様に強靭で弾力性もある糸だから容易に解除する事は出来ない。流石にあの状態では奴を扱う水兵さんが気の毒なので、俺は8番目の昭和ライダーの能力「ブレイク」で糸の分子構造を破壊しておいた。
〜・〜・〜
ロープで拘束され船室へと連行されるおかっぱ口髭を横目に、俺はパブロ艦長から海戦後の状況について聞いた。
俺が放った「サイクロン」で隊形が崩れた海賊団(ガルメーラ艦隊)にナヴォーリ艦隊は突撃し、最初から逃げに専念した数隻を除いて海賊団(ガルメーラ艦隊)を全滅させた。
うん、これは俺も知っている。
しかし、旗艦に接舷させての白兵戦中にマンティコアが現れるという想定外の事態が発生、緊急事態として接舷を解いて離艦した。
まぁ、見送ったからね。知ってる。
この間、合流する筈だったジギスムンド艦隊は予定海域に現れず。そのため以後の作戦は変更となり、海賊団の残敵掃討に専念するか、残敵は放置してナヴォーリに帰還するかで参謀達の意見が割れている。
そんな最中に俺がアイーシャとマンティコアを倒して帰艦した。←イマココ という訳だった。
結局、今後の艦隊は方針は海賊団(ガルメーラ艦隊)を壊滅させたという当初の目的を達成した事もあり、ナヴォーリへの帰還という事に決まった。モロアッチ提督の鶴の一声で。
〜・〜・〜
ナヴォーリ艦隊は今朝早くにナヴォーリを出港し、昼に会敵して艦隊決戦。俺はアイーシャ、ゼルマーとマンティコア退治をし、現在は午後3時というところ。
艦隊をこのままオーラル群島まで進ませ、海賊団の残敵掃討をするのならば時間はもう遅く、艦隊は一晩中海上で遊弋しなければならない。
なので、今から進路を反転すれば夕方遅くには艦隊はナヴォーリに帰還出来る、という提督の決断は妥当だと思う。
そうした訳で、ナヴォーリ艦隊は勝利の凱歌も高らかに母港へ向けて船脚を早めたのであった。
しかし、俺にはどうも腑に落ちない事があった。合流する予定だったジギスムンド艦隊は果たしてどこへ行ったのか、と。
ジギスムンド艦隊は単に合流に遅れたのではないのだ。俺はアイーシャからジギスムンド艦隊は敵だという事を知らされているけど、モロアッチ提督やパブロ艦長はこの情報を知っているのだろうか?
とはいえ、俺はナヴォーリ市冒険者ギルド支部の緊急事態非常招集に応じて参戦しただけで、立場は部外者に過ぎない。提督の判断、決断に口出しする立場なんかじゃなく、そんな気も無い。
「なあ、アイーシャ。ジギスムンド王国はナヴォーリの完全領土編入を諦めていないと言ったな?」
「はい」
「ゾフィにも聞いて欲しいのだけど、ナヴォーリ市最強の戦力がナヴォーリから離れてガルメーラ艦隊と戦った。そしてガルメーラ艦隊は負けて全滅。元々ガルメーラとジギスムンドは隣国同士で利益が競合する問題があり、ガルメーラ艦隊というジギスムンドの仮想敵が消滅した。未だナヴォーリ艦隊はナヴォーリから遥かに離れた位置にある。そこから導き出されるジギスムンド王国第2王子派にとって最大の利益が得られる行動って何だと思う?」
アイーシャは下顎に手を当て、う〜んと考える。そうした姿もなかなか絵になって、ってそうじゃなくて、
「ナヴォーリ艦隊は市から離れ、ガルメーラ艦隊は全滅。ジギスムンド艦隊は合流予定海域に現れず行方不明。ジギスムンド王国、第2王子派はナヴォーリを欲している…はっ!」
「ねぇホルスト、それってナヴォーリが今危ないって事?」
2人とも解に辿り着いたようだな。
「飽くまで可能性の話だけど、最悪、今ナヴォーリはジギスムンド艦隊から攻撃を仕掛けられている、または海上封鎖されて陸からも責められているな」
「「!!」」
「有り得ますね、十分」
「飽くまで可能性の話だけどね」
〜・〜・〜
陽は西に傾きつつあり、後2時間もすれば夜になる。
「ホルスト、この事を提督に教えなくていいの?」
ゾフィが心配そうに尋ねる。
「いや、何を根拠にって話だろ?現場が混乱するからやめておく」
「でも、でもさぁ、う〜ん」
ゾフィはもどかしいように上を向く。なんで、今後の俺の考えを告げておく。
「そうでないのが一番良いけど、そうなる可能性もあるという事だ。取り敢えず俺達は何が起きてもいいように戦える準備をしつつ、食う物食って身体を休めておこう」
「「はい」」
何かこの義勇隊、随分と息があってきたな。
〜・〜・〜
そして、嫌な予感はほど良く当たるの言葉通り、漸く辿り着いたナヴォーリ沖で俺達が目にしたのは、ナヴォーリ市を海上封鎖するジギスムンド艦隊だった。
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それでは次話もお楽しみに!




