第64話 敵だけど利害が一致し、使える奴は一時的に味方
魔物と一口に言っても、その種類は千差万別。この世界には実に様々なタイプが存在している。
毎度お馴染みなスライムから人型であるゴブリンにオーガ、獣成分増えてくるオークにコボルト、ヒト成分希薄なトロール。獣っぽいのもいれば鳥っぽいの、虫っぽいのに植物っぽいのに爬虫類に両生類に魚類。甲殻類まで揃っている。つまり、この世界には陸海空遍く魔物がいるって訳だ。それでいて、魔物じゃない動植物も普通に生息しているから訳がわからない。微生物クラスの魔物がいたって俺は驚かないね。
そうした魔物の中で厄介なのはキメラ型と呼ばれ分類される、幾つかの動植物の特徴を併せ持つ魔物だ。その特徴が多岐に渡る程、対応の困難さも増す。
更にそうした特徴にヒトに関する部分、有り体に言えば頭部なんだけど、それがあるとその魔物の知能も高くなる傾向があるんだ。それ故にそうした魔物の中にはヒトと意思の疎通が可能な個体もいたりする。だからと言ってヒトに友好的とは限らないけどね。
マンティコアという魔物は、ご存知の通りヒト(老人♂)の頭部を持つ故に知能が高く、獅子の身体であるが故に力強く俊敏で、蝙蝠の翼を持つが故に空を飛べ、蠍の尾を持つが故に強力な毒を有する実に厄介な魔物なのだ。ヒュドラ程では無いけどね。
しかも、目の前の奴は極めて体格が良い成体で、並の冒険者や兵士では歯が立たないだろう。上級の冒険者パーティや騎士団で当たらなくてはならない。
最悪な事に、今のナヴォーリには上級冒険者パーティはおらず、最強である海兵隊は皆海の上だ。このマンティコアを取り逃し、ナヴォーリにでも飛んで行かれたらナヴォーリ市内は大惨事待った無しだろう。
(是が非でもこいつはここで仕留める)
翼を持つ魔物は翼を攻めて使えなくするのが定石だ。翼を切断する、ズタボロにするとかだけど、これは一人だとなかなか骨が折れる。翼を斬るには魔物の側面に回り込む必要があるけど、奴も馬鹿ではないからそうはさせじと常に正対しようとするのだ。
幸い、今は俺の他に手練れが二人もいる。三人で連携すればマンティコアを飛び立たせず、この甲板上で仕留める事が出来るだろう。
「マンティコアは正面で俺が引き受ける。アイーシャとゼルマーは両側面から奴の翼を斬ってくれ」
「わかりました、ホルスト様」
「了解した」
俺は二人に側面からの攻撃を任せると、ラジャータを鞭状の形態に変形させる。
「ラジャータ、ウィップ!」
銀色のしなやかな鞭となったラジャータを俺はマンティコアの注意を引きつけ、苛立たせるように甲板を叩く。
バシン!バシン!と床が鳴る度にビクッと身を強張らせるマンティコア。やっぱり四本脚の猛獣をあしらうには鞭でしょう。
ヒュンヒュンと鞭が風を切る音も響かせ、時折バシンと床を叩く。マンティコアは早い鞭の動きを目で追えず、鞭の風切る音に集中を乱され、床を叩く音に注意を向けると側面からアイーシャが斬りかかり、ゼルマーに槍を突き立てられる。
そうした連携した攻撃を繰り返し、次第にマンティコアは満身創痍となる。
マンティコアは傷の痛みに狭い甲板上での戦いを放棄して飛び立とうと背中の翼を大きく広げた。
俺はこのタイミングでマンティコアの右翼の付け根にラジャータの鞭を巻き付けて思いっきり鞭を引き寄せた。
マンティコアは右翼に巻きついた鞭を解こうと身を捩って暴れ出すが、俺は鞭を尚も引き寄せマンティコアの身体を右側に傾けさせた。力比べでは大型四つ脚魔物にだって余裕で勝てる。こちとら2号ライダーの剛力だ。マンティコア一体を引き倒すなんて訳無いさ。
「アイーシャ、今だ!翼を断て!」
アイーシャは無言で頷くと、長剣を大きく振りかぶると、気合いと共に一気にマンティコアの右翼を斬り落とした。
「ギャアァァァァ」
奇怪極まりないマンティコアの悲鳴が辺りに響く。
俺は鞭を引き戻すと、ゼルマーにトドメを託す。
「ゼルマー、その槍で奴の心臓を突け!」
ゼルマーは返事ももどかしく、そのままマンティコアの左脇からその持てる長槍をマンティコアの心臓に突き刺した。
ゼルマーは槍に関する「能力」でも授かっているのか、鋭い突きは硬い体毛と皮膚を破ると、肋骨の間から正確に心臓を貫いた。
マンティコアは右翼を失ったため左向きに倒れ、ジタバタと四肢を動かせ断末魔の動きを見せる。と、マンティコアの蠍の尾がアイーシャの方へと鎌首をもたげた。俺は咄嗟に風魔法の風刃を放っ、とうとしたけど、その前にアイーシャが斬り伏せていた。お見事。
マンティコアの心臓を貫いたゼルマーの長槍は、心臓ばかりが肺にも損傷を与えたようで、マンティコアは口から大量の泡沫状の鮮血を吹き出し、身体の至る所からも出血。それでも尚、憎悪に満ちた両眼で俺を睨んでいる。全く、俺を恨むのはお門違いだっての。お前を拘束して利用したのはガルメーラの連中なんだからな?
