第62話 海戦
モロアッチ提督の命令一下、21隻からなるナヴォーリ艦隊は、俺が放ったサイクロンによって満身創痍となったガルメーラ艦隊へと一斉に襲いかかる。
水夫の櫂を漕ぐ手も力強く、速度と勢いの増したナヴォーリ艦隊は転覆した船には目もくれず、損傷しつつも未だ航行可能なガルメーラ艦に舳先を向けると、一気にその鋭い衝角を船腹に突き刺した。
「衝撃に備えろ!」
甲板士官の怒号に両足を踏ん張って転倒しないように耐える。ドーンという衝撃に船体が慄く。甲板から前方を見ると、マーレドラゴ号の衝角はガルメーラ艦の土手っ腹に思いっきり食い込み半ば甲板を裂いていた。
マーレドラゴ号は櫂の向きを逆にして後進を始めると、衝角によって船腹に大穴が開いたガルメーラ艦は浸水によって急激に穴の開いた左舷に傾き始める。ガルメーラ艦の乗組員達は傾斜を増す甲板から次々と海面に落水する。
「落水者に矢を射掛けよ!」
マーレドラゴ号の士官の命令により海兵達は弩で海面に浮かぶガルメーラ艦の乗組員達に矢を射掛けて射殺していく。残酷なようだけど(実際残酷だけど)、悲しいけどこれ戦争なのよね。一歩間違えれば、ちょっとタイミングが違えばナヴォーリ艦隊の乗組員達が同じ目にあっていただろうから。
サイクロンを放った後の俺とアイーシャとゾフィの3人は今のところ出番無し。まぁ、それはそれでいいんだけどね。
しかし、そうも言っていられなくなった。というのはマーレドラゴ号は次の獲物を求めて戦闘海域を巡航し、ガルメーラ艦隊の旗艦と思しき大型艦を発見したからだ。
その艦はマーレドラゴ号と同等の大きさで、大型艦であるからか他の艦よりも損傷程度が軽く、他の航行可能な数隻の艦を率いてこの海域から離脱しようとしていた。
マーレドラゴ号は敵旗艦を逃すものかと追撃をかける。甲板で大型の銅鑼を鳴らしつつ、マストにデザインの異なる幾つもの旗を揚げた。あの旗は恐らく信号旗だろう。
「ねえホルスト、あの旗は何か意味があるの?」
暇なのか、ゾフィが俺に尋ねるので、一通り信号旗について説明した。
「じゃあ、あれは何て意味なの?」
「さあ、そこまで俺も詳しくないから、多分この戦況からすると「我二続ケ」とか「追撃セヨ」とかそんな感じじゃないのかな」
「ふ〜ん」
教えて貰おうにも士官も下士官も戦闘中だから無理だろうな。
そして旗艦マーレドラゴ号の周囲にはナヴォーリ艦隊が集結し、戦闘は掃討戦から追撃戦へと移った。
とはいえ、何ら損傷無く勝利の勢いに乗っているナヴォーリ艦隊に対し、サイクロンによって艦体も乗組員も損害を受けたガルメーラ艦隊の船足は遅い。
ナヴォーリ艦隊からは小型で船足が速いガレー軍艦が早くもガルメーラ艦に追いついて接舷。海兵隊が乗り込んでの白兵戦が始まった。
一隻、また一隻と脱落するガルメーラ艦隊。その中でも旗艦は損傷少なく、漕ぎ手も多いため速度も速い。
う〜ん、ここであまり時間を食うと次の戦闘に響くな。ここはゾフィにちょっと骨を折って貰おう。
「ゾフィ、ちょっといいか?」
「何?ホルスト」
「その自慢の凄腕を見込んで頼みがある。ゾフィの矢で敵旗艦の舵を狙って破壊出来ないかな?」
う〜ん、と頤に人差し指を当てて考え込むゾフィ。
「足元揺れる射場から距離があって揺れ動く標的を狙うのよ?かなり難易度は高いわ」
難しいという事か。
「いや、無理ならいいんだ。ごめんな、無理言って」
するとゾフィはカチンと来たのか、凄い剣幕で俺に食ってかかる。
「ちょっと、出来ないなんて言ってないでしょ!私以外じゃかなり難しいって言ってるの!いいわよ、やってやろうとじゃないの。弓聖の腕前、見せてあげるわ!」
ゾフィは鼻息も荒くそう言い放つと、愛用の弓を持ってマーレドラゴ号の船首に立った。そして腰のベルトに吊った矢筒から一本の矢を抜いて番える。
「ねえホルスト、これってかなり難しいのよ?ちゃんと当てて舵を破壊したらご褒美を頂戴?」
ゾフィは狙いを標的に定めたまま、ぶっきらぼうな口調で言った。
「わかった。俺に出来る事ならな」
ゾフィはニヤッと口角を上げる。
「約束だからね」
そして、矢を番た弓弦を引くと、口元でブツブツと何か呪文を唱え始める。
あれはあれだな。よくラノベでエルフが矢を射る時に「風の精霊よ〜」的な奴か。
それとも『平家物語』で那須与一が船上の扇を撃ち落とすシーンの「南無八幡大菩薩」的なものか?
いつの間にか甲板上には多くの士官、水兵が集まり固唾を飲んでゾフィを見守っていた。
ゾフィが呪文を唱え終わるや、彼女の全身はエメラルドグリーンの淡い光に包まれる。そして弦を引き絞った右手を離すと、ビュンという音と共に矢はガルメーラ艦隊旗艦の舵へと一直線に飛び、見事に直撃!敵艦の舵は砕け散った。
ゾフィは余裕綽々といった感じで振り返ると、ニコッと笑い俺にウィンクしてみせた。
うおおおぉぉ!
ゾフィの笑顔で敵艦への狙撃成功を悟ったマーレドラゴ号の乗組員達は雄叫びを上げ、士気はいやがおうにも高まった。提督はこの期を逃さずマーレドラゴ号に敵旗艦への接舷を命じた。
「約束だからね、ホルスト」
「わかってるよ。良くやったな、流石だよゾフィ」
「ふふっ、ありがとうホルスト」
ゾフィは嬉しそうに微笑んだ。いつもツンとした表情のゾフィだけに、今のその表情は反則的な可愛いらしさだ。
「ん、うんん」
何やら態とらしい咳払いがしたので振り向くと、アイーシャがジト目で俺を見ていた。
「ホルスト様、マーレドラゴ号は敵旗艦へ接舷するようですが、私達義勇隊はいかがしますか?」
敵旗艦を猛追するマーレドラゴ号はもう間も無く追い付き、接舷するだろう。
「俺とアイーシャは接舷したら海兵達と一緒に乗り込んで幹部を捕らえる。ゾフィは弓で味方の移乗を援護してくれ」
「「はい!」」
甲板上には接舷に備えて既に海兵隊が待機している。アイーシャは腰の片手剣(ベルトの左右に一振りずつある二刀流)の鯉口を切って剣を抜くと、その剣身を改めて「よし」と呟いた。
俺はラジャータを召喚すると、14番目の平成ライダーの武器であるソードガンに変形させて移乗に備えた。
そして、いよいよマーレドラゴ号が敵旗艦を間近に捉え接舷するその時、アイーシャが後ろから俺の耳元に顔を近づて囁いた。
「ホルスト様、手柄を立てたら私にもご褒美下さいね」
急に耳元でそんな事言うもんだから、ゾクっとしてしまい、思わず頷いてしまった俺だった。
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それでは次話もお楽しみに!




