第61話 サイクロン
アイーシャさんが言うには海賊の跳梁に対して自重していたナヴォーリ市の現市長が対決姿勢に転じたのは、俺がナヴォーリに来たからだと言う。
「だけど市長は俺の事なんか知らないでしょう?現に公邸で会った時だって「誰だ君は?」なんて言われましたよ?」
「ホルスト様は私達の世界では結構有名人なんです。謎の能力を持つ猫を連れた金級冒険者」
アイーシャさんの言葉をゾフィが継ぐ。
「剣聖も勇者も歯が立たず、二千もの魔物と合計五体のゴブリンキングとコボルトキングを一人で倒して騎士爵領を救った英雄にして」
「そしてこの度は一人で50人もの海賊を屠り、二隻の海賊船を沈めましたね?それだけの実力者が味方に着き、自分達の負けは無いとなれば幾ら慎重な市長でも撃って出る決断を下すでしょう」
ゾフィから言葉を継いでアイーシャさんがそう締めくくった。
だけど、だ。
「俺は市長の味方に着くなんて一言も言ってなかったし、そもそも何で俺がナヴォーリに来る事を知っていたんです?」
「それは、」
アイーシャさんはちょっとばつが悪そうな表情になって言い淀んで、徐に口を開く。
「それは私がラースブルグ支部のアンジェリカからホルスト様がこちらへ来ると連絡を受けていたからです」
はあ?アンジェリカ姉さん、何しちゃってるんだよ。
「アンジェリカは王都で行われたギルド上級職員研修で知り合って以来の友人で、まめに連絡を取り合っていました」
ラース辺境伯は第一王子派で、そのラース辺境伯が自領のギルド支部に監視と工作のため送り込んだ手下の一人がアンジェリカ姉さんだ。そのアンジェリカ姉さんと友人とはいえ、情報の遣り取りをしているアイーシャさん。ジギスムント艦隊が合流しない事も知っていたし、ジギスムント王国が内戦一歩手前だという事も把握している。上位銀級冒険者でもあるこの女性は一体何者だ?
「はい。冒険者ギルドナヴォーリ支部副ギルドマスターは仮の姿。詳しくは言えませんが、私はジギスムント国王が直轄する特務部隊の工作員です。ナヴォーリへは副ギルドマスターとして送り込まれています」
要するに不二子ちゃんとか、009ノ1というか、ナジカ電撃作戦的な女スパイとかエージェントという訳だな?
「市長に入れ知恵したのもアイーシャ、君か?」
「はい。アンジェリカからホルスト様の情報を得てこの構図を描き、市長に進言しました」
俺という存在ありきで進められた計画か。全く、俺がナヴォーリに行くの止めていたらどうなっていたのだろう。
「そんで?ゾフィがナヴォーリにいるのも偶然じゃないんだろ?」
「流石にわかっちゃうか。そうよ、私はアプロス教団からの要請でね。教団は第一王子を支持しているけど、表向きは中立だから表立ってナヴォーリ市の市長を援護は出来ないの。勇者クリスを向かわせたら大事になっちゃうでしょ?だから無難なところで私に白羽の矢が当たった訳」
弓聖だけに白羽の矢とか。って言うか、こっちの世界にも白羽の矢という表現がある事に驚きだ。そんな事を考えていると、ふつふつと怒りが込み上がって来る。人をいいように利用しやがってな。
「何と言うかな、複数他者によって作られたゲーム盤にまんまと誘い込まれた感じだな。それで俺が最後の駒か?どいつもこいつも舐めた真似しやがって。この落とし前はどう着けて貰うかな」
俺の声音に怒りを感じ取ったのか、スリングからメルが顔を出して俺を見上げる。
"ホルスト、怒る気持ちはわかるけど、事はここまでに至ってるんだからもう最後までやるしかないんじゃない?落とし前は後で考えるとして、ね?"
「それはそうだけど。う〜ん、まぁ、メルがそう言うのなら仕方ないな」
俺とメルの遣り取りを怪訝な表情で見るアイーシャさんとゾフィ。
「そ、それはよかったわ。でも、ホルストって本当に猫と話してるの?」
ゾフィが恐る恐る訊いてくる。
「そりゃあまぁ、っていうかそんな事はどうでもいい。事ここに至ったからにはナヴォーリを全力で守る。だけど、それは第一王子派に与する訳では断じて無い。権力者どもの争いに巻き込まれ虐げられる人々のために俺は戦う。そこを覚えておけ!いいな?」
「「は、はい!」」
俺の放つ威圧に震え上がったアイーシャとゾフィが揃って返事をした。もう遠慮はしない。アイーシャにだって「さん」なんて敬称付けないからな!