俺はラジャータを5番目の平成ライダーの武器・ブレードに変形させると、その醜い老人顔の頭部を断首した。
スパッと斬れ、ポトンと落ちるマンティコアの頭部。首を失ってもまだその四肢は脊髄反射で予想困難な動きをする事があって危険だから、無闇に近付かない方が良い。
しかし、まあ、イレギュラーだったマンティコアはここに倒した。願わくば船倉にまだまだいますよ?なんて展開になりませんように。
「ホルスト様、お見事です」
アイーシャが甲板に横たわるマンティコアの死骸と距離を取りつつ、俺の方へと駆け寄って来る。
「アイーシャの翼を断った一撃も流石だったよ。お疲れさんだったな。怪我は無いか?」
「はい、有難う御座います。私は大丈夫です」
次いで俺はゼルマーを労う。
「凄い槍捌きだったな」
ゼルマーはふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「マンティコア退治に協力したまでだ。我が軍の恥部だからな。敵との馴れ合いはしないがマンティコアを倒した事には感謝する」
「そうか」
確かにマンティコア出現という非常事態に一時的に手を組んだだけだからな。
「それじゃあマーレドラゴ号に戻ろうか?アイーシャ」
「はい。でもどうやって?」
そう思うのは当然か。
「泳ぐのと空飛ぶのと、どっちがいい?」
「ええっ⁉︎ええと、」
アイーシャの目が泳ぐ。まぁ無理もないか。普通はそんな二者択一なんて無いからな。
「それでは泳ぎは苦手なので、空飛ぶでお願いします」
「了解した。でも、その前に、」
俺は艦橋ハッチの奥に隠れている奴に声をかける。
「おい、そこに隠れているおかっぱ口髭。出て来い!」
俺はラジャータをブレードからソードガンに変形させ、そしておかっぱ口髭が隠れているすぐ脇のハッチに向け魔力弾を連射。
ハッチは忽ち魔力弾によって粉々に砕け散り、艦橋の船室内から「ヒィィィッ」という情けない悲鳴が聞こえて来た。
「出て来い。次は直接撃つぞ?」
そうしてソードガンを構え、トリガーにかけた指に力を入れると、
「わかった。出る。出るから撃つな」
撃つな、だと?まだ奴は自分の立場って奴がわかっていないようだな。が、面倒くさいのでそこはいい。
おかっぱ口髭が恐る恐る破壊されたハッチから姿を現したので、俺はすかさず奴を拘束する。こいつを捕虜にしてガルメーラ海軍が海賊だという証人にしなければならないからな。
「スパイダーストリング!」
俺の突き出した左手からスパイダー男の糸が放射され、おかっぱ口髭の体に巻き付くと、忽ちの内に奴は拘束された。そしておかっぱ口髭は糸巻きのようになり、丸太が倒れるように甲板に横倒しになった。
「こいつは捕虜として連行する」
俺はゼルマーにおかっぱ口髭を捕虜にすると一応断りを入れた。おかっぱ口髭は押し黙ったゼルマーに期待を込めた視線を送るが、
「それは勝利者の権利だ。好きにすればいい」
ゼルマーの口からは非情な言葉が出たため、絶叫する事となる。
「き、貴様!ゼルマー!上官を売るのか!」
「何が上官か。貴様は単なる参謀だろうが。その貴様が立てた卑怯な作戦で我が艦隊はこのざまだ。国王陛下に対しどう責任をとるのだ?」
「作戦が失敗したのは貴様等が不甲斐ないからだ!それに立案した作戦を認可したのは艦隊司令だ。責任を取るなら艦隊司令だろうが!」
「残念だが閣下は勇敢にもナヴォーリ兵と戦って討死された。貴様はナヴォーリの捕虜となり、ガルメーラでは貴様は不在のまま軍事裁判で死刑だろうな」
「「…」」
思わず顔を見合わす俺とアイーシャ。
あ〜、責任転嫁と罵り合いは他所でやって欲しいな、鬱陶しい。
「ガルメーラにも色々あるんですね…」
「何もかも上手く行ってる組織なんか無いからね」
さて、と俺はアイーシャの肩と腰に手を回して抱き上げる。「キャッ」という声が可愛らしい。
「それじゃあ今から空を飛ぶから、しっかり掴まっててくれ」
「はい」と言ってギュッとしがみつくアイーシャ。
「ゼルマー。今回は敵として相見えたが、今日は共に戦った戦友でもある。無事な帰国を願うよ」
「俺は海の男だ。船が沈まない限りどうにかするさ」
実際、この男はどうにかするだろう。ゼルマーはそう思わせるだけの実力がある男だ。
「それじゃ行くぞ、アイーシャ」
「はい、ホルスト様」
「スカイジャンプ!」
俺達は重力低減装置でふわりと浮かび上がると、片手でおかっぱ口髭をぶら下げて忽ち上空へと飛び立った。
「信じられない。本当に飛んでる!」
ナヴォーリの海賊討伐に俺を巻き込んだ意趣返しに、アイーシャにはちょっとした曲芸飛行をプレゼントした。アイーシャは可愛い悲鳴をあげて俺に抱き着いたけど、本人は案外楽しかったようで、返って喜ばせてしまったな。マーレドラゴ号に着くと、おかっぱ口髭は失禁して気を失っていた。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




