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第59話 もう一人の部下ってお前かよ

「海軍基地までやって頂戴」


ギルド支部の車寄せに待機させていた馬車に乗り込むと、アイーシャさんは馭者に行先を告げた。


いつもの執務用の服と違う戦闘スタイルだからか、おっとりした口調がまるで女戦士のようになっている。


アイーシャさんに続いて俺も馬車に乗り込むと馬車は動き出す。時間が惜しいとばかりにアイーシャさんは俺に今回の海賊討伐についての説明を始めた。なんとなく自分が社用車の中で秘書からスケジュールの説明を受ける社長といった感じがする。


「ホルスト様には基地に着きましたら海軍のモロアッチ提督にお会い頂き、艦隊の出航準備が出来次第旗艦付き臨時特務士官として乗艦して頂きます」


「アイーシャさん。俺が旗艦付きになるって事は、誰かの意向が働いているのかな?」


「はい。市長の意向だと聞いております」


市長か、なるほど。


ナヴォーリのギルド支部に所属していない金級冒険者の俺に招集に応じる義務は無い。そんな俺に指名依頼した場合は正規の報酬を依頼者は支払わなければならない。しかし、俺が招集に応じた後なら戦時招集に応じた報酬で済む。こんなシナリオを書けるのは一人しかいない。


"本当、女狐だな、この(ひと)は"


"でしょ?だからこの女は女狐だっていってるしゃない"


「どうかなさいましたか?」


アイーシャさんは俺とメルが念話で話し合っている様子を怪訝そうに窺う。


「いえ、続けて下さい」


俺は何でもない風を装ってアイーシャさんに説明の続きを促した。


「旗艦には私もホルスト様の部下として乗艦します」


「ええと、それはどうして?」


「はい。善意で招集に応じて下さったホルスト様を一人で軍艦に乗せて戦場に送る訳にはならないとの市長からの意向がごさいまして。ですから、この度の出師では私ともう一人がホルスト様の部下として補助に当たりますので宜しくお願いします」


確かにいきなり旗艦に乗れと言われても、そこに知り合いがいるという訳でもないし、勝手がわからず厄介者扱いされるのが関の山だ。だからアイーシャさんが部下として付いていればそうした煩わしさは多少緩和されよう。


駄菓子菓子、この世界では軍艦に女性が乗ることのタブーみたいのはないのだろうか?それから、俺の部下という事だけど、アイーシャさんの実力はどうなんだろうか?気配や佇まい、足の運びなんかを見ると強そうではあるけれど、やはり本人の口から聞いておきたい。


「俺、山育ちだから知らないのだけど、軍艦に女性が乗る事に関してタブーみたいのは無いの?それから、軍艦に乗るって事は白兵戦もあるかと思うけど、アイーシャさんの実力のほどは?」


「軍艦に女性が乗る事に関しては何も問題ありません。それと申し遅れましたが、私これでも上位銀級冒険者でもあるんですよ?」


上位銀級とは恐れ入った。


「なるほど。上位銀級なら問題ないか」


「はい」


海軍の作戦についてはわからないとの事だった。まぁ、それはそうだ。作戦内容が漏れていたら大変だからな。


〜・〜・〜


ナヴォーリの港にある海軍基地に到着。その足でモロアッチ提督の元へ着任の挨拶に訪れる。


幸いにモロアッチ提督は在籍していて、直ぐに会う事が出来た。提督は50代の少し太った好人物で、顔の下半分は白い髭で覆われた沖田艦長とかキャプテンサンタとかを想像して貰えればいい。


「海賊船を2隻沈め、我が街の船を守って下さったと聞いてます。そのような猛者が味方とは実に心強い。宜しくお願いしますぞ」


「こちらこそ、微力を尽くします」


提督とガッチリ握手。「ふんっ、孺子(こぞう)は精々邪魔にならぬよう隅にでもいれば良い」くらいの事を言われるかとちょっと身構えたけど。


"歓迎ムードなんじゃない?"


"リップサービスなんだろうけどな。それさえ無いよりはいいな"


周りに気取られないようにメルと念話を交わす。


その後、案内の下士官に従い基地敷地内に充てがわれた官舎に移動すると、アイーシャさんの他に俺の臨時部下となる冒険者を紹介された。それが何故か知った顔なんだけど…


「ホルスト、久しぶり。王都に行くとか言ってたのにこんな所にいたのね?」


ツンとした表情でそう言うのは、ラースブルグでいろいろとあった勇者パーティ、その弓聖であるエルフのゾフィだ。


「…なんでゾフィがここにいるんだ?」


「何でって、誰かさんのせいで剣聖のパーティ参加が遅れてるから、ちょっと暇を貰って武者修行に出ていたのよ。それでたまたまナヴォーリに来てみたら海賊退治するって聞いて参加させて貰う事にしたの。文句ある?」


「いや、別に文句は無い。世の中狭いものだなと思っただけだ」


こんな偶然ってあるんだろうか?何か作為的な感じがするのだけど、俺の考え過ぎか?