「よし、じゃあまずは艦隊司令に意見具申だ。二人とも着いて来い」
「「はい!」」
うむ、いい返事だ。
〜・〜・〜
俺達は艦隊司令のモロアッチ提督の元を訪れ、俺の意見、というか提案を具申した。
ガレー軍艦同士の海戦は、前世で得た知識によると船同士が火矢で撃ちあったり、衝突して衝角で船体に穴を開けて浸水させて沈めたり、接舷して乗り込ませた海兵による白兵戦で船を奪う、といものだった。そこにローマがカルタゴ艦隊に使った「カラス」だとか、ビザンティン帝国が使った火炎放射器「ビザンティンの火」といった新兵器が登場しつつも、艦砲の導入まではそんな海戦が続く。
この世界では艦砲は発明されていない。多分海戦は前世の世界での艦砲導入以前の海戦が行われる筈だ。ただ、この世界には魔法があり、乗り組む魔術師の魔法による攻撃がある。
そこで、俺が提督に具申したのは、魔法には魔法、より強力な魔法で戦いましょうというもの。
「ホルスト殿、それはいいとして、具体的にはどのように仕掛けるのですかな?」
提督は内心はどうあれ、嫌がる素振りも見せず俺の意見を聞いてくれ、そして至極真っ当に尋ねた。
「はい、私が能力を使って敵艦隊に強風を吹かせます。それによって隊形が乱れた艦隊に真正面から突っ込み、衝角で沈めるという物です」
艦隊参謀はそれを聞いて何やら私語を始めるも、提督の一喝で鎮静する。
「ホルスト殿、実は市長からホルスト殿の意見具申や提案は可能な限り聞き入れるよう"助言"がありました。只今の作戦はホルスト殿の能力で本当に可能であるなら採用したくありますが、大丈夫なのですな?」
提督の口調は丁寧ではあるものの、そこには嘘、偽り、大言壮語は許さないという鬼気迫るものがあった。それはそうだろうと俺は
思う。提督の肩には艦隊員の生死ばかりか、ナヴォーリ市の命運が掛かっているのだから。市長の助言がなければ俺など船に乗せもしない筈だ。きっと市長の助言すら心良く思っていないだろう。戦闘は軍人に任せて政治家が口出しするなと。
「無論です。出来ない事は言いません」
「わかりました。では協力して頂きましょう」
「はい。全力を尽くします」
提督からGOサインが出たので、その後の打ち合わせをアイーシャとゾフィとする。
「モロアッチ提督は見敵必戦で行くという。敵艦隊もおそらくそうだろう。敵はオーラン群島を根拠地としているが、あそこは水場も殆ど無い岩だらけの島だ。そこへ艦隊を派遣しても長時間留まらせる事は出来ない。十中八九、艦隊決戦に撃って出る筈だ。そこへ俺が竜巻を起こしてぶつけ敵艦隊の隊形を乱す。ナヴォーリ艦隊は突入するから、俺達はゾフィが矢で遠距離から牽制、俺とアイーシャは敵の旗艦に乗り込んで、戦闘は海兵隊に任せて幹部を生け捕る。いいな?」
「「はい」」
二人揃って返事をすると、ゾフィが俺に尋ねる。
「ガルメーラ艦隊を潰しても背後からジギスムント艦隊が襲って来るかもしれないわ。その時はどうするの?」
「ナヴォーリ艦隊はガルメーラ、ジギスムント両艦隊よりも数が少ない。それは一見すると不利に思えるけど、その分、艦隊運動はナヴォーリの方が小回りが効いて一日の長がある。そして両艦隊は合流する訳では無いから、ジギスムント艦隊も同じように各個撃破すればいい。そのためにもガルメーラ艦隊を可及的速やかに叩く必要があるけどな」
ゾフィは「わかった」と言って頷くと、妙にキラキラした瞳で俺を見つめる。一体、何なんだ?
〜・〜・〜
ナヴォーリ艦隊の航海は順調に進み、その日の午後にはオーラン群島近海に至ると、早速待ち構えていたガルメーラ艦隊に発見された。
双方、互いに認知すると、ナヴォーリ艦隊のモロアッチ提督は作戦通りにガルメーラ艦隊を撃滅すべく、艦隊を旗艦を中心とした凸隊形に編成した。
俺は旗艦マーレドラゴ号の前甲板に立つと、艦橋に振り向く。すると提督が黙って頷いた。
俺の両側にはアイーシャとゾフィが控えている。
「いくぞ?」
「「はい」」
ここで俺は11番目の平成ライダーの能力を出現させる。
「サイクロン!」
俺のその叫びにより旗艦の前方には竜巻が発生。徐々に大きくなりながら勢いを増し、前方に展開するガルメーラ艦隊へとサイクロンは突き進む。
サイクロンの存在に気付いたガルメーラ艦隊は慌てた様子で各艦ごとに退避運動を始めるも、サイクロンのスピードが早いためとても間に合わない。
サイクロンの直撃を受けた前衛のガルメーラ艦は弾き飛ばされて僚艦に衝突して両艦ともに転覆。俺はサイクロンを左右に振って艦隊を蹂躙させると更に転覆する船が続出。そしサイクロンが消滅する頃にはガルメーラ艦隊は凡そ1/3の艦が横転、沈没していた。
浮かんでいる艦も船体に損害を受けた状態。帆は破れ、マストは倒れ、或いは舵が破損。乗組員も吹き飛ばされ、無傷な艦は1隻たりとも無いようだ。
俺はちょっとやり過ぎちゃったかなと思いつつ、再び艦橋に振り向いてモロアッチ提督に親指を立てると、提督は麾下の全艦に敵艦隊への突撃を命じた。
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それでは次話もお楽しみに!