「まぁ、多少なりとも知った者がいる方がやり易いか。宜しく頼むよ」


「こちらこそよろしくね。隊長さん?」


ニッコリ笑うゾフィを見て、やはりこれは裏でいろいろあったと思わざるを得ない。アイーシャさんに視線を向けると「何か?」という感じで小首を傾げて惚けられたけど。


これはおそらく何か知っているだろう。この女狐さん、裏切ったりはしないだろけど、やはり信頼は出来ないと思った。


〜・〜・〜


明くる日、出撃する将兵への壮行会が市長主催で行われるとの連絡を艦隊司令部から受けた。


そこで市長から激励を頂くというのだけど、何故かそこで俺達3人の紹介もされるのだという。


「アイーシャさん、何で俺がそんな事しないといけないんだ?」


「ホルスト様とゾフィ様、そして私の3名で義勇冒険者パーティという括りになっています。市長としては街の危機に二つ名持ち金級冒険者と勇者パーティの弓聖が駆け付けてくれたと市民にアピールし、将兵の士気を高めたいのでしょう」


そんな事をしれっと答えたアイーシャさん。俺がそのシナリオを書いたのは誰かと尋ねると「さぁ、存じません」としらばっくれた。


メリッサの父であるナヴォーリ現市長も強かな策士だけど、誰かしら入れ知恵した者がいるはずなのだ。


「まぁ、そんな事どうでもいいじゃない。紹介されたら笑顔で手でも振っておけばいいのよ」


「流石は勇者パーティの弓聖様だ。こうした場面に慣れてらっしゃる」


「ふふ、まぁね」


こいつも可愛いく綺麗な顔して図太い神経しているな。


〜・〜・〜


「かつて我々の祖先がこの地にナヴォーリの街を築いてより幾百年。祖先達は何代にもわたり血を流して街を守り、汗をかいて繁栄を築いてきました。ですが、今、我々の街はかつて無い危機に直面しています。強大で正体の知れぬ海賊団により我々の生存が脅かされているのです」


市民達、海軍や衛兵隊の将兵、招集された冒険者達が魔法により拡声された市長の演説を傾聴している。


会場は官庁街に隣接する円形のコロッセオで、ローマの遺跡より見た感じ小さめかな。ローマに行った事は無いけど。


競技場には海軍と衛兵隊の将兵が整列し、客席には前列に市議会議員とその家族関係者が、中後列に市民達が席を取り、客席はほぼ満席だ。ナヴォーリ市の都市部人口は約5万人と言われていて、コロッセオの収容人数は約3万人。つまり、このコロッセオにはナヴォーリ都市部に在住する市民の大部分が集まっている事になる(ナヴォーリ市の領地は街外にもあり、幾つかの農村と漁村がある)。


「祖先達が築き上げた我々の故郷たるこのナヴォーリと繁栄は我々の物であり奪われる事があってはなりません。かつて祖先達はナヴォーリの独立と尊厳を守るため数多の敵と戦ってきました。その度に血は流れ多くの犠牲を出しています」


市長の演説もいよいよ佳境に差し掛かった。俺達は壮行会のために作られた舞台上で熱弁を振う市長の後ろで用意された椅子に座っている訳だけど、あ〜早く終われ〜という感じで市長の演説を聞いている体で座っている。


「誇り高き市民の皆さん、勇敢なる兵士諸君、我々もナヴォーリを守るため海で陸で戦う事でしょう。そして必ずこの戦いに勝ち、次の世代に勝利の叙事詩と共にこのナヴォーリを引き継がせようではありませんか!」


ここで競技場の軍人達が右腕を上げて「おおっ!」と雄叫びをあげると、それに呼応するようにあちこちに仕込まれていた桜達(多分)が一斉に立ち上がり拍手を始める。そして、それに感化されたように市民達は立ち上がって拍手、或いは何か市長や軍を讃える叫びを上げたりと、コロッセオは忽ち拍手喝采に包まれた。


市長は軍人達や市民達に手を振って応え、やがて喝采が止むと、徐に後の俺達に振り向き、アイーシャさんから市長の横に立つよう促された。遂に俺達の出番という訳だ。


「この戦い、我々は孤独ではありません。このナヴォーリの危機に金級冒険者のホルスト様と王都から勇者パーティの弓聖ゾフィ様が馳せ参じてくださいました」


再び客席から響めきが起こる。


俺とゾフィは打ち合わせ通りに立ち上がって客席似向かって大きく手を振った。



「正に神々の加護は我等がナヴォーリにあり。ナヴォーリ、ラウーレ(ばんざい)!」


ナヴォーリ、ラウーレ!ナヴォーリ、ラウーレ!


コロッセオの市民達、軍人達の誰もがナヴォーリ、ラウーレを叫び、大盛り上がりのうちに壮行会は終わった。市長は客席に手を振りながら側近等と共に舞台を後にする。


やっと終わったか。全く、やれやれだぜ。


「何してるのホルスト、行くわよ?」


ゾフィに声をかけられ、俺もナヴォーリ艦隊旗艦マーレドラゴ号に乗り込むべく席を立った。


いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!




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